第62話 とち狂った制裁者
注意:この話は残酷な描写があります。
苦手な方・15歳未満の方はそっと閉じてあげてください。
時は少し遡る───────
「殺す……俺がァッ絶ッッ対ェー殺すッ!!!」
紀章は勢いよく吹き抜けの方へ飛び出した。自由落下に身を任せ、真っ直ぐ目的地───7階に向かって。
紀章が8階の高さまで降下したタイミングで、8階の床に手をかける。その手で床を掴んで落下を止め、そのまま7階に滑り込んだ。
滑り込む瞬間───紀章は、腹を貫かれた幼女の上を通過した。
しっかり着地した後、振り返って幼女の遺体へ近づく。そして、しゃがみ込んで遺体を抱える。
抱えた遺体は、恐ろしく軽かった。こんな幼く小さな子を死なせてしまったことを理解し、紀章の胸が激しく痛む。
「……ごめんなァ。俺のせいでェ……」
遺体を抱えたまま立ち上がり、改めて近くのベンチに丁寧に寝かせる。そして、開きっぱなしになっていた瞼を右手で下ろした。
「すまねェ。こんな形でしか寝かせられなくてェ……仇は必ず取るからなァ」
紀章は謝罪と決意を伝え、その場を離れた。
向かう先は、当然───
「……殺す」
幼女を殺した、モンスターのもとだ。
ゆっくりと、振り向く。そして、吹き抜けの方を睨む。
「グギギィ……」
吹き抜けを挟んだ反対側には、同じように紀章を睨むモンスターが佇んでいた。
「シィィィィィ………」
細く鋭い呼吸音が、吹き抜け越しでもハッキリと聞こえた。向こうは相当紀章を警戒しているようで、その一挙手一投足に全神経を注いで観察していた。
「フー、フー、フー………」
対して紀章は、深く荒い呼吸をしていた。
それは疲労によるものではない。怒りだ。目を血走らせ、わなわなと両腕を震わせ、歯軋りをするその様が物語っていた。
冷静なモンスターと対照的に、紀章は本能のままに動こうとしていた。それを抑制するための深呼吸である。
「「……………………」」
2人の間に、静寂が走る。
どうやら7階にいた人間は既に幼女以外全員避難したようで、既にフロア内は静まり返っていた。逃げた人々のちょっとしたざわめきは聞こえる───はずなのだが、互いに集中しきっている紀章とモンスターの耳には届いていなかった。
慌てて逃げた人々が残した買い物の残骸だけが散らばった、閑散としたショッピングモールの一階層で、今───
苛烈な争いの幕が、切って落とされようとしていた。
「うおおぉォォォォォらあァァァァァァッ!!」
先に動いたのは、冷静さを欠いた紀章だった。
猛烈な勢いで走り出し、吹き抜けを飛び越えて対岸に渡る。
「グギョオオオオオオオオッ!!!」
それを見たモンスターは、威嚇と言わんばかりに雄叫びを上げた。
当然それに怯む紀章ではないため、ノンストップでモンスターの方へと駆ける。
吹き抜けを飛び越え、対岸に着地する。モンスターとの距離は20m程。いくら人外的な身体能力を持っモンスターであっても、一息で詰め切るには少し遠い間合いだ。近寄られても確実に反撃できる程度の空間を、紀章は狙って作り出した。
しかし───それは紀章が自由に動けるならば、の話である。
紀章は、着地の際に左手を床につけてしゃがむような姿勢になっていた。長距離を高速で跳躍した勢いを止めるためだ。
そう───紀章の動きが一瞬、完全に停止したのだ。モンスターはそれを見逃さなかった。
「グギョオオオオオオオオッ!!!」
モンスターは、着地した瞬間の紀章を狙おうと足に力を入れた。ピクリと刃状の両腕が動き、上半身が前に乗り出す。
このタイミングとこの姿勢では、反撃は不可能。逃げることも叶わない完璧な隙───
全ては、紀章の思い描いた脚本通りに戦いは進んでいた。
「魔力弾!!」
「ギッ!?」
モンスターが動くその瞬間、紀章はジャケットの胸ポケットから拳銃を取り出した。
その動作は、人間どころかモンスターでさえ視認出来ないほどに速かった。そして、拳銃を抜いた瞬間にモンスターに照準を合わせ───
魔法の弾丸を一発、放った。
ダン。小さな音と共に放たれた黒い塊は、モンスターに向かって一直線に跳ぶ。
既に攻撃行動に入っていたモンスターは、回避行動に移れるタイミングでは無かった。みるみる間に弾丸はモンスターの眉間に近づいていく。
勝った───紀章はそう確信し、ニヤリと笑みを浮かべる。
しかし、その確信はすぐに覆った。
「ギッ!!」
弾丸との距離が50cmを切った辺りで、モンスターは刃状の左腕を前に突き出した。その刃は縦でも横でもなく、僅かに角度を付けて斜めに突き出された。
高速の弾丸は少し斜めに突き出されたその刃の側面に直撃し、刃の側面を抉り───
ほんの少しだけ、軌道が逸れた。
「ッ!?」
弾丸が刃に命中すると同時に、モンスターは右肩を僅かに落として姿勢を斜めに崩した。
それは攻撃行動に移っていたモンスターに出来る、最大限の回避行動。それでも、本来ならば避けきれずに弾丸は頭に当たるはずだった。
しかし、左腕の刃によって軌道がほんの僅かに逸らされた結果───
モンスターは、弾丸の回避に成功した。
「グギョオオオオオオオオッ!!!」
「チィッ!!」
攻撃行動を中断することなく回避したモンスターは、そのままの勢いで紀章に襲いかかってきた。
銃弾を受けて千切れかけた左腕をぶら下げたまま、一気に距離を詰める。そして、右腕で紀章を切断しようと振り上げる。
「喰らうかよォ!!」
それを見切った紀章は、左に飛び退くことで回避した。そのまま3歩、モンスターから距離を取るために引き下がる。
(クソッ、今ので殺したかったんだがよォ……!!)
モンスターとの間合いを15m程取った後、紀章は足を止めた。
その距離は、まだモンスターが一息に詰められる距離だ。
(もうちッと間合いを取らねェーと銃は使えねェ。引き金引く前に殺られる)
一応銃口をモンスターに向けているが、引き金を引くつもりは無かった。油断なくモンスターを観察し、次の攻撃に備える。
(さァ、どうするゥ。素手で殺れる相手じゃァねェーのは確かだが、銃もキチィ。あの不意打ちで防がれるんじゃァーもう当たらねェーだろうからなァ……クソッ、イラつくぜェ……!!)
激しい怒りを腹の内に抱えながらも、それを必死に抑制して冷静に思考する。その中で発生するストレスは計り知れないものだ。
(絶対ェー今使うべきじゃァねェーのは分かってる。隠しとくべきなのは確かなんだがァ……コイツだけはァ許せねェー)
苛立ちに駆られた紀章は、徐々に冷静さを欠いていく。そして───
「……ゴミがァ」
ついに、紀章が動き出す。
紀章は、右手に構えていた拳銃をわざとらしく放り投げた。まるで、モンスターに見せつけるかのように。
その際、全身の力を抜いて隙だらけに見せた。視線もモンスターから外し、放り投げられた拳銃に向けていた。
「グギィ……」
それを見たモンスターは、一瞬ピクリと右腕を動かした。が、それ以上は動かなかった。
(コイツ、さっきから俺の『釣り』に全く引っかからねェ。無駄に知能が高ェーみてェーだなァ)
わざと隙を晒して相手を焦らしたのだが、思い通りに行かずに不満に思う。と同時に、警戒心を更に強めた。
「テメェーは近距離が得意なんだろォ?いーぜェ、乗ってやるよォ」
紀章はジャケットを脱ぎ捨て、半袖の状態となる。当然この時も隙だらけに見せていたが、モンスターは反応しない。
「……クソがァ。ブチ殺してやるよォ」
遂に苛立ちが限界に達した紀章は、全力で恨みを込めた声でそう言った。
それが、戦闘再開の合図となった。
ダン、という破裂音と共に、紀章が一気にモンスターとの距離を詰める。
その破裂音は地面を蹴った音だった。モンスター顔負けの脚力で、先制攻撃を仕掛けた。
「オラァ!!」
速度の乗った紀章の右拳は、モンスターの腹に直撃する。ズシンと、僅かに周囲が揺れるほどの一撃だった。
「ギィ……」
しかし、モンスターはそれを受けても微動だにせず立っていた。
(コイツ、わざと真正面から受け止めやがったなァ……!!)
両足でしっかりと踏ん張り、受け止めたその様から、紀章はそう推測した。
その舐めた態度に、より苛立ちが募る。
「ギイッ!!」
そんな紀章の上から、お返しと言わんばかりに右腕が振り下ろされた。
肉眼で視認し切れない程の速度で振り下ろされた、重く鋭い刃は───
ガキン、という金属音が鳴ると共に停止した。
止めたのは、特殊な武器や防具ではない。十字に交差されただけの、ただの───
ただの、紀章の腕だった。
「ッ!?」
生身、それも人間の腕に自身の刃を止められ、モンスターは酷く動揺していた。
「ハッ、この程度かァ?」
対して紀章は、モンスターを煽るように嗤っていた。
どうして紀章が、ただの人間がモンスターの強烈な一撃を生身で受け止められたのか?
それは非常に単純なことだった。
(コイツの太刀筋は素直だァ。相手の脳天を真っ二つにかっ捌く、正確な一振。だッたらァ……太刀筋予測して、受け止める部分にマナを集中すりゃァいいんだよォ!!)
紀章は、クロスさせた腕の一点、つまり交点に、自身のマナの大半をを魔力操作で一点に集中させた。
それによって、交点の部分の筋細胞が異常発達して鉄と同等の硬度にまで硬化、それで受け止めたという訳だ。
軌道予測を外したら詰み、そもそも受け止められるかどうかさえ不確かな状況で、この博打のような作戦を実行した。モンスターさえドン引きの、とち狂った精神力である。
ともあれ、そのおかげでモンスターの動きが完全に停止したことは間違いなかった。
「ボーッとしてんじゃァねェぞォ?」
「………ッ!!」
そして、その隙を逃すほど紀章は甘くなかった。
「死ねェ!『汚泥魔法・スラッジア』!!」
モンスターの腹にもう一度右手を当て、魔法陣を呼び出す。
「ギ───」
モンスターは魔法発動前に紀章を殺そうとした。が───
「間に合わねェーよォ。これが俺の『奥の手』だからなァ」
紀章がそう言い切る前に、魔法陣が輝き───
出現した巨大な泥の刃が、モンスターの腹を貫いた。
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桐生紀章 ID:2121225
Lv.39
POW:??? DEX:??? DEF:???
INT:??? MP:??? RES:??? Total:????
職業:無し 魔法適正:土魔法
スキル:無し
習得技術:魔力操作
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