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聖気を纏いし、四人の戦士

上空から見渡すと巨大な円が見えた。

三重の円、その中心部には巨大な城。

城を囲う壁、そこに集まり生活を始めた人々を守護する壁。

人が壁の周りで生活をすれば囲う壁を作り守護する。その繰り返しは、三重の円を描く都市を築いていた。

暗黒大陸と呼ばれる地域では最もありふれた都市の形が、そこにはあった。


初めは小さな村だったそれは、今では都市と呼ばれる規模になっていた。

その都市の名はホールタウン、ルージュの住んでいる場所である。

ホールタウンは周囲から独立した防衛から生産まで自己完結しいる都市であり、穴のような形状からその名が付いた。

その中央に位置する城内、底冷えする寒さの地下の部屋にて神と領主が相対していた。


「最近、何もしないけどこのままでいいのか?」

「問題ない。トナン、君は宗教について考えたことがあるかな?」

「宗教だって?」

「宗教と言うのは、逃避だ。人は死を厭い死後の安寧を願う。日々の苦しみから理由を求め縋る存在を求める、集約すれば恐怖からの逃避だ。だから私が与えよう、死を克服し人の苦しみから解放してやろう。さて、そんな私の存在を知っている人々は死に直面した時にどんな反応をするのかな?」


神であるトナンは目の前で笑う人物の言葉を反復して一つの結論に至る。

それは意図的な災害の発生、これから何かが起きる予感がした。




その日は雨が降っていた。

ホールタウン周辺では久方ぶりの貴重な恵みの雨だった。

人々は喜び、そして三日続く頃には不満を漏らし、一週間も雨が降りつづける頃には恐怖した。

雨雲のせいで草木は光を遮られて、大量の水によって枯れて行く。

常に振り続ける雨によって生活は困難になり、貧しい者から病を患った。

聖気で治療しようが次の日には誰かしら病を患い、いつしか増え続ける病人に治療出来る者が足りなくなった。

飢餓と体温を奪う雨、少しずつだが死人が出た。

そして一月が続く頃、疫病が発生した。


ある地域では対照的に雨が降らなくなった。

その地域の人間達はいつもの事だと気にしなくなったが、三日目には不安に思い、一週間が過ぎると日照りだと判断した。

田畑は枯れ果て、熱中症で倒れる者が現れる。

夜が存在しない白夜大陸では碌に休む事も出来ず、太陽によって死人が出ていく。


いつしか人々はオルドの配下に縋った。

自分達の地域を守護している彼らに助けを乞うたのだ。

だが、彼らも多くの地域からの嘆願に振り回され手が足りなかった。

だから、人口の少ない、信仰の少ない地域は後回しにされた。

見捨てた者達から信仰は失われ、助けを求める者達を救う事が少しずつ難しくなった。

だから更に見捨てる地域が増えた。

主要な地域だけ救う彼らからは更に信仰が失われていく、その悪循環は彼らを弱体化させた。


そして暴動が起きた。誰かが発したオルドは呪われているという噂が災害によって真実味を増し、不満が爆発し、救われる主要な地域の民衆を見捨てられた地域の民衆が嫉妬したのだ。

暴動によって主要な地域は結界に覆われ、交易が出来なくなった。

すると物資が不足し、内側から暴動を起こす者達が現れた。

人々がお互いに争い、怒りの矛先が施政者やオルドの配下へと向かって行く。

治療や結界を張る彼らは体力が必要な為に優先的に食料が回っており、それが民衆の嫉妬を煽った。

信仰が減り、救える者達が減り、悪循環がオルドの地域を弱体化させていく。

それに比例する様にルージュの元へ信者達が救いを求めに行く事が多くなった。

それを知り、ついにオルドはある命令を配下の者達に発した。




ルージュは城に作られたプールサイドで日光浴をしていた。

ジュースを片手に、日課となった天候操作を片手で行う。

ある地域の雨雲をよその地域に風で運ぶだけの簡単な作業だ。

そんなルージュの元に、定番とかした自宅警備員であるトナンの叫び声がした。


「大変だ!オルドが宣戦布告してきたぞ!お前が何かしたってバレてんじゃないか!」

「随分と遅かったわね、誰かのせいにしないのは大陸柄なのかしら?食糧難から戦争なんて当たり前でしょうに」

「普通は施しで助け合うんだよ!もう限界が来たんだ!」

「まぁ、慌てない慌てない」


寧ろ願っていた展開だと、ルージュは意気揚々と立ち上がる。

ルージュが呪ったと随分と不確かな事を理由に戦争を始めたのだ。

暴動を起こす者達を説得させる為とは言え、下策。

信仰の残っている地域の者達は、次は自分達の番だと疑い不安になり、信じる心は失われて疑心によって信仰は失われる。

オルドの宗教に改宗しても元からではない、故に次は自分達の番だと不安になるのだ。


「聖気に依存して、薬学が発展しなかったのも問題ね。魔法に比べると原始的で仕方ないわ」


それに、とルージュは付け足す。

民衆の中に潜ませた配下の虚言に疑う事を知らない民衆はおもしろいように誘導された。

信じる事が当たり前、だから嘘だとは思はないのだ。

明らかな物であれば疑うだろうが、それでも些細な事は疑わない。

随分と愚かな民衆だ、そして信じて尖兵となる彼らに慈悲はない。


「ヤンヤン、行くよ」

「オーケー」


ルージュの声に従い、影の中から黒いドラゴンが現れる。

跨った彼女は敵の元へと向かう様に命じた。

先に奇襲を仕掛ける為だ。




俺の背中の上から命令が飛ぶ。

眼前に広がる黒い地表に向けての命令だ。

それにしても、新大陸の人は聖職者以外みんな肌が黒いな。

日焼けして、痛くないのだろうか。


「アンタ聞いてた?」

「あぁ、何でみんな肌が黒いかって話だろ?アレは紫外線による影響で――」

「何の話してるのよ!もう一回言うわよ、私がかっこよく登場したら相手が動揺するでしょ?そこで私が必殺技を使うから、終わったら上から攻撃して!分かった?」

「オーケー、ボス」


ちゃんとしてよね、そう言ってルージュは俺の背から飛び降りた。

急速に落下し、そして地面を割りながら民衆の前に降り立つ。

そして慌てる民衆、予想通りの結果で嬉しそうである。

不敵な笑みを浮かべて佇んでいるが、楽しそうで何よりである。


「貴様、何者だ!」

「フッ……」


その瞬間、ルージュの身体から発せられるナニカによって人々が倒れる。

息をする事すら忘れ、倒れたのだ。

目の前で倒れた者達を見て後退する民衆、ルージュが一歩踏み出すと同時に彼らも倒れ伏した。


「何だこれは……くっ!?」


遂には民衆の後ろで陣取っていた聖職者の者達まで到達した。

だが、彼らは民衆と違って跪くだけで済む。

ルージュの目の前に立っているのは、四人の男と一人の女だけだった。


「私は呼吸を教えてやるほど優しくはないぞ」


決まった!数日掛けて考えたルージュの決め台詞。

実は彼らは霊圧に……ではなく、上から薄く伸ばした大量の聖気に押しつぶされていたのだ。

さて、そろそろいいかな?


「これは流水湖歩拳……いや、似ているだけか?」

「さぁ、許しを乞え。楽に死なせてやるぞ」

「舐めたこと――」


喋っている最中だが、俺はルージュの命令を遂行するべく極大のブレスを放つ。

口腔から放たれる、直線状の光、巨大なビームが右から左に一閃。

数秒の沈黙の後、巨大な爆発が巻き起こり民衆を飲み込んだ。



「ちょっと、何か言ってる最中だったじゃない!私が薙ぎ払えっていうまでダメでしょ!」

「早過ぎたんだ……喋ってやがる」

「そうよ、喋ってたのよ!まったくもう、まったくもうだよ、まったくもう!」


何度も地団駄を踏むルージュ、その度に地面に罅が入るのだから恐ろしい。

だが、俺はアレくらいじゃ死なないと思っていた。

魔力で練った攻撃だから、結界を張れば余裕だと思うのだ。

まぁ、すぐさま結界を張れるかどうか知らないけどな。


爆風によって生じた砂塵が晴れる、溶けて黒く変色した大地には所々赤い部分もあり恐ろしい熱を孕んでいることが分かる。

そんな場所で、唯一変色していない場所があった。

四隅に配置された人に、一人を真ん中にした状態で三角錐の結界が張られていたのだ。

どうやら周囲の四人を起点に結界を張ったみたいだった。

ルージュの目の前には五人の天使しか立っていない。


「野郎……奇襲とは卑怯だぜ」

「しかし、何とか結界を張る事が出来た」

「オルド、大丈夫かい?」

「おい、抜け駆けするなよ!」


ルージュの目前で、何やら桃色の空間が出来ていた。

四人のイケメンにチヤホヤされる女、何と言う圧倒的場違い感。

ルージュは生きていたことを喜んでいいのか、怒ればいいのか何だか困惑した顔だった。

俺はそんな彼らを無視して、旋回の後にルージュの横に降り立つ。


「何だろ、何しに来たんだろあの人達?」

「戦争だろ、宗教戦争?」

「可笑しいわ、頭痛がしそうよ……」


やれやれ、と頭を抱えだしそうだった。

敵の目の前で、結界を解いてイチャイチャして何がしたいのか。

今なら不意打ちで殺せるんじゃないかな?


「くたばれ、イケメンが!」


挨拶代わりに熱線を口から照射した。

背中を向けていたイケメンの一人がそれに気付き、フンと軽く地面を蹴った。

瞬間、地面が捲れ上がり盾となる。


「なっ!?」

「奇襲とは、やはり卑怯だな貴様ら」

「聖気を変質させて地面を操作したのか?大司教級なだけはある……」


何感心してんだよ、そんな視線を受けて俺は縮こまる。

いや、初めて見たから仕方ないんですよ。


「悪鬼を従えるとは、貴様ら暗黒大陸の者だな。成敗してくれるわ!」

「見せてやろう俺達の力!」

「司教級以上だけが出来る、真の姿を見るがいい!」

「ハァァァァァ!」


俺達の目の前で、発光する四人の天使達。

光が止んだ瞬間、その姿は露わになる。

青い鎧を纏った四人組が現れたのだ。


「何だろう、この既視感」

「やだ、変身した!本物!本物のヒーローだ!本当にいたんだ!?」

「いや、どうだろう」

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