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第12話 ハイエナへの鉄槌【ざまぁ】


 奥谷旅館の大広間が、地元の人々の、久しぶりの笑顔と、底抜けに明るい笑い声で満ち溢れていた、あの夜。

 誰もが、生まれ変わった旅館の門出を祝い、酒を酌み交わし、未来への希望に胸を躍らせていた。

 ――だが、その喧騒の片隅で。

 一人の女が、静かに、そして冷徹に、「狩り」を行っていたことなど、誰一人として知る由もなかった。



 


 縁側の、月明かりだけが届く薄暗い一角。

 郁美は、「ああいうのは苦手でな」と宴の輪から離れ、ノートパソコンの画面だけを、静かに見つめていた。

 大広間から響く、楽しそうな喧騒をBGMに、彼女の指先だけが、カタカタと、猛烈な速度でキーボードの上を舞っている。

 画面に映っているのは、経営計画書などではない。無数の文字列、複雑なコード、そして、世界中のサーバーを巡る、デジタルの地図。

 彼女が追っているのは、俊とブリザードの護衛との戦いを盗撮し、世界中に拡散した、正体不明の配信者。


(放置すれば、第二、第三のハイエナを呼ぶ。元凶は、根絶やしにするに限る)


 彼女は、その動画がアップロードされたサーバーのログを解析し、幾重にもかけられた匿名化の壁を、まるでパズルでも解くかのように、一つ、また一つと、冷静に、そして無慈悲に突破していく。素人が頼る、薄っぺらい匿名性の盾など、彼女の前では、もはや無意味だった。


 


 

 その頃、東京の雑然としたワンルームマンションで、一人の男が、ほくそ笑んでいた。

 名前を柴田克也。

 中堅クラスの探索者であり、ゴシップ系の情報屋でもあるその男は、自分がアップした動画がバズり、莫大な広告収入が振り込まれてくるのを、にやにやしながら眺めていた。


「ハハッ、バカな奴らだ。俺が誰だか分かりゃしねえ。これで大儲けだぜ! あの田舎のオッサンも、いいカモだったな!」


彼は、自分が、この世で最も敵に回してはいけない存在に、喧嘩を売ってしまったことなど、知る由もなかった。



 


 カタン、と。郁美の指が、最後のエンターキーを叩いた。

 彼女のパソコンの画面に、一つのファイルが生成される。そこには、例の男の本名、住所、探索者ライセンス番号、そして、過去の違法行為の数々まで、その全てが、完璧にまとめられていた。

 郁美は、そのファイルを、ブリザードと提携している、国内最強との呼び声も高い法律事務所に、暗号化して送信する。

 そして、一本の電話をかけた。その声は、どこまでも冷徹だった。


「――生天目だ。案件を一つ。相手は一人。証拠は、今送ったファイルに全て揃っている。著作権法違反、プライバシーの侵害、不法侵入、そして、それによる威力業務妨害……考えうる全ての法を使って、徹底的に、合法的に、彼が二度と社会復帰できないように叩き潰せ。報酬は、請求書通りに支払う」


 その、あまりにも冷徹な依頼に、電話の向こうの敏腕弁護士が、一瞬、息をのむのが伝わってくる。


 数日後。

 男の元に、内容証明郵便で、分厚い訴状が届いた。差出人は、日本最強の法律事務所。そして、同時に、探索者ギルド協会からも、ライセンス剥奪の最終通告書が届く。

 彼は、訴状に書かれた、億単位の損害賠償請求額と、彼の全ての悪事を暴いた、完璧な証拠のリストを見て、その場に崩れ落ちた。

 彼の、ささやかな人生は、その日、静かに、完全に、終わった。



 


【悲報】ゴシップ系ダンチューバー『J』、謎の勢力に社会的に抹殺される【ざまぁ】


512:名無しの探索者

 おい、お前ら、知ってるか?

 ゴシップ系のダンチューバーで、そこそこ有名だった『Dungeon_Scouter_J』のチャンネルが、跡形もなく消えてるんだが。


513:名無しの探索者

 >>512

 マジだ。昨日まであったよな?

 なんか声明とか出してたか?


514:名無しの探索者

 声明どころの話じゃない。

 俺の知り合いがギルド協会に勤めてるんだが、聞いた話だと、Jは昨日付で、探索者ライセンスを永久剥奪されたらしい。


515:名無しの探索者

 は!? 永久剥奪!?

 よっぽどのことやらかさない限り、そんな処分下らないだろ。あいつ、一体何したんだよ。


516:名無しの探索者

 それだけじゃない。

 ブリザード御用達の、あの国内最強の法律事務所から、億単位の損害賠償請求訴訟を起こされてる。

 もう、社会的に完全に終わった。


517:名無しの探索者

 えぐすぎる……。

 億単位の訴訟って……。あいつ、そんなやべえ相手に喧嘩売ったのか?


518:名無しの探索者

 待てよ……。

 Jって、もしかして……。

 あの、奥谷旅館の「ワンパンKO動画」を、最初にアップした奴じゃないか?


519:名無しの探索者

 !!!!!!!!


520:名無しの探索者

 ああああああ! 間違いない、あいつだ!


521:名無しの探索者

 つまり、これって……。

 旅館からの、あまりにも早すぎる、そして、あまりにも完璧な「報復」ってことか……。


522:名無しの探索者

 そりゃブリザードが動いたんだろ。

 自分とこの精鋭があんな醜態を晒されたんだ。メンツを潰された報復に決まってる。


523:名無しの探索者

 いや、政府だろ。

 あの旅館は、今や国家レベルの最重要機密。情報を勝手に漏洩させたJは、国家への反逆者と見なされたんだよ。


524:名無しの探索者

 お前ら、分かってないな。

 ブリザードや政府が動くには、あまりにも早すぎる。それに、訴訟の証拠が、完璧すぎるんだ。

 知り合いの弁護士に聞いたら、Jの不法侵入から、過去の余罪まで、全てを網羅した完璧な証拠ファイルが、匿名の情報提供者から法律事務所に送られてきたらしい。

 ――これは、あの旅館にいる「誰か」が、独自にやったんだよ。


525:名無しの探索者

 >>524

 ……まさか。


526:名無しの探索者

 怖すぎだろ……。

 あのオーナーの周り、ヤバい奴しかいねえ……。


527:名無しの探索者

 ワンパンで物理的に殺すオーナーと、訴訟で社会的に殺す軍師がいるってことか……。

 どっちも、絶対に敵に回したくねえ……。


528:名無しの探索者

 つまり、あの旅館に手を出したら、物理的にも、社会的にも、完全に「終わる」ってことか。


529:名無しの探索者

 Jのやつ、天罰だな。ざまぁwww


530:名無しの探索者

 聖域に手を出した愚か者の末路、か。


531:名無しの探索者

 結論:聖域には、手を出すな。

 マジで、消されるぞ。

 



 

 宴の、翌朝。

 俺が、二日酔いの頭で、ぼーっと庭を眺めていると、郁美さんが、淹れたての、極上の宇治茶を片手に、隣にやってきた。


「ああ、そういえば、俊。お前を勝手に撮影して、動画をばらまいていたハイエナがいた件だが」

「え、ああ、そういえば……。どうなったんだ?」

「さっき、処理しておいた」


 彼女は、そう言って、まるで庭の雑草でも抜いたかのように、こともなげに、そして、美しく微笑んだ。


「もう、二度と我々の前に現れることはないだろう」


 俺は、その笑顔に、何か得体の知れない、しかし、とてつもなく頼もしい何かを感じながら、「そ、そうか。ありがとう」と、お礼を言うしかなかった。

 この旅館の平穏は、俺の知らないところで、彼女の手によっても、守られているらしかった。






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