第55話 入団の贈り物
「黎翔〜、準備出来た〜?」
「おー」
部屋の外から聞こえた声に返事する。
現在時刻7時50分。歯磨きを済ませ、御織からもらった服に着替え、外出の準備が整った。
(……似合うかな、この服)
渡された服はとてもオシャレなものだった。シンプルなジーンズに可愛らしい恐竜の絵がプリントされたクリーム色のスウェット、そしてグレーのパーカー。
全体的にゆったりとしたサイズで、ラフなイメージを受け取った。スウェットとパーカーのリラックスした雰囲気とジーンズがよくマッチしており、カジュアルな雰囲気になっている。
オシャレだな───このセットアップをははじめに見た時はそう思った。だが、黎翔は着ていくうちに少しずつ不安を感じていた。
基本的に、黎翔はオシャレをしない。関心自体はあったが、猟師の仕事や山中での生活など、オシャレをする暇がなかったのだ。
特に黎翔は、かなり体格がいい。身長は180cm近くとそこそこあり、肩幅は一般的な高校生と比べると広め。腕と足も一目で筋肉質だと分かる程に仕上がっている。
だから、今まではそれを意識してそこまで大きくない無地のTシャツに適当なジーンズを合わせることが多かった。ここまでゆとりのある服装など、身につけたことが無かったのだ。
(大丈夫、だよな。御織が選んでくれた服だし、きっと。でも、もしこれでガッカリされでもしたらどうしよ……街の人からも変な目で見られたりとか?うぅ、なんか怖くなってきた……)
不安と緊張に呑まれ、ソワソワしながら玄関へ向かう。
靴を履いて、立ち上がる。ドアノブに手を置き、意を決する。
(ええい、ままよ!!)
一息に扉を開き、部屋の外へと足を踏み出した。
「よ、よう!待たせたなっ!!」
緊張を紛らわせるため、少し大きめの声でそう伝えてから御織の方を見た。
御織は、昨日とは少し異なる雰囲気だった。かなり大きめのサイズのグレーのパーカーにショートパンツのみ。そのため、御織の綺麗な脚がほとんど露出していた。昨日のフリル付きのドレスとは異なり、大人っぽい印象を受ける。
「お、おぉ……なんか、昨日と全然雰囲気違うな」
「そうかな?アタシはいつも通りだけど」
スンとした様子で本人は言っていた。
どうやらそれは言葉通りの意味だったようで、よく見ると化粧などの類は一切行っていないようだった。昨日から引き続き、だ。
素材が美少女ならば化粧なんて必要無い、ということだろう。事実、彼女はこれまで見てきたどの女性より可愛かった。これが何よりの証左だろう。
「……ふ〜ん、そゆこと。黎翔は昨日より随分と可愛らしくなったんじゃない?」
「お、おぅ……似合ってるか?」
恐る恐る質問すると、御織はじっくりと黎翔を観察しだした。
黎翔を焦らすように「う〜ん」とわざとらしく唸りながら、全身隈なく舐め回すように眺めた後、ようやく、
「うん、似合ってるね。ま、アタシのセンスなんだから当然だけどっ!」
と笑った。
「お前、分かってて焦らしたな……」
「さぁ〜?なんの事やら」
わざとらしく目線を逸らしながら、御織は黎翔をからかった。
「ったく……まいいや、それより出発しようぜ」
「だね〜。今から本部に向かえばちょうど9時前くらいに着けそう。てことで行こっか」
「おう」
黎翔がしっかり自室の鍵を閉めた後、二人は騎士団本部へ歩き始めた。
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「……いつ見ても壮観だな」
騎士団本部の入口前にて。呆然と、天を貫く程に高くそびえ立つ騎士団本部を眺めながら、零す。
「1000年前にもあったんでしょ?こんな感じのタワー」
「ここまで高くねーけどな」
御織に言われて思い出すのは、人生で一度だけ東京に赴いた時に目にした光景。街中に立ち並ぶ大きなビル群、それを遥かに凌駕する高さを持つあの銀色の塔───スカイツリーだ。
あれを見た時も衝撃を受けたが、こっちはスカイツリーよりもずっと高いように見えた。うっすらとしか覚えてないため確かなことは言えないが。
「さて、んじゃ行こっか。ロビーから申請できるはずだし」
「ほいよ」
御織に連れられ、黎翔も本部の中に入る。
入ってすぐのロビーは、昨日同様多くの人が訪れていた。受付カウンターらしき場所の前に幾つもの列が出来ていた。
(うーむ、こういう場所は苦手だ……)
基本的に静かな山中に住んでいたせいか、黎翔は人混みが得意ではない。見知らぬ人々に囲まれる感覚や、内容は聞き取れないのに声だけは無駄にザワザワと聞こえる感覚が不快でたまらないのだ。
「アタシたちは4番カウンターだね。支給物資受け取りだから」
「お、おう……わかった」
この人混みの中で並ぶのか……と少しだけ不安に近い不快感を覚えるも、必要なことだとは分かっているため素直に従う。
4番カウンターの列は、いくつもあるカウンターの中でも特に人が多かった。それを見ただけで息が詰まる気がした。
「長いねぇ」
「あぁ……」
「アタシが並んでてあげよっか?」
「いや、大丈夫だ。流石にお前一人立たせる訳には行かない」
御織一人立たせて自分は休憩など、絶対に許されざる愚行。たとえ最悪な気分でも、最低限の矜恃は保つのが黎翔の信条だ。
「大丈夫?」
「あぁ、耐えきるさ」
「そっか。でも、しんどかったらいつでもアタシに言ってよ?」
「言わねーよ。有言は実行するから安心しとけ」
「頼もし……くはないけど、まぁ分かった」
「そこは頼もしいって言い切ってくれよ……」
その後もイタズラっぽく笑う御織に揶揄われながら、二人で並び続けた。
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20分後、ようやく順番が回ってきた。
後ろには絶え間なく長蛇の列が出来ており、なんならさっきよりも人が多い。早めに来ておいて正解だったと感じた。
この20分で、黎翔は少しだけ人混みに慣れていた。最初程の気持ち悪さはなく、普通に立っていられるようになった。
「顔色良くなってきたね」
「ちょっと慣れてきたからかな。ありがとな、隣にいてくれて」
「アタシ、今回ばかりは何にもしてないけどね?」
ここまで我慢できたのは、御織のお陰と言っても過言では無い。
溢れかえる他人の中、1人でも知っている人がいるだけでも、安心感は段違いだ。それも、少し動けば手と手が触れ合う程に近くにいるのならば尚更。
実は黎翔は、並んでいる間、何度も御織の手に触れていた。偶然を装って、少しだけ。
これは下心でもなんでもなく、過呼吸による酸欠で起こる目眩のような感覚に耐えるためだった。目眩で視界がぼやける中、隣に御織がいるか不安になって、その手に触れた。
そのお陰で気分も落ち着き、目眩も楽になり……の繰り返しで、ここまで慣れてきた。だから、御織のお陰なのだ。
まぁ、こんなことは恥ずかしくて到底言えはしないが。
「お待たせしました。本日はどうなされましたか?」
ボーッとしていると、カウンターの向こうに座る女性に声をかけられた。ようやく自分達の番が回ってきたらしい。
「軍服を受け取りに来ました。注文してたヤツを」
「かしこまりました……では、本人確認をお願いします」
「ほーい。黎翔、カード出して」
「カード……あぁ、分かった」
御織に言われ、パーカーの内ポケットから小さなカードを取り出す。
それは、昨日貰ったステータスカードだ。失くしたと思っていたら、御織が持っていてくれたらしく、今朝服と共に渡された。
「お願いします」
「はい……少々お待ちください。えっと、1、3、7、4……」
カードを見ながら、パソコンに番号を手打ちするのを待つ。
(このカードは、1000年前で言うマイナンバー的なやつなのか。多分IDってやつで管理してるんだろうけど……桁数ヤバいから大変だろうなぁ)
必死に細かい番号を見て、1つずつ手打ちする姿に同情する。スキャンする機械作ればいいのに……と考えたりもした。が、
「確認できました、蒼井黎翔さんですね。ありがとうございます」
その作業はすぐに終わってしまった。あの桁数の番号をこの速さで打ち切っているあたり、慣れているのだろう。
「軍服の準備は整っております。こちらに……」
「え、採寸とかは無いんですか?」
想像以上にスムーズに終わりそうだったため、質問する。
「はい。黎翔さんの体格はカメラで確認していますので」
なんでそっちは一瞬でスキャン出来るんだ……と若干呆れつつ、
「じゃあ受け取りますね」
と承諾する。
女性はカウンター下の棚を少し漁った後、
「はい、ではこちらを」
とビニール袋に入った、紺色の軍服を取り出した。
分厚い生地に、胸ポケットに縫われている日の丸国旗。その軍服を見ると、本当に自分もこの軍に所属するんだ……と実感が湧いてくる。
「ありがとうございます」
受け取ると、手元にずっしりとした重みを感じた。その質量が、自身が現実に立たされていることを感じさせた。
「黎翔さん。こちらは騎士団長の聖様より貴方への贈り物です」
「え?」
軍服をじっと眺めていた黎翔に、受付の女性が小さな箱を渡してきた。
綺麗にラッピングされた、黎翔の手より少し大きい直方体の箱には、『入団おめでとう』という文字が書かれたカードが貼ってあった。
「聖が、俺に……」
帰ったら中身を見ようと思い、軍服と一緒に抱える。
「それでは……気高き騎士よ、生きてまた会えることを祈っております」
「……おう」
受付の女性の決めゼリフらしきものを聞いて、本部を後にした。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.17
POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068
INT:0 MP:0 RES:0 Total:3858
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』発動可能
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
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