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第九章 平穏な日常

【平穏な日常 ミント】


 新婚旅行から帰ってきて数日、僕は不在の間に減った薬の調合におわれていた。

 熱冷ましと、腹痛のくすりの減りが多いのは予想通りだけど、傷薬と包帯がごっそり減っているのはなんでだろう…。

 僕とヴェルが温泉旅館にいる間、一足先に帰ってきていたノワールさんと、リックとロンなら何か知ってるかな…。

 最近、リックとロンが疲労困憊みたいだし関係があるのかな。

 あ、そうだ!2人に滋養強壮の薬湯を作ってあげよう!


「ねえ、ミント。薬の調合ってまだ時間がかかりそう?」

 僕の作業部屋のソファーで、僕が焼いたチョコチップクッキーを食べながらくつろいでいたヴェルに声をかけられた。


「今日の分はだいたい終わったよ。いつも待たせちゃってごめんね。」

 と、僕が謝ると、

「いいんだよ、ミント。私はミントを見ているのが楽しいから。でも、ちょっとこんをつめすぎだよ?

 一緒にお茶にしない?今新しい紅茶淹れてくるから」

 そう言って、ヴェルはキッチンへ消えていった。


 少しして、ティーセットを持って戻ってきたヴェルに、目を奪われた。

 いつも暗い色合いの服を着ていることが多いヴェルが、薄いブルーののワンピースを着ていたからだ。それはヴェルの艶やかな黒髪と紅玉の瞳にとてもよく似合っていた。

「ヴェル!どうしたの?!今日何かあったの?」

「ちょっとミントを驚かせようと思って。似合うかな?」

 くるりとターンをして、にっこりと微笑むヴェル。

 最高に綺麗で、かわいい。

「すごく素敵!よく似合ってるよ。」

 僕を驚かすために着てくれたなんて、うれしくて涙が出てしまう。

「ちょっと、ミント!なんで泣くの?!」

「ごめん。でもヴェルが僕のためにかわいい服を着てくれたなんてうれしくて…。」

 そう言うと、ふふっと笑ってヴェルが涙を拭ってくれる。

「私はミントのためなら、なんでもするよ?

 このくらいで泣いちゃうミント、かわいい。」

 そう言って、僕のおでこに口付けた。


「ところで、その服どうしたの?」

 2人並んでソファーに座って紅茶を飲みながら、ふと疑問に思って聞いてみた。

「昔、まだ生家にいたころの荷物を整理してたら見つけたんだよ。」


 ヴェルは無限に物が入る(そして中にある間は物が傷まない)魔法のカバンを持っていて、どうやらその中身を整理したようだ。

(このカバンはある程度の魔法使いならだいたい持っているらしい)


「ヴェルの生家って、まだあるの?」

 長く生きていると聞いていた僕は、ふと疑問に思った。

「…あるには、あるんだけど…」

 歯切れの悪いヴェル。

「あるにはあるんだけど?」

「そう、あるにはあるんだけどね。なんていうか、その、ね…?」

 ここまで歯切れの悪いヴェルは珍しい。

「気になるよ!ヴェル、教えて!」


 僕がそう言うと、意を決したようにヴェルが言った。

「昔、ちょっとしたいたずらで私の魔法ですこーしいじって、屋敷を硝子の城に変えちゃったんだよね。

 で、せっかくだから観光地にしちゃおうかと思って、周りも硝子の庭園に変えてさ。…そうしたら、ノワールにすごく怒られたんだよね…。」

 斜め下を見ながらもじもじするヴェルはかわいいけれど、やってしまったことのレベルが凄すぎる。そして自分の主を叱れるノワールさん、かっこいい!

「お家を硝子の城にしちゃったの?!

 しかも観光地にしちゃうって、だれも住めないよね?」


 さらにもじもじしているヴェル。

「うん。だから怒られたんだ。『ここには使用人やその家族も住んでいるんですよ!彼らのことはどうするんですか!』って。」

「それでどうしたの?」

「とりあえず近くに屋敷を魔法でどーんと立てて、使用人用にして、私は旅に出るから、硝子の城の管理を任せた…」


 うちのかわいい奥さんのいたずらは、スケールが違いすぎる。

「あ、あのね、ミント!人気の観光名所になったから、その収入だけで遊んでくらせるくらいだから!」


 使用人さん達のこともちゃんとして、さらに収入まで得るなんて、ヴェルらしいと言えばヴェルらしいけど、ノワールさんが怒った理由はすごくよくわかる。

 ちょっと呆れてため息をつくと、

「だから言いたくなかったんだよ!もう!」

 真っ赤になって拗ねるヴェル。

 そこへ件のノワールが現れた。


「ヴェル様、ミント様、せっかくですから硝子の城の現状を確認しがてら、観光に行くのはいかがでございますか?

 ミント様の薬屋は、リックとロンに任せて良いようにしっかり仕込んでありますので。」


 いきなり現れて、さらっとすごいことを言うノワールに、ヴェルの機嫌が治ってさらにうきうきし始めている。

「行こう、ミント!ちょっと遠いからまた旅行になっちゃうけど、ミントに私の傑作を見せたいな。」

 目がきらきら輝いている。こうなると止めるのは無理そうだ。

 薬屋のことがかなり気になるけど、ヴェルの傑作も見てみたい…。

「わかった。行くよ。ただし、5日後からね。

 まだ薬の補充は完全じゃないし、リックとロンの様子も心配だし。」

「ありがとう、ミント!じゃあ5日後に硝子の城見学旅行へ出発!!」


 ヴェルは、嬉しそうにミントの体に飛びついて口付けした。

 そのまま口付けを繰り返している間に、いつの間にかノワールの姿は音もなく消えていたのだった…。

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