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第41話 楽しい学生寮探検

「おじゃましまーす!」


 親戚の家に遊びに行く子供の如きハイテンションで、寮の入口の扉を開ける。

 慌てて黎翔もついて行く。恐る恐る「お、お邪魔します……」と呟きながら。


 屋内は、汚れひとつ無く綺麗な場所だという印象を受けた。

 扉が付いているタイプの下駄箱がズラリと並び、玄関はパッと見砂一つない。手入れが行き届いている証だ。


 正面には受付的な空間があり、奥には様々な鍵や張り紙がされている。今は誰もいないようだが、普段はここに管理人的な人がいるのだろう。


 今のところ、人の気配は感じられない。チラリと右側に見える廊下的な場所も照明が付いておらず、少し薄暗い。


「……誰もいないのか?」

「う〜ん、寮母さんがいるはずなんだけどな〜」


 キョロキョロと辺りを見渡す。その後、


「ま、いっか!誰もいないっぽいし、入っちゃおう!」

「え、いいのか?これ不法侵入なんじゃ……」

「だーいじょーぶ!アタシを信じて!」

「過去一信用ならんが……?」


 なぜか自信満々な御織は、そのまま可愛らしいフリル付きの白い靴を脱ぐ。それを整えた後、彼女はズケズケと土間から床へと上がってしまった。


「ほら、早く行くよっ!時間は有限なんだから!」

「わ、分かったって……」


 不安に思って上がるのを躊躇う黎翔を御織が引っ張る。止むなく、黎翔も履いていたボロボロのスニーカーを脱いで足を踏み入れる。


「じゃ、まずは寮の中を案内するよ。その後黎翔の部屋まで連れてって、そのあとはゆっくりしよっか」

「分かったよ……はぁ、不安だ……」


 慣れた様子の御織を信じ、仕方なく黎翔はついて行った。


──────────────────


「とりま設備はこんな感じかな。結構しっかりしてるでしょ?」


 一時間近く寮内を歩き回り、『結構しっかり』の一言で言い尽くせぬ程の設備を案内しきった後、御織は歩きながらそう質問した。


 その辺の温泉くらいの広さがある風呂場や、飲食店並みの火力を実現するコンロ付きの綺麗なキッチン、洗濯乾燥室など、生活に必要な設備は当然のこととして……

 自動販売機やちょっとした図書館のようなスペースなど、ほとんど公共施設さながらのものだった。

 山の中の一軒家である黎翔の家とは、比べるのが失礼な程豪華な設備を目にし、黎翔は新生活に心を踊らせていた。


「ヤバいな、こりゃ。俺の家より遥かに近代的だし、なんなら公共施設ぐらいの感じだった」

「猟師の山小屋と比べるのやめな〜?」

「失礼な。エアコンもテレビも車もあったぞ!」

「3Cじゃん、懐かし。第2次大戦後の日本かな??」


 二人で冗談交じりの会話をしながら、陽の当たる廊下を並んで歩く。


(……平和、だな)


 若干感傷に浸りつつ、いつ見ても美しく広がる青空を眺める。


「嘘みたいでしょ?」

「うわっ、ビックリした」


 突然御織は足を止め、黎翔の顔を覗き込んでくる。

 物憂げな黎翔の表情は、驚きと同時に美少女の顔が間近に迫ったことに対する緊張で引き攣る。


 その様子を見てクスリと笑いながら、御織は言葉を紡ぐ。


「こーんなに平和に見えるのに、世界のどこかでは今も災禍ソルクティスに冒されて傷つく人がいるなんてさ。信じらんないよね?」

「あ、あぁ……そうだな」


 黎翔の考えていたことを完璧に言葉にした御織に更に驚かされる。


「……黎翔、君に聞いておきたいことがある」

「っ!!」


 急にピタリと動きを止め、真面目な表情で黎翔に語りかける。

 黎翔もその真剣な空気を肌で感じ取り、自然と姿勢が正される。


「黎翔は……この大学生活で何を目標とする?」

「目標……?」


 聞き慣れた、ありふれた質問に若干肩透かしを食らう。


「そりゃ当然強くなることだ。ここはそういう場所なんだろ?」


 先程、錯羅に言われた内容を思い出し、そう伝える。


(ここは大学って名は持ってるが、副団長は訓練施設だと言ってた。正式な指導員とかって話もしてたし、俺を育てるための───強くするための場所なんだろう)


 ありふれた質問に対するありふれた回答。何の意味が?と疑問に思いつつ、御織の反応を伺う。


「ん〜、それはそうなんだけどねぇ」

「…………?」


 御織は、黎翔の答えにどこか不満を感じていそうだった。頬を人差し指でかき、少し困ったような反応を見せる。


「アタシが聞きたいのは、そういう漠然とした感じじゃなくって……なんていうか、こう、『こんな経験をしたい!』みたいな?具体的な感じのや〜つが欲しいんだ!てなわけで、リテイク行ってみよー!」

「無茶振りすぎないか??」


 ダメ出しからのノータイムリテイクに、さすがの黎翔も思考が間に合わなかった。思わずツッコミたくなるほど(?)だった。


 黎翔は、再来した質問に頭を悩ませる。


(具体的に、つってもなぁ。どんな授業あるかも知らんし、同じ講義受ける仲間とか、講義の雰囲気とか、さっぱり分からんからなぁ)


 情報不足、という結論に至りつつも、必死に思考を続けた。

 若干の迷走の後、黎翔は答えを導き出す。


「まぁそうだな。せっかくの機会なんだし、ちょっとでも楽しめたらいいな〜とは思う。強くはなりたいけど、苦しいだけってのも嫌じゃん?だから……うん、楽しむことかな。俺の目標は」


 話し終えて、少し恥ずかしくなる。結局漠然としている上、明らかに軍的な様相を呈すこの組織に似合わぬ回答になってしまったことに気づいたからだ。


 恐る恐る御織の反応を伺う。

 御織は、目を見開いてぽかんとしていた。その回答に呆気にとられたと見える。


「あの〜、御織さん?」


 そっと声をかけると、はっと正気に戻った。


「そ……っか。うん、そうだよね」


 何かを自己解決したように頷き、呟いたのち、にこりと可愛らしく微笑む。


「ステキな目標じゃん。アタシは好きだよ?黎翔のそういう図太いとこっ」

「ず、図太いかぁ……」


 黎翔も自身の回答を振り返って同じ意見に辿り着いたため、耳が痛い思いをする。

 が……


(なんか御織、ちょっと嬉しそう?)


 黎翔の回答を聞いた御織の表情は、とても柔らかいものだった。

 それは、ただ笑顔になったというわけではない。言葉で説明することは不可能だが……黎翔は直感的に感じ取っていた。


 少し安心したような、それでいて少し寂しそうな。

 母性にも似た感情を含んだ笑顔が浮かんでいることを。


 一瞬見せたその表情は、すぐにいつもの眩しい笑顔に上塗りされる。


「いや〜、やっぱし変なやつだな、黎翔は!にははっ!」

「う、うるせー!悪かったな、感性ズレてて!」


 満面の笑顔で揶揄ってくる御織の姿を見て、9割の楽しさと1割の不安を感じる。


(コイツ、何か隠し事する時に笑って誤魔化す癖あるっぽいし……なんか隠してる気がするんだよな。話の振り方もちょっち違和感あったし)


 確証は無いが、何となくそう思ってしまう。が、


(まぁ、今聞き出すのは違う気がするし……いっか)


 疲労の残る脳は即座に思考を停止し、9割の純粋な楽しさに目を向けた。


「さて。そんじゃ次は黎翔の部屋を案内するよ!」

「お、遂にぃ?」

「そう、遂に!キミのお部屋の紹介だよっ!!」

「イェー!!」

「レッツ〜───」

「「ゴー!!」」


 パーティーのようなテンション感で、飛び跳ねたり叫んだりと騒ぎ立てる。さっきまでの、若干落ち着いた雰囲気を吹き飛ばすかのように。

 そうして、軽やかな歩調で、2人は探検を続けるのだった。


──────────────────

蒼井黎翔 ID: 137438691328

Lv.17

POW:1557+50 DEX:1232 DEF:1068

INT:0 MP:0 RES:0  Total:3858


職業:狩猟者(ハンター) 階級:特異

スキル:『狩人の心得』パッシブ

『狩猟者の勘』発動可能

『野性』パッシブ

『獣殺一閃』発動可能


ステータス補正:物理特化

──────────────────

読んで頂きありがとうございました。よろしければ、いいね・ブックマーク・感想などよろしくお願いします。飛び跳ねて喜びます。

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