*結*
とびきり素直なオレは、ここで反省をしようと思う。
失敗は三つ。
一つ目は、狼男がおとなしいと油断したこと。一度家に帰り、ヴィアンを連れてここに来るべきだった。
二つ目は、大神さんを不安にさせないことには成功したが、逆に無意味に安心させたこと。それで気を緩んで、今まで抑え込んでいた狼男の力を解放させてしまった。
そして三つ目は、今日が満月だと気付かなかったこと。さっき窓の外の景色を――空に輝く月を、大神さんは見てしまった。
もし大神さんが『狼男』のイメージに忠実に願ったなら、満月の夜は狼男の強過ぎる力が最も強くなるはずだ。
だからこそ、こんな時間までヴィアンは懸命に狼男を探してるんだ。早めに手を打つ必要があると言ってたのは、こういうことだったんだ。
「くそ、どこ行った?」
木々が乱立する大神家の山を、オレは目的地もなく駆ける。
いや、正確には目的地はある。狼男のところだ。
だけどその狼男を、完全に見失っている。
『ウルフマンはその特性上、見境なく人を襲うんだ』
昨日のヴィアンのその言葉が、考えたくもない最悪の結末を想像させる。
なんとしても、町に行かせるわけにはいかねぇ。無人のこの山から、出すわけにはいかねぇ。
――ここで、オレが、食い止める。
だから夜の闇の中、狼男を捜す。
街灯などもちろんない山の中。いくら満月の夜だからって、暗くないわけがない――普通の人間には。
オレには春休みにもらった吸血鬼“もどき”の血が、まだ身体の半分くらい流れている。だから今日の月明かりは、いっそ明る過ぎるくらいだ。
……そうだ。まだ半分くらい残ってる。
多少の傷なら、問題ないレベルだ。常人の数倍――いや、数万倍の速度で回復できる。
『まぁ、とはいえ所詮はウルフマン“もどき”だからね。現実世界の肉体がベースである以上、身体能力もそれに付随するレベル。いわゆる『火事場の馬鹿力』ってヤツさ。たかがリミッターを外した程度じゃ、今のチルチルくんでも致命傷を負うことはまずないだろう』
と、腕ひしぎを掛けた後のヴィアンの補足説明を思い出した。
……………。
そうだ。アイツが来る前に、オレ一人で狼男を捕まえよう。
オレ一人でも大丈夫だと、見せつけてやろう。
そう決意したちょうどそのとき、狼の遠吠えが辺りに響いた。
場所は、そう遠くない。
オレはスピードを落とさず方向転換をして、目的地を目指した。
――“まだ”半分と“もう”半分。そんな語り尽くされた精神論を、甘っちょろい考えのオレはすぐさま身をもって知ることとなる。