お見合いと衝撃の事実
ドルク教、それはオルド教派の隣接する支配地域を持つ宗派だ。
全ての存在は愛の元に平等、とか曖昧過ぎて意味が分からないオルド教と対立する宗派である。
教義として、簡単に言っちゃうと強さこそ全てな宗教であり、あらゆる問いに対して強ければ問題ないみたいな解答する宗教である。
つまり、シンプルじゃないと分からない脳筋しかいない宗教なのでオルド教と仲が悪いのだ。
そのドルク教というのは山岳地帯を支配地域にしており、五つの派閥に分かれている。
それぞれが管理する山に住み込み、そこで修行しては数年に一度集まって戦い、一番強い奴がドルク教のトップになる、脳筋に分かりやすい宗教だ。
主に、山の男に信仰されている。
その派閥の一つである鋼山派、そこからルージュの所にお見合いの話しがやって来たのだ。
厳かな山々の斜面、そこに人を乗せたドラゴンがいた。
その背中にはうーうー言うルージュを乗せた俺である。
「良いじゃないか、お見合いするぐらい」
「嫌よ、リアルの男なんてクソよ」
「ブレないな……」
「だいたい、ドルク教って馬鹿しかいないわ。例えば争いを無くすにはって聞いたら強くなりましょうって返ってくるのよ。強さこそ真理とか言ってる時点でゴリマッチョしかいないのよ!」
その言葉に俺はオークみたいな天使を想像した。
照りつける肌、ムキムキの胸筋、ボディビルダーのような天使がポーズを取りながら笑顔で出迎えてくる。
「嫌過ぎる!」
「でしょ!しかも、何で山に住んでるのよ……お風呂とか修行の後に入れないじゃない」
「きっと、滝とかあるんだろ。修行僧と山、定番って言えば定番だぞ」
少林寺みたいな感じだろ、アレって山の中かは知らないけどな。
山の高度が上がり、肌寒くなってきた頃になると周りの景色が変わってきた。
ゴツゴツした岩と草原、そして……
「な、何だアレ!?」
「座禅した状態で跳んだ!?てか、こっち来た!」
此方に向かってくる修行僧達。
四方八方から湧いて出て、全員が座禅を組んだ状態で跳ねて近づいてくる。
服装はトーガのような布の服で、剥き出しの筋肉が汗で輝いてやがる。
そして、立場的に上の人間であろう年老いた僧侶が息を切らしながらやって来た。
「そこの御仁、待たれよ!」
「は、はい!」
逃げ出そうとした俺達に制止の声が掛かる。
正直、普通に歩けばいいと思うんだが。
「女人禁制であるこの山に来るとは、ルージュ教の使いで間違いないか?」
「使いって言うより教主だけど」
「なんと!では、しばし待たれよ!」
ピョンピョンと軽快な動きでどこかに跳んで行く偉い人。
そして、何故か俺達の周囲を囲む座禅を組んだ僧侶達。
もしや、監視かなんかだろうか。
「うぬぅ……雑念が」
「ふ、不覚!」
「静まれ、静まりたまえ!」
何故か俺達を見ながらブツブツ言いだす僧侶達。
正直、訳が分からないよ。
「何か、視線がやたら胸に……気持ち悪い」
「ハッ、謎は全て解けた!」
「どういうこと?」
「女がいない環境、そこでルージュ、きっと欲情しているんだ!」
その言葉を聞いて、ルージュの目が少し大きく見開いた。
そして、自分の身体を見てから僧侶を見てスカートの端を軽く摘まんで――
「なんと、奴は悪魔か!」
「ぐぉぉぉ!己、煩悩退散ぁぁぁぁん!」
「なんたる試練、惨過ぎる……」
――ヒラヒラさせて遊び始めた。
その度に苦しむ僧侶達はなんていうか、シュールである。
「ここってムッツリな奴しかいないのかしら?」
「やめたげてよ!見ていてこっちが恥ずかしいよ!」
そんな感じで戯れていると、さっきのオッサンが戻ってきて俺達を神殿とやらへと案内してくれた。
神殿と言うのは名ばかりだった。彼らが案内したその場所は、タダの洞窟である。
ゴツゴツした岩壁を削り取って穴を開けた代物であるらしく、修行僧の拳によって長い年月を掛けて作られてるそうだ。
洞窟の中は、坑道と言った方が正しいくらい薄暗くてジメジメしていた。
まだ、ダンジョンの中の方が快適であるなと思いながら進んでいくと目的地に着いたようで無理矢理つけたような木製のドアが見えた。
「この先に、ドルク様がおる。無礼の無いよう頼みまずぞ」
「ドルク?えっ、ドルク教の一番偉い人じゃない!?」
「ドルクはドルクでも鋼山派のドルクですぞ」
何を言ってるのか全く分からないが、つまりドルクってのはたくさんいるのだろう。
もしかしたら改名してるのかもしれない。
戦国時代の武将もコロコロ名前変えてたし、武将みたいなもんだからあり得る話だろ。
「良く分からないけど、まぁいいわ」
「ふむ、では後でご教授してあげましょう」
「あっ、間に合ってます」
そう言って、ルージュはドアを開けて中へと入って行った。
残された俺とオッサンはしばらく見つめ合って、じゃあと軽く会釈して俺も後に続いた。
オッサンの引き攣った笑顔が印象的だった。
中に入ると、武骨な岩肌の壁で出来た六畳程度の部屋だった。
そこで、ルージュは一言ある物を見て洩らす。
「あっ、これモンスターだ」
それは、床に敷き詰められたモンスターの毛皮。
虎に似たモンスターの毛皮が床に敷いてあった。
他にも壁にはオークからユニコーンまで様々なモンスターの首が掛けられており、虫系モンスターの標本まである。
「俺のコレクションは気に入って貰えたかな?」
「何奴!?」
咄嗟にルージュは声のした方向へと攻撃した。
反射的に鋭い貫手が天井に向かって放たれる。
「おっと、危ない危ない」
しかし、それは金属がぶつかり合うような音と共に何者かの肌に弾かれた。
上から声を掛けた人物、それは快活そうな青年だ。
なんと、天井に両足を着けて逆さまに立っているのだ。
「に、忍者!?」
「アイエェェェェ、ナンデ」
「にん……なんだ、それは異国ではそういうのがあるのかね?」
困惑気味で青年は軽く飛んで床に着地した。
僧侶には見えない、赤い髪にバンダナのような物を付けた、ちょっと目付きの鋭い青年だ。
しかし、鍛えられた身体は細くてもガッチリとしていてマッチョである。
「堅苦しいから簡単に、俺はドルク。たくさんいるけど、鋼山派のドルクだ」
「ルージュよ」
「他にないのか?」
「ないわ!」
胸張って、そう声を張り上げるルージュ。
人見知りだったのに初対面の人間とこれだけ喋れるなんて、成長したな。
「ふん、まだ子供じゃない。アンタが私と婚約したいって言ったの?」
「いやいや、周りがな。俺は面倒だから嫌だったんだけど、まぁ会って見たかったしな」
「ふーん、マセてるのね。それで、どうして会いたかったの?」
「あぁ、俺の叔父が大陸の向こうで死んだからな。殺した奴を一目見たかったんだ」
いきなりの発言にルージュは固まって、何の事かと首を傾げる。
対して、ドルクはニコニコと笑ったままだ。
「人違いよ、私知らないわ」
「俺の友達っていうか息子?まぁ、持ち神は遠見の加護を与えてくれんだ。見てたぞ、アンタが叔父と殺し合ってたの」
「えっ、ちょっと待って……」
瞬間、俺達の脳内にある人物が思い浮かんだ。
いや、まさか……
「叔父さんは太ってる?」
「あぁ、怠けてたからな」
「顔がオークみたいだったりする?」
「そうだな、あそこに飾ってる顔みたいだな」
「あ、アイツかー!」
そのまさか、大陸に侵攻してきたデブの事だった。
遠見の加護とやらで俺達が戦ってたのを見ていたのか。
「まぁ、弱いからしかたないよ。それから海を割って、影から部下を出して色々やってたよな。あと、変な食べ物とか変な遊びとか、村も支配しちゃうし色々と裏で手を引いてたり」
「ちょ、ちょっよ待て!なんで知ってるのよ!」
「全部見てたから、遠見の加護は場所に関係なく見る事が出来るからな」
「えっ……マジで?お風呂場とか夜の私室とか?」
「あぁ、スゲーエロイよな!一人の時とか服脱いで――」
「記憶を無くせぇぇぇぇぇ!」
ルージュの剛腕が螺旋を描いてドルクを穿つ。
四六時中監視していた、プロストーカーのドルクを殺さんとばかりに叩き込まれる。
しかし、その拳はドルクの腹部に当たった瞬間弾かれる。
ドルクはその手を掴み、そして頬擦りした。
「キシャァァァァァ!?」
「女としては上げてはいけないような悲鳴だな」
「は、離しなさい無礼者!」
その怒鳴り声に、しょうがないなと言ってドルクは離れる。
ルージュは頬擦りされた腕をハンカチで拭きながら、警戒した。
「さ、最悪!最悪よ!殺すわ、絶対に殺す!」
「いいね、君と殺し合うなんて最高だ」
「ヤバい!コイツヤバい、ヤンヤン助けて!」
そうルージュは俺に助けを求めてくる。
よし、ここは俺が一肌脱いでやろう。
「あぁ、そうだ。俺は皮とか以外興味無くて保存してある肉とかあるんだけど、食べるよね?オークの肉とかあるよ」
「ルージュ、まずは理解しないといけない。歩み寄る事が大事だ、対話が必要だ」
「懐柔されてんじゃないわよ!食い気ばっかり、ご主人様が可愛そうだと思わないの!」
大げさな、たかが裸を見られたくらいで何だと言うのだ。
俺なんかいつだって全裸だぜ、全裸で生活してるから理解できないわ。
「別に、良いじゃないか見るくらい。影から見られるか、どこかから見られるかの違いでしかないのだ」
「ちょっと待って!今、影から見られるとか言った?言ったわよね?じゃあ、お風呂とか?」
「みんなで見てるぞ、風呂場で二の腕をプニプニして太ったのか悩んでる姿とか、下着姿でセクシーなポーズの練習とかな」
「いやぁぁぁぁぁ!殺せ、殺してくれぇぇぇぇぇ!」
ルージュの絶叫が洞窟内に響き、騒ぎになったのは言うまでもなかった。




