皇帝の野望
見事アジダバを倒したルージュは首を切り取って再び軍の前に現れた。
一応再生はさせたので、死んだにしては綺麗な顔である。
そしてその首を笑顔で掲げて軍隊達を全員捕縛した。
その後、ルージュはアジダバの連れてきた総勢五千程の軍隊の前で聖職者達に白状させた。
それはアジダバの悪事の数々だ、真実もあればルージュの捏造された嘘も混じっていた。
眷族化したことで、簡単に聖職者達は口を滑らせた。
こうして一連の騒動は終わった。
集まった義勇軍は大量の食糧を持って元の場所へと帰っていく。
ルージュの評判は鰻登りだろう。
また、アジダバの息の掛かった土地をルージュは守護する事になった。
最初は疑っていた民だが、食料が簡単に手に入ると手の平を返すようにルージュに感謝した。
助けてくれない聖人より、助けてくれる吸血鬼を支持するのだから皮肉な物である。
ルージュの守護する土地が増えた事でルージュは防衛面で面倒事が増えたと思った。
結果、村を廃棄させて移民させることにした。
最初は抵抗する村人も何人かいたが、そう言う奴等は次の日からルージュを熱狂的に支持するようになった。
ちょっと、眷族達と出掛けただけだったので不思議な話である。
そして移民してきた者達の家を作り上げ、その周りをグルリと壁で囲む。
二重の円のような、都市が出来上がっていた。
家が全て新しく丈夫な物になり、食料は大量にある。
好きな事をしていいと放置された者達は感謝して、信仰し始める。
すると、今度は噂を聞いてと難民がやって来た。
どうやら交易している商人達から噂が広がっていたらしく、仕方ないので壁の外に難民キャンプのような物を作っていく。
流石にこれからも増えそうだし、守ってやる義理もないので壁は作らなかった。
別に面倒だからとかではないらしい、深い理由があるとルージュは焦りながら言っていた。
そして各所にルージュの眷族が紛れて、ルージュ教の布教が始まった。
日光対策の改造をしないといけないので眷族化はしないが、それでも十分な生活は出来るから信仰はされている。
まさに絶好調である。
「で、そろそろだと思うのよね」
「そろそろって、何が?」
分かりやすい様に都市の中心に移転した城の中、ムスッとしながらルージュが呟いた。
その言葉を拾ったのはルージュに作って貰ったアイスを頬張るトナンだ。
ルージュは、だからトナンはトナンなのよと呆れながら説明し始めた。
「良いかしら、物には限度ってのがあってあるラインまでいい感じになるのよ。でも常にいい感じになる訳じゃなくて、いつかは終わりが来る。つまりそろそろなのよ」
「何を当たり前の事を言ってるんだ、物事が始まったら終わるのは当たり前だろ?」
「いや、そうだけど……つまり、こうして平和だとそろそろ問題が起きるって言いたいの」
まぁ、それも楽しみなんだけどねとルージュは付け足して手からアイスを作り出した。
異空間内で貯蔵しているアイスの素となる液体を魔法でアイスにしてから瞬間移動しているのだ。
無駄に洗練された技術による無駄な事だ、アイスを作る魔法なんて戦いに使えません。
「じゃあ、何が不満だよ」
「暇過ぎるのよ、退屈って私が太陽の次に嫌いな敵ね。殴れないのがムカつくわ」
「修行があるじゃないか」
「脳筋、だからトナンは虫にすら劣るのよ」
「俺って虫以下だったの!?」
えっ、気付いてなかったの?
と、不満をトナンにぶつけるルージュ。
最近多いな、トナン弄り。
それにしても平和も良いけど偶に刺激が欲しいとか、マジ我儘である。
年取ると我儘になるって言うけど、本当なんだな。
「あっ、今アンタ悪口言ったでしょ」
「言って無い、思っただけだ」
「思ったんだ、行けトナン!」
「よし掛かって来いトナン!」
「何で当然のように俺を戦わせようとするんだよ!馬鹿なの、馬鹿なんだろ!」
はぁ、それにしても暇である。
暇だ暇だとダラダラ過ごしていた。
もう季節が一巡したので一年は経ったのだろう。
この頃になってようやく問題がやって来た。
「えっ、邪神襲来?なんて?」
「だから、邪神が来たんだよ!悪鬼は連れてないが、確かにアレは邪神だった!」
「ふーん、魔王様来たんだ」
「えっ、えぇぇぇぇ!?何その反応、知り合いなのかよ!?」
慌てるトナンに紅茶を出しながらルージュは魔王が来たかと呟いた。
これだけ名前を売るような事をしていたら、来るのではないかとは思っていた。
だが、随分と遅かった気もする。まぁ、寿命から考えて一年なんて数日スケールなのかもしれない。
通していいという許可が下り、眷族達が魔王を迎えに行った。
その間ルージュは、魔法でアイスを作り出していく。
無駄だと思われていた魔法が真価を発揮した瞬間である。
そして、ゆっくりとルージュがいる部屋のドアが開いた。
ドアの向こうには眷族にドアを開けさせた、魔王がいた。
見た目はあれから成長して幼女と言うより生意気な少女と言った年齢だ。
丁度、中学生程度か。
「うむ、息災であるか我が四天王が一人、鮮血のルージュよ!」
「開口一番に何ですかその恥ずかしい名前は……鮮血ってそういうお年頃ですか?」
「年齢は関係ないわ!姿形など、変えられるのだから感性の問題よ!」
「あっ……」
つまり、手遅れだなとジトっとした目で魔王を見る。
魔王も心なしか居心地が悪そうである。
「取り敢えず、アイスた――」
「うむ、食べてやろう!おぉ、この甘味はたまらん!」
「――ハッ、いつの間にか取られた!」
一瞬の隙を突き、鋭い手の動きは一点に絞られた。
それはアイスの乗った小皿である。
この魔王、全然成長してねぇ……
「そういえば何でお前ここにおるんだ、暗黒大陸は任せただろ?」
「暗黒大陸?あぁ……あっちの事か」
「此処の奴らはそう呼ぶからな。因みにここは白夜大陸で、余のは浮遊大陸だ」
「はぁ、そうですか」
何だか適当に相手をするルージュ、どうやらヤバいと思っているらしく相槌を適当にしながら必死に言い訳を考えているようだった。
本人は分かってないみたいだが視線が移動しまくっていて、怪しすぎる。
「アレです、休暇ですよ。魔王様、流石にずっと仕事は労働基準法に反しますから」
「なんだそれは、そんな物は知らないぞ」
「ウチの国にあった法律ですよ。仕事には休日がいります、週七日ないとダメです」
「そうだったのか、誰も休みが欲しいと言わんかったから知らんかったわ」
いや、それ毎日が夏休みじゃないか。
あと、お前はスゲー長生きしてんだから騙されんなよ、魔王だろ。
「しかし、四天王だけあって此方でもすぐに城を構えるとはな。お前ほど優秀な吸血鬼は中々出来んよ、人工物と天然物の違いかの……」
「いや知らないです、あと四天王ってやめてくださいよ。少なくともバレたくないんで」
切実にルージュは思った。
信仰を集めてるのに四天王ってバレたら信仰が集まる訳がないからだ。
「聖気集めか?余には使えぬ技術の研究だな」
「えっ、使えないんですか?」
「あぁ、そう言う事か。何と説明してやろうか、いいか貴様らは色に例えると白だ」
「白?急に、何の説明ですか?」
「特性と言うか特徴だ、まぁ聞け。そもそも貴様ら人類は他の世界の生物より世界の法則に組み込まれていないのだ。結果、弱い訳だが利点もある……お前達はどんな色にでも染まる事が出来るのだ」
良く分からない物の例えに、何となくの相槌を打ちつつルージュは話を聞く。
魔王は随分と気分が良さそうに話を続ける。
「魔法も余の管理していた世界の技術だ、他の種族は使えない。だがな、人類だけは違う……貴様らは魔法だろうが聖気だろうが他の世界の法則を使えるのだ」
「つまり、どういう事ですか?」
「弱い代わりに他の世界の技術を利用できる訳だ。まぁ、余が使えないのは人類ではないからだ、分かったか?」
魔王は話を終えると獰猛な笑みを浮かべて、ルージュを見る。
目には怪しい光が灯り、口角は吊り上る。
「どうだ、謀反でもしたくなって来たか?」
「何言ってるんですか、そんな気ないですよ……」
「いつでも良いぞ、野心を抱く者は好きだからな」
「どんだけ、私に逆らわせたいんですか……」
やれやれ、と言った風にルージュは視線を逸らした。
だが、内心では野心を研ぎ澄ましていく。
魔王は裏切られる事を待ち構えている。
自分の考えを知っていて、それでも勝てると驕っている。
その傲慢さ、それは侮辱でしかない。
負けないと思っているのなら、それを打ち砕こう。
だが、今ではないのだ……もっと力が必要だ。
「魔王様、アイスの御代わりは如何ですか?」
「うむ、苦しゅうないぞ!イチゴ味はないのか、バニラはもう良いぞ!」
「はいはい、ちょっと待ってくださいね」
もっと、もっと強くなって奪ってやる。
脇役で終わって堪るものか、世界の中心は私の物だ。
魔王はその後、飽きるまでアイスを食べてから数か月滞在してから帰った。
魔王が帰る際に見えた浮遊大陸を窓越しに見てルージュは呟いた。
「ねぇ、ヤンヤン……魔王との問いかけは覚えてる?」
「何の話だ?」
「私のやりたい事よ、何を為すために闘争に挑むのか?そう言う問いかけよ、ヤンヤン」
「そうかい、それがどうしたって言うんだ?答えでも見つけたのか?」
俺の問いに、視線を逸らさずにルージュは答える。
「見つけたわよ、答え……奴らを引きずり降ろすのよ!自分が世界の中心だって、物語の主役とでも思っている奴らを私が引きずり降ろす!炉端の石ころと侮った事を後悔させてやるわ!」
「ソイツは素敵な話だな、脇役が主役に成り上がる?陳腐だが嫌いな話じゃない。まぁ、俺は寿命まで気ままに生きるから勝手にやってくれ……」
「何言ってんの、当然巻き込むわよ。諦めなさい」
「おっかないねぇ、オーケイだ。しょうがねぇから付き合ってやるよ」




