*承・続*
「ウルフマン」
例によって例の如く、ヴィアンは開口一番そう言った。そしてさらに、
「何度も言うようだけど、僕は専門家じゃないから正確な情報じゃないかもしれないけど、それは承知しといてね」
と、お約束の前置きを続けた。
「ウェアウルフやワーウルフ、ヴァラヴォルフやルーガルーなんてのが呼び名としては正しいけど、この国で一番分かりやすいのはウルフマン。つまり狼男。なんのひねりもない、そのまんまの名前だよね」
って僕も他人のこと言えないか、と吸血鬼“もどき”は笑った。
「で、狼男の特徴とか特性は?」
「強靭な肉体に鋭い爪と牙。さらにパワーとスピードを兼ね備えた戦闘特化型。まともにやり合えばまず勝ち目はないね」
「なんだよ、そのステータス。強過ぎじゃねぇか」
「強過ぎ、か。なるほど。チルチルくんも、たまにはいいこと言うねぇ」
「『たまには』は余計だ。殺すぞ」
「“殺せる”ものなら是非」
と、ニッコリ笑うヴィアン。なので、
「……で、強過ぎがどうした?」
とりあえず無視の方向。
「……最近チルチルくん、つれないねぇ。恋人ができたからって、今までの人間関係をないがしろにするのは良くないよ。僕の経験上」
「うるせぇ、黙れ、飼い殺すぞ」
「しばらく生かされるの!?」
「首輪でつないで、毎日ギョウザとペペロンチーノをエサにしてやる」
「ひどい! ニンニク責めなんて! 次の日まで臭いが残ったらどうするんだい!?」
「それが嫌なら、さっさと続きを話せ」
やれやれ、と肩をすくめてからヴィアンは続ける。
「狼はね、犬と違って飼い慣らせないんだよ。人間の首輪程度じゃ、その強過ぎる力を制御できないんだ。だからウルフマンも同じく、力に振り回されて暴走する。そしてそれがウルフマンの弱点さ。理性のない獣なんて、人間が用意周到に仕掛けた罠には敵わないからね。ただ……」
ここで、いつも無駄に饒舌なヴィアンが黙り、考え込む素振りを見せる。
「ただ、なんだ?」
「学校で流行ってる『噂』ってのは、しばらく前からあるんだろう?」
「あぁ。結城の話だと二週間くらい前から目撃されてるらしい」
「そうか。それはやっぱり変だね」
「変? 何がだ?」
「ウルフマンはその特性上、見境なく人を襲うんだ。だけどそんな物騒な話は全く聞かない」
「まぁ、確かに。そんな事件、この田舎町ならあっという間に広がるしな」
「でも、チルチルくんが見たウルフマンは完全に表面化してる。なのに、暴走はしていない」
「あぁ。見た目は完璧に狼だったけど、オレを見たら逃げ出したくらいだしな」
まだ鮮明な記憶の中の狼男の青い目。それは今思えば、恐怖で怯える目だったような気もする。
「うーん……もしかしたらチルチルくんのドッペルゲンガーみたいに制御できてるのか、それともこのあいだの真実ちゃんのサキュバスみたいに抑制してるだけか……まぁ、なんにせよ被害が出る前に早めに解決するに越したことはないね」
「了解。明日学校で詳しく話を聞いてみるわ」
「うん、よろしく。僕も頑張って日中から、外で情報収集してみるよ」
と、言ってから、一度大げさに咳払いをしてヴィアンは続けた。
「ところで、僕のアイスは?」