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第44話 フェイントの応報

「痛ったぁ……!」


 割れそうな程に痛む頭頂部を手でさすりながら、ゆっくりと身体を起こす。

 黎翔の渾身の人間砲台は、見事男の顎に直撃した。

 それによって、男に大きなダメージを与えたのは確かだった。が、同時に黎翔の頭もかなりの衝撃を受けていた。


 原因は、自分の思っていたより脚力が高かったこと。先の『ボス』戦でレベルアップしたことでPOWが大幅に上昇したことを忘れていたのだ。


(クソォ、思ったより勢いついちまった……)


 レベルアップしてたの忘れてた……と若干後悔し、今後の戒めにしようと決意する。


(まぁ何はともあれ、これで倒せたし……拘束だけしとくかね)


 倒れている男の上に馬乗りの状態で、完全に油断と慢心を抱えたまま思考する。

 男の身体つきはかなりしっかりしていた。腹筋も、腕も、足も、多少触っただけで日頃から鍛えていると容易に分かる。


 特に、腕撓骨筋が常人より遥かに大きかった。転移前からトレーニングを続けていた黎翔よりも遥かに、だ。


(手のひらデカいし、色んなとこに肉刺もあるし……もしかして剣道やってるとか?)


 中学時代の友人に、剣道部の生徒がいたのを思い出す。

 彼は比較的細く、筋肉質とは言えない身体つきだった。腹筋も背筋も、大して強くない。


 が……腕の下側にある腕撓骨筋だけは、黎翔よりも一回り近く大きかった。それを思い出しながら、目を細める。


(剣道やってんのに銃使ってたのか……意味分かんねぇな、コイツ)


 訝しむように男を眺める。卑怯だな……と心の中で嫌味を述べながら。


 勝利を確信している黎翔は、完全に気を抜いていた。全細胞が油断しきっている黎翔に───


 突如、殺意が突き刺さる。


「ッ!?」


 拘束するために立ち上がろうとした瞬間、悪寒が全身を駆け巡る。


「なん───」


 なんだ、と言い切るより先に、視界内で何かが動いた。

 男の、気絶していたはずの男の、大きな右腕だった。


 気を抜いていた黎翔は、殺意に反応したにも関わらず回避が出来なかった。男に馬乗りになっていたせいで、即座に立ち上がれなかったのだ。


「チィ───」


 飛んできた右拳を回避できず、両腕をクロスさせてガードする。


 空を裂くようなその拳は、黎翔の顔面目掛けて真っ直ぐに伸びる。それを『野性』の視界で認識して黎翔は、両腕を顔の前に置いた。

 次の瞬間───


 ドゴッ!


「っが……!!」


 鈍い音と同時に、重い衝撃が腕に加わる。

 その一撃は、黎翔の想像以上の威力だった。ガードしていた両腕から肩にまで痛みが響き、特に表側にあった右腕は骨が折れたのではと思うほどの激痛を感じた。


 更に、その衝撃は腕だけでは受け止められず、そのまま頭にまで響いてきた。

 意識が飛ぶ程では無いものの、鈍い衝撃によって頭が後ろに倒れそうになる。


(クソッ、コイツ───騙しやがった!!)


 黎翔は、その瞬間にやっと理解した。

 この男、初めから気絶などしていなかったのだ。


「チッ!」


 一気に上半身を起こした男は、煩わしげに舌打ちしていた。今ので黎翔を倒すつもりだったのだ。


 今の一撃で後ろに倒れかかっている黎翔に向け、男は更に左腕で追撃しようと構える。


(喰らうかよ……!!)


 それをいち早く察知し、黎翔はわざと上半身を後ろに倒す。今の衝撃を受け止めるのではなく、利用したのだ。

 男は、再び顔面を狙ってきた。ぐらつく頭目掛けて真っ直ぐ伸びた左拳は、身体を反らした黎翔の鼻先を掠める。


「やりやがった……なっ!!」


 ストレートを空かして若干隙ができた男に対し、今度は黎翔が反撃する。

 身体を反ったついでに両手をフローリングに着け、力を入れる。そして、男の腰あたりに跨っていた両足を浮かせ───


 男の顔面目掛けて、腕の力だけで一気に跳躍する。


人間砲台ヒューマンカタパルト・改!」


 先程同様、威力重視で一気に突っ込む。

 先の一撃で腕は痛むものの、大した怪我にはなっていなかったらしく、普通に踏ん張ることも出来た。

 またも高速で、今度は足から男に突っ込む。その一撃は、再び男の顎を直撃───


「喰らうかよォ!!」

「何っ!?」


 ───する前に、男の両手に阻まれる。

 直線的なその攻撃を読んだ男は、かなりの勢いがあったはずの蹴りを、両手で軽々受け止めた。

 更に、そのまま黎翔の足首をがっちりと掴む。


 ざらざらとした大きな手は、凄まじい力を持っていた。握られるだけで折られそうな程だった。

 更に、男は足首を持ったまま若干腕を持ち上げる。その僅かな動作から、次の攻撃が予測できた。


(ヤバい、投げられる───!!)


 それだけはダメだ、と必死に抵抗する。


(この狭い室内で俺が投げられたら、確実に部屋が無事じゃ済まねぇ。床か壁の損傷、あるいは家具の破壊……なんかしら壊れるのは間違いない)


 御織が用意してくれたこの素敵な部屋を、これ以上壊されたくない───

 その一心で、黎翔は全力で暴れる。


「オラァァァッ!!」

「あァ!?」


 足を掴まれたまま、足と腹の筋肉を酷使することで、膝と腰を丸めることに成功した。男の握力が高かったお陰で、落とされることもなく成功する。

 空中にいながらも、膝を曲げることで一気に黎翔の上半身が男の方に接近した。その勢いを利用し、黎翔は右手でフックを狙う。


「ハッ!素人がァ、見え見えなんだよォ!!」


 それを容易く予想され、黎翔の右足を持っていた左手を離して防御に回す。

 が───黎翔の側も、それを読んでいた。


「それはこっちのセリフだ!!」

「っ!?な───」


 男が左手を離す───それとほぼ同時に、解放された右足を全力で伸ばす。


「ごォッ!?」


 至近距離で伸ばされた右足は、男の鳩尾にクリーンヒットした。踵で男の腹を抉るように押し付けると、男は右手も離し、苦しそうに声を上げながら後ろによろめく。


 黎翔は、解放された左足で着地して体制を整える。そして、投げられなかったことに一安心しながら、男に向き直る。


「て、めェ……ッ」


 男は、生理反応で涙を目に浮かべながら、殺意に塗れた瞳で黎翔を睨む。

 今の一撃は相当効いたようで、両手で蹴られた場所を押さえていた。


「許さねェ……ぜってェーブチ殺してやらァ」

「はっ、やってみろよ」


 ズキズキと痛む腕を揺らしながら、余裕な態度で煽る。

 今の短時間の戦闘で、黎翔はまだ腕で受けた一撃以外ノーダメージだ。対して、男は既に顎と腹の2発、強力な攻撃が命中している。


(コイツ、中々強いみたいだけど……素手での戦闘は別に怖くねぇな)


 一瞬のやり取りを行った感覚として、力は黎翔と変わらないものの、戦うのが上手い訳ではなさそうだった。


(拳銃のフェイントやら気絶のフリやら、駆け引きはそこそこ出来るみたいだ。が、それはあくまで戦闘の前段階の話。殴り合いの戦闘が始まったら、動きは素直だ)


 実戦経験に乏しい───転移者の黎翔がそう言うのは明らかにおかしいが、そう感じていた。


「フーッ、フーッ、フーッ」


 荒く深い呼吸をしながら、男は両手を構える。黎翔も、拳を握り締めて構え、戦闘に備える。

 距離5m。2人の間で再び行われる心理戦。互いの一挙手一投足に集中する。

 先に動くのは───


「うおおぉぉぉっ!!」


 珍しく、黎翔の方だった。

 右手を振り上げ、わざとらしく攻撃する姿勢を取りながら、黎翔は2歩前へ踏み込む。


 それを見ていた男は、ニヤリと笑みを浮かべた。


「ハッ!バカがよォ!!」


 その光景を見て、男は右手での攻撃、すなわち男の左上から来る攻撃を防御するように、左腕で頭部をガードする姿勢になる。


 完全に見切ったと判断したのだろう。既に防御しきったつもりのようで、防御の後はカウンターを、と考えているかもしれない。


 黎翔は───


「バカはそっちだ!!」


 当然、それはフェイントである。

 途中で身体を右下に倒す。同時に振り上げていた右腕も少し高度を下げ、下向きにする。そして───


「アッパーァァァァァァ!!」


 再び、顎を狙う。

 最初の人間砲台で、男の顎に大ダメージが入っているのは知っていた。だから、再び顎に打ち込めば流石に倒せるだろうと踏んだのだ。

 男の素直さからして、フェイント読みは出来ないと判断した。距離が近かったため、尚更そこまで思考する暇もないだろうから。


 油断していた男は、当然その攻撃を防ぐことが出来ず……


「んがッァ」


 綺麗に命中。ゴリッ、という嫌な音を立て、男の顎は再び強い衝撃に包まれた。



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蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858


職業:狩猟者ハンター 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』アクティブ化 3720s

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

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