表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

地獄で信長に会いに来た今川義元 ~桶狭間の感想戦~

掲載日:2026/07/29

地獄に来たが、痛くも熱くも苦しくもない。やることもなく、とりあえず一人で安土城を建てた信長のところに「大恩人」がひょっこりやってきた。はたして、その目的は…

【地獄安土城にて 織田信長と今川義元】



「信長。おい信長」


「…ああ?誰の声だ?」


「私だよ」


「……え~と、誰だっけ?」


「何だとっ。私を覚えていないのか?お前の大恩人だぞ」


「俺の大恩人…?顔は、見たことあるような気がするが…。どこでお会いしましたっけ」


「厳密に言うと、会ったことはない。私も、お前の声を聞くのは初めてだ」


「おい、そんなんで大恩人って何なんだよ」


「私は、今川義元だ。お前の大恩人だろう」


「ああそうだ、そのお顔は今川義元殿でしたね。その節は ありがとうございました。おかげさまで、俺の名が上がりましたよ」


「この今川義元に勝ったのだから、当然だろうな」


「でも、思い出せるはずがないよ。あんたが塩漬け首にされてから、ご対面したんだからさ。それまでは会ったことなかったしね」


「まあそうだな。私はお前の顔を、死ぬ前にチラっとだけ見たけどな」


「そうだったの。俺はあんたがあの時、どこにいたのかも分かんなかったんだ。あんたの本隊に突撃したまでは良いが、派手な鎧のやつがたくさんいてさ。誰が誰だか、さっぱり分かんなくてね。そしたら家臣が、首を取りましたって叫んでたから、おい誰の首だよって聞いたら、今川義元ですなんて言うからね。初めはホントかよって思ってたんだ。したら、本当にあんただったからね。ビビっちゃったよ」


「あの時は、お互い顔も知らねえのに戦なんかしてたんだからな。雑兵のふりして逃げれば良かったぜ。恥も何もあったもんじゃねえ。あんなとこで首を取られるほうが よっぽど大恥だったって、死んでから思ったわ」


「悪いことをしたね。でも、あんたが愚将だっていう評価は、400年後くらいには見直されるんじゃないかと思うよ」


「ってことは、やっぱり現世じゃ今頃 私は、愚将扱いなんだな」


「まあね。俺にとっては恩人だけどね。ところで、何か話してて違和感があるんだ。あんたって、何歳だったの?」


「享年42歳だ。私も、お前は小僧だってイメージが強くてな。同じく違和感ありありだ」


「ここじゃ死んだときの歳で固定だからだな。俺49歳だもんな。歳が逆転してたんだな。俺も、あんたが年下だって思えねえよ。すげえスポーツ選手が年下だとはとても思えねえ、あの感覚に似てるかな。でも良いよ。俺はあんたに小僧扱いしてもらったほうが、喋りやすいよ」


「そうだな」


「っていうか、あんたもやっぱり地獄だったんだね」


「あの時代の武将は、死んだらほとんど地獄だぞ。時代のせいだと思うんだが、どうも私たちは悪人判定されがちなんだよ。だから、地獄の住人が爆発的に増える時期が度々あって、地獄の団塊世代って呼ばれているらしいぞ。私たちはこの国で三回目の爆発で、通称〈サードインパクト〉なんだってよ」


「誰がそういうの考えるんだ」


「そこまでは知らねえよ。ただ、地獄にも長くいると、顔見知りが何人もできるもんなんだ。そんで、色んな噂話とか教えてもらうんだよ」


「そうなのか。それにしても、ここって地獄のわりに、痛くも熱くも苦しくもないんだよな」


「それは、あの現世のほうが、よっぽど地獄だったからだ。あの過酷な環境で、斬られたり刺されたり撃たれたりしていたせいで、耐性が付いてしまっているんだよ。団塊世代ってのは、どこに行っても打たれ強いもんらしい」


「何のための地獄だよ。ところで、大恩人の今川義元様。わざわざ小僧の俺になんで会いに来たの?」


「自分がなんで、あの桶狭間で敗れて死んだのかを、よく検証するためだ。私がお前に敗れるなど、普通ではあり得ないだろう。だからお前と、あの戦いの感想戦をしに来たのだ」


「感想戦って、将棋でやってるあれか」


「そうだ。互いの指し手を分析し、より高みを目指す崇高な行為で…」


「敗者の言い訳を聞いてやるってことだな」


「違うっ。あくまでも戦いを振り返って、もっとレベルアップするために行うのだ」


「まあ良いよ。じゃあ やろうか、感想戦」


「この感想戦は長くなるぞ。このまま始めていいのだな」


「言い訳が長いってこと?」


「うるさいわ。言い訳ではないぞ」


「分かったよ。ゆっくり聞いてやるから始めようか。まあ、よく覚えてねえかも知れねえけどな。俺だって、あんたに必ず勝つ見込みなんか、あったわけじゃねえんだからな。たまたま勝っちゃっただけなんだ」


「お前は勝ったから、たまたまで納得しても、たまたまで負けた私は、死ぬほど悔やんでいるの だぞ。…まあ、死んでるがな」


「はいはい。確かあんたが先手じゃなかった?」


「そうだ。では始めようか。私のリベンジをな」


「あんた、そんな面白いキャラだったなんて、意外だよ。あの時の状況は、こんな感じ?」

挿絵(By みてみん)


「そうだな」


「あんたは、どこまでやる気だったの?」


「あの戦では、尾張の伊勢湾東岸を、完全に私の支配下にするところまでだ。最低でも、智多郡・愛智郡、上手くいけば春日井郡までだな。尾張の鳴海城と大高城は、お前の親父が死んだ後すぐ、城主がこっちに寝返ってきたから、今川家の支配下になってはいたが、城だけ押さえていても大した意味はない。実際、お前は城の周りを砦で囲んでいたからな。あの一帯から、お前の兵と砦を排除すれば、私の勝ちってところだな」


「そうだね。あの辺りをあんたに押さえられたら、俺はもうお手上げだった。そうなっていれば、あんたに降伏するか、勝ち目のない戦を続けて殺されるか、それしか道はなかっただろうね。家督を継いだばかりの俺じゃ、家臣らにも見放されていただろうし。でも、そこまで分かっていても、あの丸根や鷲津の砦をあんたの大軍から守り抜くなんて、まず出来やしなかっただろうね」


「では初めから、砦を本気で守る気はなかったのか?」


「いや、大高城を奪還できていれば、砦を守ろうとしたかも知れない。でも早い段階で、その選択肢は捨てざるを得なかった」


「…なるほどな」


「分かるだろう?兵糧が切れて落ちる寸前だった大高城に、あんたが寄越した援軍が、兵糧をたっぷり持って、包囲もくぐり抜けて入っちまったんだ。そしたら城主の鵜殿長照が、急に元気になって逆にうちの砦を攻めてきた。もともと兵力はそっちが多い上に、城と急造の砦じゃ防御力が違い過ぎる。それで、大高城の奪還は諦めたよ。それが逆に良かったんだって、後から気づいたけどね」


「そうか。ならばいっそ大高城をお前にくれてやったほうが、結果的には良かったということか。また奪い返すくらい、容易いことだったからな」


「結果的には、そういうことだね。今だから言えることだけどさ。俺は大高城を奪還できていれば、城と砦を死守しようとしたと思う。その選択は大間違いだと気づかずにね。そしてあの時、もしあんたの援軍が入れなければ、大高城は奪えていたはずなんだ」


「つまり、援軍を率いていたやつが、難しい任務をあっさりとやってのけたのが、勝敗の初めの綾だったわけだな」


「そうみたいだね。あんたとこうやって話さなかったら、そんなことは考えもしなかったよ。あいつも、俺の大恩人じゃないか」


「俺にとっては疫病神だった」


「まあとにかく、あれで俺は砦を捨てることに決めた。となれば、清洲城に籠もるか、奇襲しかない」


「伊勢湾東岸を失えばお前の負けだったのだから、清洲城に籠もるという選択肢はないだろう?」


「確かに、俺の中では、ないよ。でもあんたは、俺があの時 清洲城に籠もることは、絶対にないって思ってた?」


「……正直に言うと、お前は清洲城に籠もるしかないと思ってしまった。つまり勝ちを確信した」


「そう。あの一帯を取ればあんたの勝ちだ。だから、とても清洲になんか籠もれないんだよ。でもあんたは、俺はそうするしかないって思ったんじゃないの?」


「認めるしかないな」


「俺も、狙ってそうしたわけじゃないけどね。あんたは勝ちを確信した。俺は奇襲しかなくなった。それで、鷲津と丸根の砦に籠もる家臣らには悪いけど、そっちに援軍は出さず、俺が動かせる兵を掻き集めて、密かに善照寺砦に移動した。そこで、あんたの本隊への奇襲のタイミングを計った」


「勝ちを確信した私は、沓掛城から大高城に移動し始めた。私が着く頃には、大高城の兵が砦を落としていると思っていたし、実際そうだった。鳴海城には岡部元信がいて心配はない。あとは大高城に私が入れば完勝のはずだった」


「その、落とされた砦にはね、弟との家督争いでも俺に付いてくれた連中が籠もっていたんだ。佐久間盛重とかね。俺はそいつらに、死んでも砦を守れって命令したんだ。本当に砦は落ちて、ほとんどのやつが討ち死にしたよ。あいつらが最後まで降伏しなかったおかげで、あんたの部隊は砦を攻め続けるしかなくなり、俺は動き易くなった。あの犠牲がなければ、勝てなかったよ。当時は俺にも、人の心ってもんがあったらしく、ちょっとアレだったよ」


「なるほどな。お前の勝ちは、たまたまじゃなかったのだな」


「たまたまだよ。あの雨は、俺が降らせたわけじゃない」


「雨か。あの道は雨が降ると泥濘がひどかった。あえて悪路を進む必要はないからな。桶狭間山に登って休息を取りつつ、雨をやり過ごそうとしたのだ。進軍中に休息を取るのは、普通だからな」


「そうだね。あんたは正しい。正しくても、負けることがあるのが戦だね。雨のおかげで、俺の進軍はあんたの部隊に悟られずに済んだ。俺の物見は、高台で休息していたあんたを見つけることができた。あんたが移動を再開する前に奇襲をかけられれば、勝ち目があると思ったよ」


「あの時、地元の住民から酒を献上されたんだ。それで、さらに気が緩んだんだろうな。地元の者も、私を快く迎え入れようとしている。それで、上機嫌で酒を飲んだ」


「あの酒を献上させたのは、俺の策だ」


「なんだとっ」


「嘘だよ」


「まったくよ。結局 負けるべくして負けたんじゃねえか」


「大きなミスはしてないけどね。そもそもあの奇襲だって、あんたを討ち取れる保証はなかったしね。もっと言えば、あんたの首を取ったとしても、残った家臣が退却しないかも知れなかった」


「そうだな。太原雪斎が生きていれば、私が死んでも退却せず、お前の首を取っていただろうな」


「色々と紙一重で、俺とあんたの運命が変わったんだね」


「あいつもだ。お前よりさらに小僧だったくせに、頭を使って大高城に入ったようだな」


「家康ね。ああ、あんたには元康って言ったほうが良いのかな」


「忌々しい。元康の元は、俺がくれてやった字だ。なのに俺が死んだら、さっさと改名しやがった」


「あんた、私って言うより、俺のほうが似合うよ」


「そうか。俺はそういうのは、実はどうでも良いと思っている。別に、好きで公家みたいに振る舞っていたわけでもない。まあとにかく、お前に会いに来て良かったぞ」


「恩人にそう言ってもらえて光栄だよ。あんたは早く地獄を卒業したほうが良いよ」


「そうかもな。だが元康に会うまでは、こっちで羽を伸ばすつもりだ」


「それも良いね」


「…じゃあな、小僧」


「じゃあね。

…ああそうだ。家康は70過ぎまで生きるらしい。いずれ会ったら、あんたが小僧だよ」


YouTube版はこちら

https://youtu.be/u9UL0X3TVT4

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最近やっと、義元さまが悪く描かれることが減ってきてよかったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ