第4話 【再生回数:102,415】
旅館のPV動画を撮る。
小町ちゃんがそう提案したとき、俺の頭に浮かんだのは、きらびやかなモデルが微笑む都会的なCMだった。うちのような古びた旅館に、そんなものが作れるのだろうか。
「というわけで、俊お兄ちゃんには、もう一回ダンジョンに潜ってもらいます!」
「え、俺も映るのか?」
「当たり前やん! ダンジョンがある旅館、っていうのがウリなんやから!」
小町ちゃんは、スマホに手持ち用のジンバルを取り付けながら、意気揚々とそう言った。
だが、俺には一つ、懸念があった。
「小町ちゃんがついてくるのは危ない」
「でも、楽勝やったんやろ? お兄ちゃんが言うてたやん。そんなに危険なダンジョンでもないんやろ?」
「まあ、そうやけど……。万が一ってこともある」
「ほな、お兄ちゃんが私のこと守ってくれたらええんちゃうん?」
小町ちゃんは、俺の目をじっと見つめて、悪戯っぽく微笑んだ。
その真っ直ぐな瞳に、俺は根負けした。
「……まあ、そうか。わかった。……くれぐれも、俺から離れんなよ」
「うん! ……てか、今のなんかかっこいい。もう一回言ってみて」
「うるせぇ……。はずいわ……」
軽口を叩き合いながらも、俺たちは再びダンジョンの入り口に立っていた。
小町ちゃんがスマホの録画ボタンをタップする。
「はい、カメラ回ったよ! お兄ちゃん、どうぞ!」
「え、えー……。ご、ご覧の通り、うちの旅館には、なんとダンジョンがあります。とはいっても、見ての通り、最弱レベルのダンジョンですけどね……はは……」
カメラを前にすると、途端に言葉がしどろもどろになる。
「こらこらお兄ちゃん、PV撮影なんだからネガティブなこと言わないの! もっと魅力を伝えなきゃ!」
「あ、ああ、そうか……。えーっと、その……。うちのダンジョンは敵も弱く安全で、お子様でも安心して遊んでいただけます!」
「そうそう、そんな感じ!」
小町ちゃんのディレクションを受けながら、俺は第一階層へと進む。
「ちなみに、入場料は……えーっと……くそ。相場がわからん……」
俺が小声で呟くと、小町ちゃんがすぐさまスマホで調べてくれた。
「んーと、最弱レベルのダンジョンやと、1000円くらいが相場みたいやね。最高レベルのダンジョンになると、1000万とか余裕で超えるみたいやけど……」
「やべえ世界だな……それ……。んじゃあ、まあ、うちは500円でいいか」
「ええの? そんな安くて」
「どうせ誰も来ないだろうしな……。それに、メインはあくまで旅館だから」
話しているうちに、前方にスライムが現れた。
俺は「はい、こんな感じでモンスターも出ます」とカメラに言いながら、手にした鋼のつるぎで、手際よくスライムを斬り伏せる。
その一部始終を、小町ちゃんはばっちりと録画していた。
「へぇ。結構動けるんやね、お兄ちゃんって」
「そうか? 普通に倒してるだけだけど……」
「いや、なんかシュンって、すごい早い動きやったよ? さっき」
「俊だけにってか?」
「もう……オッサンくさい」
「やめてくれ……マジで傷つく……」
そんなやり取りを挟みつつ、ダンジョンの撮影は無事に終了した。
次に、俺たちは旅館の撮影に取り掛かった。
小町ちゃんは、まるでプロのカメラマンのようだった。
西陽が差し込む角度、縁側の柱が作る影、古びた客室の畳の質感。彼女は、この寂れた旅館に眠っていた「趣」や「温かみ」を、巧みに切り取っていく。
「おお……! うちの古びた旅館が、なんかアニメに出てきそうないい感じになってる!」
撮影された映像を見せてもらい、俺は素直に感動した。
「これはそういうエフェクトと、光の当たり方とか工夫したからやね」
「すごいなぁ……小町ちゃん。ありがとう」
「えへへ……褒められた」
「これなら、結構再生数いくんじゃないか? これが『映え』ってやつか? 集客効果も期待できそうだ」
「そうやね。バズるといいね」
「バズ……? なんだそれ……? 呪文……?」
「……やっぱりオジサンじゃん」
「うぐ…………」
スマホで「バズる」の意味を検索し、「ほう……」と一人納得する俺の横で、小町ちゃんは呆れたようにため息をついていた。
撮影が終わり、小町ちゃんが居間で動画の編集に取り掛かる。俺は手持ち無沙汰になった。
「じゃあ俺はちょっと、この前の魔石を換金してくるわ」
「わかった、いってらっしゃい。これ、完成したら、適当にアップしておいてええかな?」
「うん、まかせるわ」
俺は軽トラに乗り込み、一番近くの街にあるという換金所へ向かった。
◇
その背中を見送った小町は、慣れた手つきで動画を繋ぎ、お洒落な音楽とテロップを乗せていく。
一時間後。一本の魅力的なPV動画が完成した。
「よし、こんなもんかな」
小町は、「奥谷旅館【公式】」という、たった今作ったばかりのアカウントで、その動画を動画共有サイトにアップロードした。
ふぅ、と一息つき、疲れたー、と畳の上にごろりと寝転がる。
その、直後のことだった。
ブブブッ! ブブブブブッ!
テーブルに置いていたスマホが、痙攣でも起こしたかのように、異常な振動を始めた。
画面には、滝のように通知が流れ落ちていく。
『すごい!』
『なんだこの動き!?』
『500円は安すぎだろ!』
『場所どこ!? 絶対行く!』
「なに!? なにが起きたの……!?」
小町は、飛び起きてスマホを掴んだ。
恐る恐る、管理画面を開く。
そこには、信じられない数字が表示されていた。
【再生回数:102,415】
アップロードしてから、まだ、10分も経っていない。
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