番外編4.もう一人の迷い人はここで祈る
その時の流れ──前か後かどちらに流れたかは分かりませんが──確かに私はここに辿り着きます。
あのとき陛下からお聞きした信じられないお話を、今まさに思い出した私は激しく後悔し頭を抱えておりました。
何故、思い出すのが今なのか。
何故、もっと早く……。
私はもう例の物語を世に送り出してしまっていたのです。
だから私は今日もこの物語を書いています。
どうかどうか。
例のあの御方が、あちらの世界に向かわれる前のあの御方が、この物語を読んでくださいますようにと願って。
陛下。
約束は果たしましたので、どうかその世界で読んだものはお忘れください。
いいえ、それでは足りませんでした。
もう私のような一介の外交官の存在ごと記憶から抹消してくださいませ。
どうかどうか、あの件は何卒よろしくお願いいたします。
陛下がいかに王妃殿下を愛されているか、仔細書いておきますから──!
あれから何日にも渡って私は陛下から話を聞くことになりました。
おかげで容姿や仕草、口癖はもちろんのこと、お好みの香りの調合の割合まで、鮮明に思い出した私は詳しく書くことが出来ます。
お二人が過ごされていた環境も忠実に再現しました。
たとえばお部屋の家具の配置なんて絶対に一外交官が知り得ない情報まで仔細書いてあるのです。
もっと恐ろしいことには、お二人しか知り得ない愛を囁き合った時間の仔細など……これについては陛下が一部だけ特別に教えてくださったのですが。
それはそれで何か良からぬ方向に疑われるのでは?と心配にもなってきますが、そこは向こうで陛下がなんとかしてくださっていると信じましょう。
あの生のすべては思い出せませんが、今のところかつての私がその手のトラブルに見舞われた記憶はありませんし、今は恐れずに書くことにいたします。
今回は挿絵にも口を出しより陛下のお姿に近付けておきましたから、本を手に取って頂けたならあの御方もすぐに思い出してくださるのではないでしょうか。
一方で、この世界の私は苦しんでいることもありました。
元の小説を好んでくれている皆様から非難轟轟なのです。
それでも私はもっと恐ろしいかつてを知っているので、今日も続きを書き綴ります。
あぁ、でもなぜか。
この陛下に捧げる物語で新しいファンを獲得したようでして。
企画ものとして再現した香水がじわじわと売れ行きを伸ばしているのです。
香りだけでも、こちらにいるはずのあの御方に届くとよろしいのですが──。
これにて番外編も完結です。
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