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まほろばの鬼媛 短編シリーズ集

続々、とある"会計責任者"の嘆き(または愚痴)

作者: いわい とろ

 今回の話は、本編最新話の直後の話になります。

 また、文字数も普段の短編よりは短めとなっています。

 サクッと記した雑文ではありますが、流し読みしてもらえましたら幸いです。




 今日も今日とて、忙しい女"増束はかり"は、またしても帝からのお召し出しを受け、宮中に参内していた。

 ただし、今回の召し出しに関しては、はかりもある程度内容の予測が出来ていたという……



『今回の帝のお召し出し。恐らくは先頃佐世保で起きた"東雲のバカ"と、当地に逗留していたアメリカ軍人の小競り合いに関するものであろう。』



 ……こう、心の中で考え、さらに続けて『しかし、こちらに上がってきた情報の限りだと、逗留していたアメリカ軍人が、先の戦役の終わりにあのバカのやらかしを目撃していた事が遠因になった衝突だと聞く。すると、アメリカ軍人の私怨からの行動と見て良いだろうな。今回ばかりは"また東雲か!"と愚痴らなくても良さそうだ。』と思っていた。


 そして謁見の間で、はかりはいつもの如く帝に拝謁することとなるのだった……




「臣、増束はかり、帝のお召により、只今参内致しました。本日はご機嫌麗しゅう御座います。」


「うむ、大儀である。さて、本日主計頭を召し出したるは他でもない。……はかりぃ〜、今回のアメリカの件、どうしよう?」




 ああ、始めはちゃんと威厳を示せたのに、会話の途中から突然崩壊した。

 しかし、崩壊はともかく、帝もアメリカとの関係を如何にするか困っているのだな。

 何とかこの場を収め、帝の御心を安んじせしめねば不甲斐ない臣下を持ったものだと思われてしまう。




「帝、既にその件の詳細は私めの手元にも来ております。どうやら東雲と因縁浅からぬ者がアメリカ側に居た模様です。」


「いづるちゃんと因縁がある?」


「はっ、どうやら例のアメリカ軍人、東雲がかつてアメリカ本土にちょっかいを出したのを目撃していたようでして、その時の無念を今日に至るまで忘れてはいなかったようです。」


「あ〜、そうか〜。それでいづるちゃんにちょっかいを出したのね。それではかり、そのアメリカ軍人はどうなるの?」


「既に新都の政府側も把握しております。また、アメリカ側にも通告したので、程なくアメリカ側で処分を下す物と思われます。ただ……」


「ただ? 何か条件でも出たの?」


「はい、それが……今回の件はあくまで偶発的衝突であり、アメリカ軍人の独断であるという事で話が進む事に。その際、水梨鈴鹿より寛大な処分を求める意見がでたとの報告を得ています。」


「水の鬼の王からそんな意見が……。となれば、いづるちゃんの意見も入っていると思って良いわよね?」




 ……うぬぅ、帝が期待に膨らむような明るい表情になっている。

 私が聞いた限りでは、水梨鈴鹿が自身の名前を出しても構わぬと申し出したとは聞いている。

 鬼の王が直々にその様な要求をしてきた以上、政府側も無視するわけにもいかなかったのだろう。結局、鬼の王の申し出を受けて、アメリカ側と交渉を行ったようだ。


 しかし帝……媛様、東雲の意思がどこまで反映されているか解らないのですよ?

 また、アメリカ側も東雲の事は詳しくは解らないでしょうし、例の軍人が戦いの過程で得た情報でも全てを把握出来たとは思えない……



『まあ、そういう雑な事は新都の役人達に任せれば良いと思いますよ媛様。』



 いかん、心の声とはいえ、軽口をたたいてしまった。幸いにして、周りは人払いされているから良いが、これを口に出して、誰かに聞かれたら私の首が飛びかねん。




「帝、色々と思う事はあるかと思いますが、あとの細事は新都の政府の仕事になりますので、彼らに任せましょう。いずれにせよ結局は"宮城大鴻臚"から最終報告が上がる物と思われますので。」


「大鴻臚から? 確かに外交・国防に絡む権限は彼に一任しているから心配はしていないけど……」


「大丈夫ですよ。あの御仁なら、上手く纏める事は出来るでしょうから。」


「……」



 ……ふぅ、私の言葉で沈思黙考なされたか。

 とりあえず大鴻臚の事を出せば、媛様はだいだい黙る。あのヤマト人、今は御老人になったが、基本的に有能寄りの人物だからな。






 謁見を終え、宮中の通路を自室へ戻る途上、はかりは不意に足を留めて、ふと考えていた。



『そういえば、大鴻臚の孫が美鶴嬢の通う学校にいたな。もしかしたら、既に接触を図っているかも知れん。佐世保には、学校関係者も含めて大鴻臚を知る者が多い訳だしな。』



 そう考えたのち、再び自室へ向けて歩き出そうとした時、はかりを呼ぶ女官の声が聞こえてきた。どうやら帝が再度はかりに来るよう指示を与えたらしい。



『やれやれ、何かあれば先程謁見していた内に言えば良いものを。この感じだと言い忘れがあったかな?』



 そう思いつつ、増束はかりは再び帝の下へと向かうのであった。そして、再度謁見の間へと入り、恭しく拝謁をしようとした時……



『大変よはかり〜。言い忘れてたけど今朝起きる前の"過去読"で見たけど、諏訪の"紬花"ちゃんが佐世保に行ってるみたいなの! 後見人でもある先代の土の鬼の王だった"岩瀬土花(いわせつちか)"と口論しちゃったみたいで、いづるちゃんを頼って家出したみたい!』



 ……自分の目の前に軽く駆け寄りながら、その様な事を口走る帝を見て、慌てて押し止めようとするはかりだったが、同時にその発言内容を聞いて……



『なにぃ!? 現役の鬼の王が家出!? 理由が口喧嘩!? 帝の過去読能力は精度が高いから、そうそう外れる事はない。となれば……』



 ……内心で斯く思いつつ、更に『東雲を頼って家出とか前代未聞すぎる! ま た し て も 東 雲 な の か!!』と心の声で叫ぶ増束はかりであった……






 ー おわり ー

 


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