表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/11

*終*


「男はね、時として狼になるべきなんだよ。飼い慣らされた犬になんか、成り下がっちゃダメなんだ。ちなみにこれも、僕の経験上の話だけどね。だからチルチルくんも気を付けなよ。ワイルドな一面もたまには見せないと、あっという間に真実まみちゃんに愛想尽かされるからね」


 昨日の夜の出来事が頭から離れず、今朝はいつもより早く起きた。正直、よく寝れなかった。

 だからいつもと違って先に身支度を整え、ヴィアンを正拳突きで起こし、朝飯を食べ、いつもより断然早く家を出た。

 学校に向かう途中、オレはこのあいだの映画のことを思い出した。何故、あの映画がつまらなかったのかを考えてみた。

 ……多分、エンディングが問題だったんだ。

 多くの人を傷付けてしまった主人公の狼男は、最後には愛する人を守るため、自らを傷付け命を絶った。

 そんな自己犠牲という名の自己満足が、どうしても気に入らなかったんだ。他人だろうと自分だろうと、誰かが傷付いた時点でハッピーエンドには決してならないのに。

 だから今回の対戦の結末も、オレには後悔と不満しか残っていない。

 ……………。

「おはよう、薄原すすきはらくん」

 校門の前で、とても朝一とは思えない爽やかな挨拶と、堂々とした仁王立ちで彼はオレを出迎えた。

「……おはようございます、大神おおがみさん」

 ローテンションながらも、オレも挨拶を返す。

「いやぁ、昨晩は本当にお世話になったね。大恩と言っても過言ではない。むしろ、そう言うべきだな。だから、いの一番に君にお礼が言いたくて、こうしてここで登校してくるのを待ってたんだ」

「待ってた、って一体いつからですか?」

「そうだな、薄原くんの登校時間が分からなかったから……三時間ほど前かな」

「三時間!? そんなにここにいたんですか?」

 つーか、三時間前はまだ学校開いてないし。

「なに、大した時間ではない。諺にもあるだろう、椅子の上にも三年、と」

「……椅子?」

「む。すまない、冗談だ。そのつもりだったんだが、分かりにくかったかな?」

「あ、いや、大神さんがそういうキャラだとは思わなくて……」

 突然ボケられても、どうツッコむべきか困る。

 つーか、椅子の上にも三年、って思いっきり楽してんじゃん。

「いや、僕もそう見られていないのは重々承知の上だ。だけどこれからは、そういう自分も出していこうと思ってね」

「……再発防止、のためですか?」

 ――自分を必要以上に抑圧しないことが、狼男の再発防止策。

 それが、専門家“もどき”の出した案だった。

「まぁ、結果的にはそういうことになるが、純粋に僕が楽しいというのも十二分にある。なので改めて言わせてもらおう」

 ここで大神さんは、わざとらしく咳払いを一つ。

「諺にもあるだろう、マッサージチェアの上にも三年、と」

「それはもう楽っつーか堕落です! 逆に身体悪くしそうだし!」

「そしてその後、車椅子の上にも三年」

「ほら、やっぱり身体悪くした!」

「しかし実は、オムライスの上にも三年」

「ケチャップの話だったの!? つーか、確実に腐ってるし!」

 ……………。

 小休止。息切れ、ネタ切れ。

「……ははっ、ははははは」

 とても爽やかに、大神さんは笑い出した。

「ヴィアンさんの言う通りだ。実に君はボケ応えのある相手だ」

「……あの野郎、余計なコト吹き込みやがって」

 ただ黙って治療もできねぇのか、あの吸血鬼“もどき”は?

 ………………。

「……そういえば、身体の調子どうですか? 痛みとかありませんか?」

「大丈夫だ、心遣いの方が痛み入るよ。傷口も全く残ってないし、体調もむしろ良いくらいだ。おかげで今朝は随分と早く目覚めてしまった。さすがは『吸血鬼の血』と言ったところかな。ただ――」

「ただ?」

「ヴィアンさんが言うには血の影響、副作用。しばらくの間、狼の力は完全に消えないそうだ」

 そう言って大神さんは、自分の手の平を力強く握っては開く動きを二度繰り返した。

「だが、慣れてしまえば逆に便利で有用な力だよ。瓶の蓋が開かなくて困ることもない」

 ――いっそ瓶ごと破砕できる程さ。

 と、大神さんは明るく笑い放った。

「とまぁ、こんな僕だけど、良ければこれからもよろしくお願いしたい」

 グーとパーを繰り返していた手を、パーの状態でオレに向けて差し出す大神さん。

 つまりは、握手だ。

 だけどオレは、それに応えるのを躊躇った。

 今は人間の形をしているが、それは間違いなく昨日オレを殺そうとした手だったからだ。

 そんなオレを察してか、大神さんはそのままの体勢で、

「安心してくれ、薄原くん。ここで待ってる間、ずっと力加減の練習をしていたから」

 と、少し方向性の違うフォローを入れた。

 そしてさらに続けて、一言付け加えた。


「ようやく十回中七回は成功するようになったところだ」



 果たしてこれが大神さんのボケなのか。オレはそれにツッコんだのか。そして何より、ちゃんと握手を交わしたのか。

 それは皆さんの想像にお任せしたいと思う。


 ――第三話「vs.おぼれるマーメイド」に続く。



 以上、もどきども第二話「vs.ろんずるウルフマン」でした。

 色々と批判・批評・訂正点があるとは思いますが、それを感想の方に書いて頂けると、作者は泣いて喜びます。

 詳しいあとがき的なモノは活動報告に書き込むつもりなので、よろしければそちらも是非。


 では、ここまで読んでくださった方々に最大級の感謝を!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ