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第60話 急襲、理不尽な凶刃

注意:この話は残酷な描写があります。

苦手な方・15歳未満の方はそっと閉じてあげてください。

 ゴーン、ゴーン、ゴーン……


 これまで二度、この時代に来てから聞いた鐘の音。

 脳に直接響くような不快なその音が鳴る度に、黎翔の周りに災厄が起こっていた。だから、いい加減黎翔も理解していた。


 その音が───『ソルクティス』の前触れである、ということに。


 音を聞いて真っ先に、隣にいた紀章に話しかける。


「お、おい!この鐘の音って……!!」

「あァ、来るぞ───『ソルクティス』がァ!!」

「………っ!!」


 その言葉を聞き、黎翔は即座にその場で身構える。


(また……またアレが始まる……!!)


 紫色の空、真っ暗な太陽、そして───異形の怪物、『モンスター』。

 起こる度に黎翔を死の危機に晒してきたあの地獄が再び始まろうとしていた。


「始まるぞォ……ッ!!」


 紀章がそう言った瞬間。


 ブワッ───


 一気に、全身を悪寒が駆け巡った。

 この階は窓ガラスが無いため、外の様子が伺えない。そのため、視覚的な変化は何も起きていない。

 にも関わらず、黎翔は感じた。自分の周辺で、何か変化が起きた───


 『ソルクティス』が、始まったと。


「全員、固まれェェェ!!!」

「っ!?」


 黎翔がそれを認知すると同時に、突然紀章が大声で叫んだ。


「どこから何が攻めてくるか分からねェ!俺一人じゃフロア全域をケアすることは不可能だ。だから、11階に今いる奴らは声の周りに集まれェ!俺が守ッてやらァ!!」


 その言葉は、自信に満ちていた。とても強気で、聞いた者はさぞ安心出来るであろうものだった。


(対応が早い。さすが上級クラスってとこか……!)


 内心素直に賞賛しつつ、紀章の隣に立つ。そして、周囲を警戒しながら見渡す。

 すると、近くの店にいた人達が少しずつこちらに集まってきた。そこまで慌てている様子ではなく、訓練されているであろうことが伺えた。


 集まってきた人達に向けて、紀章はさらに語りかけようとした。


「いいかァ、慌てる必要ァねェ!水仙騎士団勇者候補の俺がいる限りィ、絶対ェー誰も死なせは───」


 と、そこまで言った時。


「グギョオオオオオオオオッ!!!」

「きゃああああっ!!」


 紀章の言葉を遮るように、あの怪物の声と───甲高い悲鳴が、建物全体に響き渡った。

 その声はやけに響いており、少し遠くから発せられたように感じた。それも……


「っ!?今のはァ……」

「このフロアじゃないよな、多分」

「あァ、まさか……別の階かァ!!」


 2人で一斉に、他の階の様子を確認すべく少し離れた場所にある吹き抜けの方へと走る。その間にも、


「グギョオオオオオオオオッ!!!」


 聞く者全てに不快感を与える叫び声は響いてきていた。その声は、やはり今いる階から聞こえたものでは無さそうだった。


 吹き抜けの元へ駆けつけるなり、手すりから上半身を乗り出して他の階の吹き抜けを確認する。


「クソッ!上か……!?」

「……いや、違う!!」


 すぐに下の階を確認した黎翔の瞳に、チラリと映ってしまった。


 4つ下の階、7階の吹き抜けに背中を付ける一人の幼い女の子、そして───

 その幼女に向けて伸ばされた、白い刃が。


「紀章!下だ!!」

「……ッ!?やめっ───」


 パリン。


「「──────────ぁ」」


 一瞬。小さな、無機質な音だけが聞こえた。それ以外の五感全てが停止した。情報を処理出来なかったからだ。

 しかし、2人の脳はすぐに状況を理解した。理解してしまった。


 伸ばされた白い刃は、幼女の腹部を貫き、そのままの勢いで吹き抜けのガラスを破壊した。幼女の腹部からは大量に血が溢れ出ていた。

 確認するまでも無い。彼女は、間違いなく死んだ。


 黎翔と紀章は、その場から一歩も動けなかった。手を動かすことも出来なかった。目を逸らすことすら、出来なかった。


 永遠とも感じる一瞬が過ぎた後、モンスターの腕と思しき白い刃が腹から引き抜かれた。

 支えを失った幼女の身体は、割れた吹き抜けのガラスの外側へ倒れた。力なく頭と腕が垂れ下がり、そこから下階に血が滴り落ちている。

 開きっぱなしの瞳は、恨めし気に黎翔達を見つめていた。光を失い、涙を溜めた瞳は、その苦しみを必死に訴えかけてきていた。


(また……また、目の前で一人死んだ)


 それを見た黎翔は、御織と共に目にした、モンスターに喰われた人を思い出した。目の前で殺された、無辜の命の存在を。


(……間に合わなかった。間に合うはずがなかった。間違いなく、不可抗力だった。こんな理不尽が……許されるのか)


 黎翔は、目の前で一人死んだにも関わらず、やけに冷静だった。激情の一つも湧き出ては来ない。ただ、現実の過酷さを嘆くしか出来なかった。


(切り替えなければ。これ以上死者を出さないために、切り替えなければ……)


 それでも、冷静を保てた黎翔の思考は速かった。即座に次取るべき行動を考え始めていた。


(まずは7階の奴を殺す。次に、他の階の奴を探す。全部の階の安全を確保出来たら、『ソルクティス』を終わらせる───つまり、『ボス』を殺しに行く。その為に、まずは御織達と合流すべきだ。御織さえいれば何とでもなるだろう)


 静かに、素早く、正確な判断を下していく。

 一通り見通しを立て終えた黎翔は、隣に立つ男に声をかけた。


「紀章、まずは御織と合流しよう。それから動くぞ」


 さっきまでと変わらないテンションで、業務連絡を伝える。

 しかし……


「……?おい、紀章?」


 紀章は、何故か全く反応を示さなかった。

 肩に手を置いて揺すっても、何度か叩いても、動かなかった。ただ、血塗れで割れた吹き抜けから上半身をだらんと垂れ下げている死体を見つめていた。


「おい、紀───」


 もう一度、名前を呼ぼうとした瞬間だった。


「ああああああああああああああああああっ!!!」

「っ!?」


 突然、その場で怪物のような咆哮を上げた。

 憎悪と憤怒に満ち溢れたその声は、ショッピングモール全体を揺らしていた。ビリビリと声と共に殺意が撒き散らされていた。


(ヤバい、正気を失ってる……!!)


 隣で耳を塞いでそれを見た黎翔は、すぐに紀章の手を掴もうとした。が、それも手遅れだった。


「殺す……俺がァッ絶ッッ対ェー殺すッ!!!」


 黎翔が手を伸ばした瞬間、紀章は左手を吹き抜けの手すりに掛けた。そして、そのまま飛び上がり……

 手すりを飛び越え、下階に───7階に、飛び降りていった。


「速……しまった!!」


 冷静さを欠き、一人で敵の前へ突っ込んで行ったのを見て、黎翔は焦った。


(今のアイツは正確な判断を下せる状況じゃない。一人じゃ危険だ……!!)


 一瞬でそう判断し、黎翔も吹き抜けから下に降りようと手をかける。

 が、


「黎翔くん、止まって!!」

「っ!?」


 後ろから、それを止める声が聞こえた。振り返るまでもなく、それは妃の声だ。どうやら彼女もここまで走ってきたらしい。


「妃!ヤバいんだ、紀章が───」


 状況説明をしようと妃の方を振り向く。

 その時───黎翔の視界に入ったのは、妃だけじゃなかった。


 妃の頭の後ろに、真っ黒な手のひらくらいの大きさの珠が浮いていた。

 黒光りするそれが良いものでは無いことくらい、一目見れば分かった。


「妃っ!!危ねぇぇぇぇぇぇっ!!!」

「え?」


 全力で叫ぶ。

 それで違和感に気づいたらしく、妃も一気にその場から離れて黎翔の隣に立った。

 次の瞬間───


 空中に浮いていた黒い珠が、一瞬紫色に輝いた。

 その光に目が眩んだ黎翔と妃は、手を翳して光を遮った。

 直後。


「グギョオオオオオオオオッ!!!」

「「っ!?!?」」


 超至近距離から、とんでもない雄叫びが鳴り響いた。

 翳した手を退かし、正面を見ると───


 黒い珠が浮いていたちょうどその場所に、立っていた。


「ぁ───────」


 黎翔が昨日倒したボスの2倍程大きな体格と、刃のように鋭い白く輝く腕を持つ、一体のモンスターが。


「黎翔くん、構えて」

「………っ!!」


 半分パニックになりかけていた黎翔に、隣から静かな強い声が聞こえた。妃だ。


「端的に状況を説明する。今、御織が下の階に───紀章くんの方に向かってる」

「っ!!てことは……」

「うん。彼のことは御織に任せて大丈夫だよ」


 それを聞いて、黎翔は一安心した。

 が、悠長に安心などしている余裕が無いことをすぐに思い出す。


「グルルルル……」


 目の前のモンスターは、今まで見てきた個体とは異なるようだった。上半身は比較的細く、代わりに足が太い。体格の割に顎も小さいため、機動力重視のようだ。ただし、代わりに腕は刃状になっているため殺傷能力は今までの個体より上だろう。


「明らかにヤバそうだな……」

「だね。でも、退く選択肢は無いよ」


 チラリとモンスターの後ろを見ながらそう言った。

 その視線の先には、非常用の階段に繋がる扉があった。


「なるほど。コイツ殺さねーと避難もクソもないってわけか」

「その通り。さぁ……覚悟決めようか、黎翔くん。はい、これ」

「……?」


 そう言うと、妃は黎翔に何かの箱を手渡してきた。

 サイズ感から推定するに、それは騎士団本部で貰った聖からの贈り物のようだった。ラッピングは剥がされているが、間違いないだろう。


「これは……」

「中、見て」


 そう言われて雑に箱を開ける。

 中に入っていたのは……一本のナイフだった。


「これ使って戦えと?」

「そういうことらしいね。見たところマナが込められてるみたいだし、結構いいものだと思う。それ使えばモンスターにも有効打を放てるし、使うべきだよ」

「……これを聖が、ねぇ」


 色白で掴みどころのないあの男を思い出す。


(聖の手を借りるってのは癪で嫌なんだが……ま、生存第一だ。ありがたく使わせてもらうぜ)


 すぐに柄の部分を握り締め、箱から取り出す。

 持ってみると案外軽く、柄も異様に手に馴染んだ。まるで……


(毛皮剥ぐ時のやつ、みたいな)


 それは、この時代に来る前に使用していたものにそっくりな形状だった。浅い三日月のように反った形状に、柄と刃の部分が大体一対一くらいの長さ。全長もほぼ同じだ。


(こんないいヤツくれるなんて。なんにせよ、これなら戦える)


 順手に持って親指を刃の上から押さえる形で構える。その構えは、やはり手に馴染んだ。


「よし、準備完了みたいだね。それじゃ───」


 妃は、右手を正面に突き出した。その先には───


 水色の魔法陣が、姿を現した。


「はじめるよ」

「あぁ!!」




──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858

武器:猟刃……マナ属性 特殊効果なし

職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』発動可能

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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