*起*
『人の噂も七十五日』なんて諺があるけど、このネット社会では『噂』はそこまでもたない。
次々と新しい情報が入り乱れ、人は常に新しい刺激を求めてる。
だから、二年に超絶美少女がいる、とかいう『噂』もあっという間に廃れていった。
「『噂』も『伝説』も人々に伝えられ、想像されてこそ意味がある。そしてさらに願われることで初めて“僕ら”は生まれることが出来る」
そんなことを長々と以前、我が家の居候の吸血鬼“もどき”が語っていた。
だから、『噂』や『伝説』があるところには“彼ら”の存在があるかもしれないと、オレは考えるべきだった。
学校の屋上。昼休み。青空の下のベンチ。
「狼男?」
オレは結城真実が振ってきた話題をそのまま訊き返した。
「そう、狼男」
「こないだのつまんない映画じゃなくて?」
「うん。この辺で夜、何人も見た人がいるって話」
――まぁ、映画がつまらなかったのは認めるけど。
と、結城は苦笑した。
「単なる噂だろ。でかい犬と見間違えたとか」
「それが、しっかり二足歩行してたらしいよ。それにこれは『噂』じゃなくて『都市伝説』だから」
「いやいや。都市とか言えるようなとこじゃねぇから、ここ」
「もー、素直じゃないな、智流くんは。津々浦町もようやく都市化してきたっていう喜ばしいことじゃない」
「この海と山に囲まれた田舎町が? つーか、山ん中に洋館が建ってるとこなんか、絶対に都市じゃねぇだろ?」
「あぁ、大神さんの家のことね」
「あの家、大神っていうのか? よく知ってるな、お前」
と、感心すると、結城は大きなため息を吐いて、こめかみを押さえる癖を見せた。
「ウチの生徒会長でしょ、大神さんは。ホントしっかりしてよね」
――狼男だってしっかり二足歩行してるっていうのに。
と、続けて小さく呟いた。
「ちょい待て。今、聞き捨てならねぇセリフが聞こえたぞ」
「え? そう? 気のせいじゃない?」
「いーや、気のせいじゃない。それに、オレだってちゃんと二足歩行できるぞ」
そう言って、オレは跳ねるようにベンチから立ち上がった。
「いやいや、そんなことを誇られても……」
私だってできるし、と言いながら結城も立ち上がる。そして続けて、
「それじゃ、立ったついでに教室戻りますか。そろそろ昼休みも終わるし」
屋上の出入り口に向かって二足歩行を開始した。
だからオレもあくびをしながらも、すぐ後を追う。
「……眠てぇ。次の授業、なんだっけ?」
「現国」
「うわ、魚住さんじゃん。寝れねぇじゃん」
「……なんで授業中に寝ようとするかな、智流くんは? だいたい、このあいだだって――」
と、お説教モードに突入したので、オレは遠くの景色を眺めることにした。
屋上の緑のフェンス越しに、洋館が見える。
小高い山の中腹に建つ、推理ドラマに出てきそうな、立派な洋館が。
今回の『狼男』との戦いの舞台が。
――だけど、このときのオレはお約束通り、まだ何も知らない。




