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二話で完結する予定になってます。

息抜きに書いた作品であり、あらかじめ作ったプロットをことごとく無視した作品でもありますゆえ、作者は「この作品には計画性の欠片もないから、気をつけて」とコメントしています。


本文はとある掲示板に書かれた文ということになっています。

どこにでもありそうな書き方ですが、ご了承ください。

511 名前:美佐子:2011/8/11(日)21:58:18

 

 現在、私は微動だにできない状況下にいます。理由はのちに書きますが、まずはそうなった経緯について、この携帯電話を通してこの掲示板に書き込みたいと思います。


 私は私立桜峰女学院へ通う大学二回生です。


 けれど肩書きとは裏腹に、私は一回生の年の暮れから講義を休みがちになっていて、二回生になってからはさらなる怠惰生活にうつつを抜かしていました。


 下宿のボロアパートに引きこもって一日中天井を見上げていた日もありました。しかし、私は友達が少なくてどうにも大学に赴く気分になれませんでした。本来ならサークルにでも入って充実した日々を送るのでしょうが、もともとから内気な私は大学の和気藹々とした雰囲気に馴染めなかったのです。しかし、田舎に住まう両親へ心配をかけたくないというのもあって、退学のことは頭にありませんでした。


 しかし、そんな私にも人生の転機が訪れたのです。


 大学に通学していないのに親から仕送りを受け取るのは、どこか後ろめたく感じて、私はアルバイトをすることに決めました。給料を貰い生活費をまかなうのは勿論のこと、大学で見出せなかった自身の居場所を職場に求めようとしたのかもしれません。


 私は後日に求人雑誌を購入して、下宿でじっくり考えて仕事を決めました。私の目をひときわ惹いたのは『レストラン ふるぐる』でした。町の東端の浦島海岸に沿った公道脇に腰を据えている飲食店であるようで、私の下宿からも徒歩で通える距離であるし、何より自給がよかったのでそこに決めました。


 そして、数十分に亘り悩んだ結果、勇気を振り絞って電話を掛けました。すると、電話にでた飲食店の男店長は「明日にでも面接にきてよ、履歴書を持って」と言いました。


 そして、アルバイトの面接に行った日に私の人生は一変しました。


 お店の休み時間の合間を縫って面接へ行きましたが、そこで彼に会ったのです。


 名を二ノ宮達也と言い、私より一つ年上の大学三回生です。大学ではテニスサークルに身を置いているようで脈打つような彼の体格には見惚れてしまいました。そこで、「私って、こういう人が好みなんだ」などと自身の知らなかったことに驚嘆して、それ以来は彼を目で追う生活が始まりました。


 面接は特に難もなく簡単に合格できました。


 すると私の生活はアルバイトに染まり、大学への足取りは皆無になりました。このままでは単位がとれなくなると思いましたが、そのとき私の頭の中は二ノ宮君のことでいっぱいで、大学のことなど全く考えていませんでした。


 毎日のようにバイトをすると二宮君にも顔を覚えてもらい、私はさらに嬉しくなりました。すると休み時間には二宮君のほうから話しかけてくれるようになり、メールアドレスも交換してくれて、帰宅してからは毎日のようにメールのやりとりをしました。


 しかし、私達は仲良くなりましたが、それ以上の展開も見せず、何だか不安も出てきました。告白を試みようと考えたこともありますが、やはり失敗して今までの関係が崩れるのは嫌です。どうしようもできずに、ただただ時間だけが過ぎ去りました。


 しかし、春の終わりのことです。


 いつもどうりアルバイトをして、その休み時間でした。二宮君が少し暗い顔をしていたので話しかけたら「やっぱ、美佐子しか頼める奴いない!」と肩をつかまれました。私はそれだけでも驚きましたが、もっと驚いたのは話の内容でした。


 彼は友達に誘われて麻薬の密売の仲介者になったらしく、現在も麻薬を所持しているとのことでした。しかし、ある組の取り引きにいざこざが起こり、取り引き金がどこかに消失してしまったというのです。買い手は「消失しようが金は払ったんだから物を渡せ」と二宮君に迫り、売り手には「金がないなら絶対に渡すな」と念を押しました。双方から迫られるうちに二宮君はどうしようもなくなり仕事を逃げ出そうとしたらしいのですが、そこで売り手の男が「こいつが金を隠したんじゃないか?」と言ったそうで、もしかしたら近いうちに莫大な借金を負わされるかもしれないと言うのです。


 二宮君は仲介者をしていただけであり麻薬には手を出していないらしいので、私はとりあえず安心しました。私が話を聞き終えても軽蔑をしなかったので、彼は「やっぱり、お前しかいない」と言って、こう提案しました。


 二宮君は私に麻薬を預かって欲しいと言うのです。


 彼は今から町を離れてほとぼりが冷めるまで待つらしいのですが、麻薬を所持して引っ越すことになると面倒ごとが生じるようで、その間は私に麻薬を隠し持っていてくれという事でした。そして、もしも借金を背負わされた場合には麻薬を売り払って返済するというのです。


 私はもちろん拒否しようと思いましたが、私は一人暮らしで友達もいないので、見つかることはまずありえませんし、何より二宮君の頼みであるから断りにくかったのです。


 結局のところ、私は承諾してしまいました。


 麻薬を受け取ると、私は下宿の押入れにそれを隠しました。


 そして、二宮君は町を離れていきました。勿論のことアルバイトにも顔を出しません。しかし、メールのやりとりは以前より増えました。よっぽど麻薬のことが心配なのか、やりとりのなかには何度も「麻薬は大丈夫か?」の台詞が出てきました。そのたびに私は「安心して」と返してあげます。


 やっていることは悪事ですが、私は二宮君と秘密を共有しているという優越に浸り、どこか心地いい気もしていました。


 そして、それから二週間後のことです。急に二宮君が音信不通になりました。何度メールをしても返ってきません。私はとても不安になりました。もしかしたら居場所が見つかってしまったのではないか。もしかしたら何か事情があって私を見捨てたのか。色々な悪い予感が頭を巡り、私はもっと不安になりました。


 そして、ここからは今日のできごとです。


 私は最近、アルバイトも休みがちになっていましたが、今日は重い腰を持ち上げてアルバイトに赴きました。二宮君がいないので、大した会話も交わさずに着々と仕事をこなしていました。


 すると、突然『レストラン ふるぐる』のドアが足蹴に開かれて、柄の悪い男達がずかずかと押し入ってきました。そして言うのです。


「美佐子っつう奴はいるか! 出てこい!」


 髪をワックスで固めた一人の男がサングラス越しに店内を見渡しました。お客さんは固唾を呑んで見ています。もちろん美佐子とは私のことであり、私は悲鳴を上げそうになりました。


 立ち竦んでいると、後ろから店長が声を掛けてきました。


「事情は知らないけど、トイレの窓から外へ逃げなさい」


 店長は私をトイレへと促がすと、男達のほうへ割り込んでいきました。


「いや、すみません。今日はあの子、非番でして」


 私は男たちに囲まれる店長を背に、言うとおりトイレへ入り、窓から逃げ出しました。そして逃げながら考えたのです。二宮君は捕まってしまい、麻薬の場所を言わされたのではないかと。そして、私を裏切って「美佐子が持っている」とばらしたのではないのでしょうか。


 私は二宮君に裏切られたことがとてもショックで、海岸沿いの道路を走りながら涙を流しました。信じていた分だけ涙が出てくるようでした。


 もしかしたら、何か深刻な事情があるのかもしれません。しかし、今となっては知りようがありません。


 夜の闇に沈んだ黒い海は、私の気持ちをさらに沈めていくようでした。


 下宿についた私は部屋に入ると、押入れに立てこもりました。隠しておいた麻薬を探し出しで胸で抱えました。そしてポケットから携帯電話を取り出して、今回のこの件を掲示板に書き込んだわけです。


 そして、書き込んでいるうちに下宿の外が騒がしくなりました。いくつもの足音がアパートの廊下を行ったり来たりしています。そして、ついに私の部屋の前で足音はやみました。


 私は気が狂ってしまいそうです。もし捕まえられたら、代わりに私が多額の借金を背負わされるのでしょうか。そうすれば、生活費もままならなくなり、大学も退学しなければなりません。親にも迷惑をかけてしまいます。二宮君とももう会うことはないのでしょう。私の人生はめちゃくちゃです。


 この書き込みを見ている人がいれば、私を助けてください。気が狂ってしまいそうなんです。物音一つでも立てたら居場所が知れてしまいます。私に今できることは、気付かれないように息を潜めているだけなのです。


 ゆえに、微動だにできず。

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