第53話 星と月とを知らぬ者
「っし!いつまでもウジウジしてらんねーし、明るいまま寝る方法でも考えるかね!」
明るい声色で、自分に言い聞かせるようにそう言った。
(多分寝にくいとは思うけど、疲れてる時なら明るかろうが寝れるはずだ。つか、カーテンかなんかで光遮れば暗くも出来る。ま、その方法採用すると、朝一番の寝起きタイムも暗いままだから、交感神経が仕事しない可能性は否定出来ねーけど……それでも、寝れないよりマシだろ)
マイナスな思考からプラスの思考に切り替えただけで、黎翔の脳内には様々なアイディアが浮かんできた。そのアイディアは黎翔に希望を持たせ、更に思考が研ぎ澄まされていく。さっきまでとは真反対の、正の循環だ。
「あ、それについてなんだけど……」
「ん?」
循環の中にいた黎翔に、御織が声をかけてきた。
「黎翔に渡したい物があるんだ」
そう言いながら、部屋にあった木製のタンスを開け、中からなにか取り出す。
「じゃーん!」
と見せられたそれは、小さな丸いボタンが一つだけついたリモコンのようなものだった。
裏面に魔法陣のようなものが薄ら刻印されているが、真っ黒で光を帯びていなかった。今なにか効果を発揮している訳ではないらしく、御織の重力魔法では無いな、ということくらいしか分からなかった。
「なんだそれ?遠隔で電気点けたり消したりするやつ?」
「んーん。割と似てるけど違う」
「じゃあ何だ?」
考えても分からないため、諦めて質問する。
「ふっふっふ……見たら驚くと思うよ?」
「ほーん。期待しちゃうぜ?」
「その期待、裏切らないと約束するよ!」
余程自信があり、またそれを見せびらかすことが余程嬉しいようで、隠しきれずに笑みが零れていた。
(今頃、俺の反応予想して楽しんでんだろうな。よし、頑張って反応我慢しよっと)
黎翔の中に小さなイタズラ心が芽生え、そう決意する。御織への恩義より好奇心を優先するあたり、黎翔も中々にいい性格をしていると言えるだろう。
そんな黎翔を他所に、御織は得意気にリモコンを天井に向けて掲げた。
「見よ!これぞ現代魔法学の最先端技術ッ!!『擬似夜天───』!!」
決めゼリフを放つと同時にボタンを押し込むと、ピッという機械音が鳴った。
その瞬間───持っていたリモコンが光を放った。
光源は、リモコンに刻まれていた魔法陣。複数の魔法陣が突然立体的に広がり、輝き、動き出したのである。
白と黒の魔法陣は回転しつつ輝きを増していく。そして───
「っ!?暗っ!!」
突然、その魔法陣の光が消えた。と同時に、部屋全体に暗幕が降りたように暗くなる。
外から差し込んでいた光が消え、壁も窓も黒く染まっていた。しかし……
(なんだ?ちょっとだけ明るいような……)
ごく僅かな光が、天井から降り注いでいるのを認識し、上を見上げる。すると……
「!?すげぇ、なんだこの天井っ!!」
天井には、小さな白い点が幾つも出現していた。各々が極小の光を放ち、それによって部屋が照らされているようだった。
その無数の点は全て同じというわけではなく、大きさや光度、更には色も若干異なっていた。それらは無差別に天井を埋めつくしていた。
また、よく見ると天井がさっきより広くなっていた。無数の白点達は、一室の天井の枠組みを超えて散開し、巨大な空間を生み出していた。
さらに、無数に輝く点の中に、他とは一線を画するサイズの光の塊があった。綺麗な円形のそれは、所々黒い影のようなものが見え、表面も輪郭もハッキリと認識出来た。
(なんだこれ……?これは、まるで……)
見覚えのあるその光景に、言葉を失う。
それは、信じられない光景───自身が二度と見られないだろうと諦めていた光景だったから。
「夜空みたい───だよね?」
呆然と天井を眺めていた黎翔に、御織が声をかけた。
「……あぁ」
眼前に広がる、あまりにも美しい夜空に圧倒されながら、黎翔は返事を返す。
それは、まさしく魔法のようだった。
無機質な天井に、光に包まれていた白い一室に、突然夜空が舞い降りた。
それは、ただ天井に映し出された人口天体観測ではない。空間的広がりを持ち、どこからどう見てもそれが映像だと認識出来ない程に精密だったからだ。
手を伸ばしても、絶対に届かない───眼前に顕現した夜空が本物だと、黎翔の本能が告げていた。
反応しない、そう心に決めていた黎翔だったが、そう意識するまでもなく反応など起きなかった。魔法によって呼び出された本物の夜空に、目も心も奪われてしまったのだから。
「……そっか。よかった、上手くできたみたいで」
そんな黎翔の反応に対して、御織は胸を撫で下ろしながら、安心したと言わんばかりの反応を示した。
「ん、上手くできた……って、どういうことだ?まさか、お前もこれ使ったの初めてなのか?」
「そうじゃないんだ。ただ……」
黎翔の隣に立ち、共に夜空を眺める。
「……アタシたちは、夜空を見たことがないから。本物がどんなものなのか、見たことないからさ。あんな感じで合ってるのか、分かんなかったんだ」
夜空を眺める少女は、少し寂しげにそう言った。
「そ……っか。この時代には夜がないんだもんな」
「そう。星も月も、私たちは見たことがない。本物を知らないの。それでも、黎翔に夜空を見せてあげたくて……本物には及ばないにしても、魔法を使って似たものを見せるくらいは出来ると思ったんだ。気に入ってくれた、かな。えへへ」
魔法によって創られた光を浴びながら、黎翔に向けて笑いかけるその少女は、笑ってはいるが、どこか不安そうに見えた。暗くてハッキリと表情を見ることは出来ないが、雰囲気でそう感じたのだ。
(そっか、そうだよな。これは魔法で生み出された偽物の夜空。本物な訳がないんだ)
黎翔は、もう一度じっくりと夜空を観察した。
そして……改めて、御織の方を真っ直ぐと見た。
「御織」
「ん、うん」
落ち着いた黎翔の声を聞き、御織は黎翔から視線を逸らした。緊張しているのか、少しモジモジしている。
黎翔は優しく笑いかけながら、言葉を紡いだ。
「この夜空は……間違いなく本物だよ」
静かで、優しくて。でも、ハッキリと、1音1音が放たれた。
それを余すことなく聞き取った御織は……
「……!〜〜〜〜〜っ!!!」
瞳を輝かせ、口を開き。徐々に顔が綻び、緊張が解けて笑顔になっていく。そして……
「やっっっっっったぁ〜〜〜………っ!!!」
その場にしゃがみ込み、全力でガッツポーズを決めた。
「ちゃんと本物に似てた!?」
「いや……御織、お前ホントすげぇよ。まさかもう一度見れるなんて思ってなかった……似てるんじゃなくて、これは最早本物だよ」
興奮した様子で話す御織に対し、黎翔も興奮を抑えきれずに少し早口になる。
黎翔は、初めて見た時から気づいていた。この夜空の既視感に。
その正体は、季節を無視して存在する数多の星座達だった。黄道上に存在する十二星座は当然として、各季節の三角形や北斗七星、オリオン座などの有名なものは一目で見つかった。他にも数々の星座達が形を成していた。
何より───最も大きな輝きを放つ満月は、光の当たり具合やクレーターまで再現されていた。月を見たことが無いとは思えぬほど、精密に。
1000年前の実際の夜空は、ここまで完成されてはいない。星座も月も欠けがあり、全て同時に見ることは出来なかった。それが天体観測の醍醐味でもあるのだが。
それでも……魔法によって生み出された、完成されたその夜空は、この世で誰一人として観測したことのない夜空だ。黎翔にとっては、既視感がありながら、唯一無二の美しさを持つ光景だったのである。
「これ作るの大変だったろ?」
「当たり前だよぉ!色んな人と色んな魔法重ね合わせて、数少ない500年前の文献から天体の配置研究して、魔法調整して、刻印して……まぁ〜大変だったんだからっ!!」
手足をジタバタさせながら早口で苦労を説明され、黎翔は更に嬉しい気持ちが大きくなる。
「ホンット、ありがとうな。俺、これから頑張れそうだよ」
「……んふふ、その言葉だけでアタシは報われたよ」
黎翔も御織も、心から幸せを感じながら、笑った。
「さーて、本物を識る人からのお墨付きを頂いた訳ですし……アタシも一緒に見ーちゃおっと!」
「あぁ。こりゃ俺が独占するにはもったいないからな」
二人で一緒に、ベッドの上に座る。そして……
天井いっぱいに広がる夜空を二人で並んで眺めながら、幸せな一夜を過ごした。
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蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.17
POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068
INT:0 MP:0 RES:0 Total:3858
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』発動可能
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
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