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三題噺もどき4

ごみ拾い

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくじゅういち。

 




 すっきりと晴れた空に、星が輝いている。

 糸のように細い三日月は、今にも折れてしまいそうなほどに頼りない。

 数日後には新月を迎え、また満たしてくのだろう。

「……」

 人のいなくなった静かな道を歩いている。

 あるのは街灯の足元にできている影くらいで、人の気配は全くしない。

 きっと彼らは、麻酔のかかった患者のように、静かに眠っている事だろう。

「……」

 実は、数時間前まではかなり騒がしかった。

 普段はあまりない人通りがあったり、気分の上がった若者たちの叫び声が聞こえたり、なんともまぁ、こんな所までその雰囲気を持ってこなくてもいいと思うのだけど。

 どうやら、この近くで夏祭りがあったらしいのだ。

「……」

 花火の音がここまで聞こえてきた。

 かなり近くで上がっていたのか、結構な音が響いていた。私の従者なんて思わず耳を塞いでいた。見てもいない、音だけのものだったが……最終的には耳栓をしていたが、それでも聞こえるのか、かなりつらそうにしていた。

 あまりの爆音だと、他の音が聞こえなくなってしまうからなぁ……。

「……」

 今日の祭りの事は、今思いだせば、確かにマンションホールの掲示板あたりに、そんなチラシがあったような気がする。

 あまり関係のないことばかりだから気にしていなかった。

 しかし、今日の祭りはどちらかというと、ホントに地元の小さな祭りという感じなのだろう。だからチラシもそこまで大々的には張り出されていなかったはずだ。

「……」

 それより大きなチラシに記載されていたのは来週……正確には今週末か……の日付が記載されていた。どちらも毎年行われている祭りだが、規模が違うからな。

 少し前に行った大通りのあたりで大規模な祭りを二日にかけてやるのだ。去年はもう少し早かったと思うが……まぁ、色々あるのだろう。あの祭りは市が主催のはずだから、今回はずらしのだろう。先日はほら、な。

「……」

 生憎こんな生活をしている上に、果たして私にその権利があったかどうかがあやふやなので、あまり認知はしていないが。

 この時期、嫌でも視界にその情報が入ってくるからな……あまり深追いはしないけれど。難しい話はあまりしたくないものだ。

「……」

 こんな住宅街の端にも、看板が設置されているのだから。

 その看板も、今日のお祭り騒ぎのせいか、かなり汚されているけれど。ここにごみを捨てていくとは何事だろうか……。

 この辺はそんなに治安は悪くないはずなのだけど……まぁ、気分が上がってしまうと何をするかわかったものではないからな……。

「……はぁ」

 このままにしてしまってもよかったのだけど、視界の端にごみが映っているのに、それをそのままというわけにはいかないので。

 そのあたりにたまたま落ちていた袋を拾い上げ、適当にごみを入れていく。手で触る気にはなれないので、こう……ひょいと。誰のものとも分からない飲みかけなんて触りたくないだろう。どうして金を払ってまで買ったものを、こんなに残して置いていくのか意味が分からない……味が好みではなかったのか?知ったことではないが。

「……」

 今日はいつも以上に動きやすい格好でいるから、誰かに見られたりでもしたら……勝手にごみ清掃の人と勘違いしてくれそうだ。

 散歩であって、走ったりはしないのだけど、こうも暑いと汗をかいてしまうだろう。

 そこで今日はアンダーシャツの上に、半そでのシャツを着て、下は足の形にそったパンツを履いている。このアンダーシャツがいい仕事をしてくれるので、割かし快適に散歩ができている。

「……、」

 とりあえず、見える限りのごみを拾っておいたが、これはどうしたものか。

 確か明日はごみ収集の日ではあったが……まぁ、申し訳ないがゴミステーションの近くに置かせてもらおう。

 場所によっては袋の指定がされているようだが、この辺りはされていないので、その点はありがたい。透明な袋であればなんでもいいらしい。

「……」

 せっかくの散歩が、ごみ拾いで終わってしまった。

 まぁ、いい運動になったと思ってしまえばいいのだけど。




「ただいま」

「……おかえりなさい」

「耳は平気か?」

「……だいぶましにはなりました」

「お前はいつまでも花火の音は慣れないな」

「……うるさいのは無理なんですよ」











 お題:麻酔・アンダーシャツ・星

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