第45話 本気の殺意、追撃の嵐
こんにちは。
顎に強烈なアッパーが入り、男の上半身は若干宙に浮く。
その一撃は、最初にモンスターを倒した時の一撃よりも強い一撃だった───と思う。
(あん時よりレベル上がってるし、流石に倒せただろ。てか、むしろやりすぎた可能性も……)
大丈夫かな?となぐってから不安になり、男の方を見る。
男は、殴られた反動で仰け反っていた。のだが……
様子がおかしい。仰け反ったまま、そのまま後ろへ倒れることも起き上がることもなく、その姿勢を維持している。
だらんと腕を垂らし、脱力しているのに、仰け反った姿勢をキープするというかなり筋肉を使いそうなことをしているその様に、言い得ぬ不気味さを感じた。
(え、まさかまだ意識あんの?てか、意識あるなら姿勢戻せよ。キツイだろ、その姿勢)
男の不気味なまでの謎行為に不安になり、少しだけ後ずさりする。
すると、男がぼそりと何かを呟いた。
「……キが」
「え?」
なんて言ったのか、と男の方を更に凝視する。
次の瞬間、
「クソガキがァァァァァァッ!!」
「っ!?」
突如大声で叫びながら、腹筋だけを使って起き上がってきた。
その勢いは凄まじく、デカい声と強烈な殺気、起き上がってくる動きの気持ち悪さが同時にやってきて、黎翔の思考が一瞬止まる。
そう───隙が出来てしまったのだ。
「ふんっ!」
起き上がる勢いをそのまま利用して、男は一歩前に踏み込みながら黎翔に向かって頭を振り下ろす。
流れるように距離を詰められ、先読みでの対処すら出来なかったせいで、黎翔は回避が間に合わなかった。
「やっ───」
ゴチン!
「がっ」
とんでもない勢いの頭突きは、黎翔の額に直撃する。
(痛っ……たぁ……コイツ石頭すぎだろ!?)
激痛を通り越して意識が飛びそうになるレベルの頭突きで、黎翔は後ろによろめく。半分脳震盪のようになり、千鳥足になる。
が、その瞬間に嫌な予感を察知した。
(おい、これまだ来るやつじゃねぇか……!?)
回避行動を取ろうとするが、頭突きで脳震盪になりかけているせいで身体を上手く動かせない。立っていることでさえ精一杯なのだから、当然だ。
ぼやけた視界では、男の輪郭しか捉えられない。が、何となく右腕を振り上げていることは分かる。
(クソ、背に腹だ……!後のことは知ったことかよっ!!)
その瞬間、黎翔は行動を決めた。
男の拳が迫る中、黎翔は───
あえて、全身の力を抜いた。
脳震盪でよろめく身体は、全力で支えてないと倒れてしまう。力を抜いた今、立っている事など出来ようはずがない。
そう、黎翔の狙いはそこにある。
黎翔の身体はゆらりと揺れながら、その場にうつ伏せの状態で倒れ込む。
腕で一応支えはしたため、顔や頭は無事だ。ただ、膝から行ったせいでちょっとだけ痛い。
が……今最も食らってはならない一撃だけは避けたのだ。
男の拳である。
攻撃する気満々だった男の拳は、黎翔に向かって一直線。だったのだが、黎翔が急にぶっ倒れたせいで当たらなかったのだ。
「あァ!?」
これには男もビックリ。冷や汗をかきながらこちらを見ていた。
動揺している隙に、黎翔は腕を使って後ろに飛び退きながら姿勢を整える。今の一瞬で脳震盪も治り、準備万端だ。
「……テメェ、思ったよりかァ強いじゃねェーか」
「そりゃどーも」
「だからよォ……こっからァ俺も本気で戦ってやるよ」
そう呟いた途端、男の雰囲気が変わる。
さっきまでの強烈な殺意は少し落ち着き、代わりに突き刺さるような殺意が発生した。
何言ってんだ?と思うかもしれないが、実際そうとしか言いようが無いのだ。言い換えるなら、さっきまでの殺意はとにかく色んなものに向けていた。広範囲型殺意、と言うべきだろうか?
だが、今回は違う。ひたすらばら撒かれていた殺意が、黎翔に一点集中しているのだ。
視線もより鋭く尖り、構えも変わった。少し力が抜け、より自然かつ隙のない構えになっている。
コイツ、ヤバい───直感的に察した。
「いや、それは遠慮した───」
「問答無用ォ!!」
会話を試みようとするが、当然成り立つわけも無く。
床を蹴り、一直線に迫ってきた。
(チッ、やるしかねぇ……!!)
黎翔も、覚悟を決める。
(アイツの攻撃、一撃貰っただけでヤバい気がすんだよな。威力も速度も俺より上だ。多分、俺よりレベルが高いんだろう。となると、全部避ける必要がある……無理じゃね?)
そう考えている間にも、男は迫ってくる。
(スキル2つを全力で使って、ほぼ先読みみたいな形で避ける。で、隙を見て反撃……これだな)
短時間で結論を出し、実際行動に移す。
男の全身を隈なく観察し、目と勘で行動を把握、回避する。それだけのことだ。
男は、右腕を全力で振り上げている。さっきまでより明らかに速度が上がっている。
が、避けられない程じゃない。そう判断し、回避行動に移る。
(勘的にフェイントも無い。やっぱり素直な動きだな)
そう安心し、そのまま右下に身体をズラして避けようとする。
が……問題はそこで起きた。
(っ!?コイツ、まさか……!!)
右腕が顔の前まで来た瞬間、猛烈に嫌な予感がした。
見ると、男の左腕が攻撃の構えを取っていたのだ。
(右手はフェイントじゃない。現に、もう耳元まで振り下ろされてる。てことは、左手は追撃?)
急いで考察を進める。が、
(っ!?左手が動き始めた!?)
右腕を振り下ろして間もなく、今度は左腕が伸びてくる。
(ちょちょ、追撃速すぎだろ!?)
避けなきゃマズイ、と必死に思考し、今度は左足を軸に身体を少しだけ回転させ、伸びている男の腕の下を潜って左に回避する。
ギリギリで左腕は黎翔の背中3cmを通り過ぎて行った。若干服に掠ったが、生身は無傷だ。
(よし、何とか避け───っ!?)
回避出来たことを喜ぶのも束の間、更に嫌な予感はやって来る。
(今度は……足か!!)
チラリと全身を観察すると、左足が浮いているのが見えた。
今度は、また右側に身体をズラして回避する。
再びギリギリで回避した───が、男の攻勢は止まらない。
(右手、左手、右足、右足、左手、左足、っと頭……!!)
『狩猟者の勘』の事前察知と『野性』の観察で何とか先読みすることで、嵐のように訪れる多彩な攻撃を全て回避する。
(コイツ、さっきまでと動きが違う。フェイントはないし素直な攻撃ばっかりだが、代わりに次の一手への『繋ぎ』を常に考えてるんだ。だから、動きに流動性があって追撃の手が止まらねぇ……!!)
必死に回避を続けながら、反撃の隙を探す。
男は、涼しい顔で攻撃を放ち続けていた。黎翔は少しずつ追い込まれ、息が上がってくる。
(右手、左手、左手、右───アッパー!左手、左手、右───ラリアット!?ちょちょ、待て待て待てぇ!?)
次第に技の種類まで増える。さっきまで繋ぎやすいジャブ───といっても威力はストレート並だが───ばかりだったのに、色々な技を織り込んできた。
その多彩な攻撃の回避に気を取られ、一瞬腕に集中力が取られる。
その瞬間、
「ぬぉっ!?」
黎翔の勘ですら察知出来ない程、速く静かに右足で黎翔の足を払ってくる。
それに反応できず、黎翔の身体はぐらりと倒れて宙に浮く。
(あ、ヤバ───)
そう理解した時はもう遅かった。
男は、今までの追撃と同様、素早く流れるように右手を伸ばし───
黎翔の、鳩尾に入れた。
「ぁがっ」
その一撃は強烈だった。痛みだけで黎翔の意識が揺らぐ程に。
短い悲鳴を上げた後、黎翔の身体は後ろに吹き飛ばされる。
(ぐ………っそが………)
御織の足元まで転がり、そのまま意識を失った。
──────────────────
蒼井黎翔 ID: 137438691328
Lv.17
POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068
INT:0 MP:0 RES:0 Total:3858
職業:狩猟者ハンター 階級:特異
スキル:『狩人の心得』パッシブ
『狩猟者の勘』アクティブ化 3402秒
『野性』パッシブ
『獣殺一閃』発動可能
ステータス補正:物理特化
──────────────────
読んで頂きありがとうございました。よろしければ、いいね・ブックマーク・感想などよろしくお願いします。飛び跳ねて喜びます。




