Build 0.01:弐十万馬力泥濘衝撃
はい続きです
「あにゅえ! あにゅえ、ぶじか!」
嬉しそうに俺の背中で、ブンブン手を振る赤子のお市。
ふと、槍を構えたまま硬直している信長と目が合った。
その瞳はオレの背後でのたうつ巨大な銀の腕と、そこから響くお市の顔を、内容書換中の画面のように往復している。
この時代、最強の武を巻き起こすはずの風雲児の脳が、今目の前で起きている未曾有の怪異に処理落ち寸前の悲鳴を上げている。
「……市、なのか。……本当に、市なのか……?」
絞り出すようなその声は、電源は入っているが再起動しない電脳機器のようである。
それでも、その場で電池切れのように尻もちをつく供回りに比べればマシだとも言えるが。
あー、そりゃなあ。
生まれたばっかりの赤子が、こんな流暢に喋ったら普通驚くわなあ。
この男の認識の中では、お市はつい数刻前まで乳母の腕の中で「あー、うー」と無邪気に泡を吹いていたはずの、いたいけな赤子なのだ。
「ジュキ! はやく、あにゅえ、たすけろ!
ジュキ、のろま、いけーっ!」
そして、お市の視線はすぐに背負い主の俺へと戻る。
……んだが、それは悪手だった。
「…………ジュキ? いま、この男を『ジュキ』と呼んだか?
我ら織田の至宝たる市が、兄であるこの俺よりも先に、どこの馬の骨とも知れぬ男の名を……ッ!」
うわ、鬼のような形相で睨んでるよこのシスコン武将。
「……貴様ぁッ! 市に何を吹き込んだ!
その得体の知れぬ鉄の腕で、市の心を、言葉を、奪ったというのか!
市、その男の手を離せ!そして 今すぐそこから降りろ!」
「いや信長さんよ、それ物理的に無理……」
「あにゅえ、うるちゃい! ジュキ、すごいの。
あにゅえより、たよりににゃる! 瞬殺しゅる。
あにゅえ、そこでみてて!」
「……た、頼りになる……。この俺よりだと……。市ぃぃぃッ!!」
うわぁお市、火に油を注ぐな。
そしてシスコン武将も超面倒くせぇ。
そうこうしている間に背後に迫る6,000人の足音。
もはやコンマゼロ秒の猶予もないのだが。
あーもう、苦情は後で受け付けますから!
……というか、お市!
「ふに?」
「ふにじゃない、お前さっきから俺を動かそうとしてるけどな。
この愛染零型は、お前が動かすんだよ!」
愛染明王。愛欲を浄化し、敵を粉砕する情念の神。史実でも、お市が肌身離さず小さな愛染明王の仏像を握っていたという曰くつきだ。
精神に直接、同期するAI補助付きだし、どうやれば分かるはずだよな?
「おおー!うん、わかゆ。わかゆよ!……でも」
でも?
「これ武器、ついてにゃい」
あー、しまったそういや実装前だったわ。
本来なら『絶対に防げない斬撃』を放つ近接兵装『愛染斬岩刀』と、
放った矢のベクトルを追跡して敵の本陣まで必中させる超長距離精密射撃ユニット、
『明王破魔弓』を持たせるはずだったんだが。
しょうがない。……を……こうして……
「ふむふむ」
「ええい、先ほどから何をごちゃごちゃと……ぬぅっ!」
あ、信長が迫ってくる敵と交戦を再開した。
想定と違うが、絡んでくる相手がいないのは好都合。
お市、やれ!
必殺技、弐十万馬力泥濘衝撃!
「わかった!まどっ、しょっけぇーびゅ!」
お市がそう言うと愛染零型は、振り上げた手をぬかるみの中に思い切り付り叩きつけた。
雨粒がその振動で、空中で静止して。
泥が質量を持った、大きな波となり。
次の瞬間、勢いよく敵の軍勢に向かって流れ込む!
史実によれば、かの戦艦大和の主砲は15万馬力の威力があったという。
それを上回る20万馬力の、泥の衝撃波が波となって敵の軍勢をなぎ倒していく。
あ、ちなみに20万馬力ってのは物理的に計算したわけじゃなくてオレのイメージな?
……今はこの泥が『戦艦の主砲』だって思ってくれ、うん。
まあとにかく。
敵軍の大多数がその泥の餌食になって吹き飛ばされ、残った者たちも。
「ば、化け物ぉ!」
と戦意を喪失し一目散に逃げ出した。
後に残されたのは、あまりの光景に開いた口が塞がらない信長軍一行と。
「ジュキ、もっと!もっとやりたいいい!」
無邪気な声と笑顔で、おかわりを要求するお市であった。
何はともあれ一段落。
とはいかない、システム屋脳。
今回の戦で、気になる点はいくつかあった。
戦闘中もそうだったが、逃げる時も。
声こそあげてたが表情一つ、変えなかったのだ。
アース・スター大賞応募中。作風的には、いかがでしょ?




