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第六章 新婚旅行は終わらない?!

【新婚旅行は終わらない?! ヴェル】


 開かずのドールハウスの事件を解決し、宿に戻った私とミント。

 解決してくれたお礼にと、村長が用意してくれたサンドイッチとスープを食べていると、窓の方から不穏な気配を感じた。

「ミント、私の後ろに。ノワール!」

 私はミントを背で庇い、ノワールを呼び出す。

 ノワールは瞬時に現れ、戦闘態勢をとった。

「ヴェル様、来ます!」

 ノワールが緊張を滲ませて、敵の来襲を告げた。


 ガッシャーン!!

 窓が粉々に吹っ飛び、箒に跨り怪しい笑みを顔に貼り付けた魔法使いが入ってきた。

 窓を粉々にした直後とは思えないほど、落ち着いているくすんだ銀髪の青年。口元には笑みを浮かべている。

 コイツが、ミントに出会う直前、私に深手を負わせた張本人である『銀の魔法使い』と呼ばれる最強の魔法使い兼ヴァンパイアハンターだ。


「久しぶりだねぇ、ヴェル。

 さっきは私の弟子が世話になったみたいだね?

 あの子達は本当に手がかかるよ。」

 銀髪の魔法使いは、やれやれと肩をすくめる。

「それでアンタは何をしに来たの?弟子を取り返しにきたわけ?」

 私が言うと、銀の魔法使いは腹を抱えて笑った。

「はははっ。まさか!また人間が作った罠にはまって、挙げ句の果てに吸血鬼に助けられた弟子なんて破門だよ。」

「じゃあ何をしに来たの?!」

「いやぁ、いなくなった弟子の気配を追っていたら、宵闇の吸血鬼のヴェル、君の気配があったからご挨拶にきたんだよ。

 …どうやら新しい吸血鬼も生み出したみたいだし?」

 私の背後にいるミントを覗きこむ。

 私は彼の視線から守るように、さらにミントを後ろに下がらせる。

「この人に手を出したら二度と朝日は拝めなくするよ?それに今回はノワールもいる。

 いくらお前でもそう簡単には私を倒せないよ。」

 そう言いつつも、冷や汗が背中を伝う。

 ノワールも同じだろう。

 私もノワールも、決して弱くはない。

 むしろかなり強い方だ。

 しかし、目の前の敵は、よくて互換。下手をすれば命懸けの戦いになる強さを持っている。

「そんなに警戒しなくても、今は宵闇の君の討伐依頼なんて受けていないから、危害を加えるつもりはないよ。

 ただ、ドールハウスにあったこの宝石を取りに来たついでに寄っただけさ。

 あぁ。弟子は2人ともあげるよ。

 役立たずに用はないからね。」

 そういえばあの2人も宝石を取ろうとして、閉じ込められたんだったな…。

 ただの宝石かと思っていたけれど、何か曰くがあるのかもしれない。

「…あの宝石にそこまで執着する理由は?」

「僕が教える義理はないよねぇ?まあ、吸血鬼に関係あるものではないとだけ言っておくよ。

 さて、宵闇の君の心を掴んだ彼にも会えたし、そろそろ帰ろうかな。

 そうだ!結婚祝いに素敵な場所へ招待するよ!

 せいぜい楽しんでくれ!」

 銀の魔法使いが言った瞬間、私たちの足元に巨大な魔法陣が現れ、視界を奪う程の強い光に包まれた。

 私は咄嗟にミントを抱きしめて、目を閉じた。



 目を開けると、そこは紫やピンクのまだら模様の壁に、様々な物が飾ってある不可思議な部屋だった。

 扉はどこにもなく、窓もない。明らかに魔法使いが作った異空間だった。

 つまり、私たちはこの毒々しい色合いの異空間に閉じ込められてしまったようだ。


「ミント、無事?!」

 咄嗟に抱きしめて守ったミントの無事を確認する。

「大丈夫だよ。ヴェルが守ってくれたから。

 ありがとう、ヴェル。

 ヴェルは怪我してない?大丈夫?」

 ミントは私の体をぺたぺた触りながら怪我がないか確認している。この様子ならミントは大丈夫だろう。

 ちらりと隣を見て確認すると、ノワールが黙って頷いた。こちらも無事らしい。


「うわー!ここ師匠のウサギ小屋じゃん!

 最悪。あの人性格悪すぎ…。」

 すっかり忘れていたが、開かずのドールハウスの事件で手下にした緑髪の魔法使いが、うんざりしたように言った。もう1人の金髪の魔法使いも、

「本当だぁ。あの人、本当に僕たちを破門にしたんだねぇ。リック〜、ここからの脱出方法知ってる〜?」

 金髪の魔法使いが、のんびり相棒に聞く。

 そうか、緑髪はリックというのか。

「なんだっけなー。ロン、お前知らないのか?」

 金髪の名前はロンらしい。

「知らないよう。」

 この2人が役に立つ日がくるとは!手下にしておいて正解だった。

「そこの2人、脱出方法をしらなくても、この部屋がなんなのかは知ってるんだよね?説明してくれないかな?」

 私が聞くと、リックが背をビシッと伸ばして答える。

「ここは師匠…いや元師匠の通称ウサギ小屋という部屋です。

 いらない人物や動物を放り込んで処分する部屋だった気がします。

 長い時間ここにいると、この空間に飲み込まれて消えてしまうはずです。

 なんで名前がウサギ小屋なのかは、知りません。」

 つまりここはゴミ捨て場だ。

 私は周りをよく見渡した。

「みんな、ウサギに関するものがないか調べるんだ。 リックの話を聞く限り、ここに長居をするのはまずい。

 だが、こうした魔法で作られた異空間には必ず内側から壊すカギになる何かがあるはずだ。

 わざわざゴミ捨て場『ウサギ小屋』と付けたからには、ウサギに関係あるに違いない。みんな頑張ってくれ。」

 私がそう言うと、みんなは手分けしてウサギに関するものを探し始めた。


 散らばったトランプ、何かわからない置物、天井には大きな猫の絵、歪んだ壁には絵が入っていない額縁が複数。

 …一体鍵はどれなんだ?

 ミントが私に叫んだ。

「ヴェル!!額縁から額縁に移動してるウサギがいるみたい!」

 壁にかかったたくさんの額縁を渡り歩くウサギ…。きっとそれがこの異空間を破壊する鍵だろう。

 なぜ分かるかって?私もこんな異空間を持っているからだ。その鍵も動いて簡単には見つからないようにしてある。

 私にとっても異空間は捕まえたヴァンパイアハンターや、その他のいらないものを閉じ込めて処分するのに重宝している物だ。

 しかし、万が一、大事なものまでこの異空間というゴミ捨て場に捨ててしまった場合に備えて、取りに行った際に内側から破壊する鍵を作っておく。

 ウサギ小屋という名前も本来なら秘密なのだろうが、弟子だから知っていたのだろう。

「さすがミント!みんな額縁の中のウサギを壊すんだ!」


 ここから魔法を使えないミント以外の、私、ノワール、リック、ロンで、額縁を高速で移動するウサギに攻撃魔法を当てるというなんともイライラする時間が始まった。


「ヴェル、そこ!…惜しい!

 ノワールさん、右ですっ!」

 ミントもウサギを探して私たちをサポートしてくれている。

 

「やったぁ!当たったよ〜!」

 すばしっこいウサギと魔法使いの鬼ごっこが始まって1時間ほど経ったころ、やっとロンの放った魔法がウサギに命中した。

 次の瞬間、また私たちは覚えのある強い光に包まれたのだった。


「よっしゃー!出られたぜ!」

 リックのはしゃいだ声。

 目を開けるとそこは見覚えのある宿の部屋だった。

「ヴェル!僕らみんな出られたんだね!よかったー!」

 嬉しそうに私の両手を握るミント。

 どうやらみんな無事に脱出できたようだ。


「リック、ロン。よくやった。

 ご褒美に私のことをヴェル様と呼ばせてあげよう。」

「え〜!ご褒美ならお菓子がいいです〜!」

 ロンが口を尖らせて言う。

 リックが、そんなロンの頭を叩いて頭を下げる。

「ヴェル様、ありがとうございます。俺、お役に立ててよかったです。これからも、お側においてください!」

 リックは、ロンの頭を押さえつけながら、深々と頭を下げた。

 元師匠に処分されそうになったことがよほど堪えたらしい。

「私は『私のために身を粉にして働け』と言ったはずだよ?これからは、ノワールの下で魔法の訓練をしながら、私の役に立って。」

 私がそう言うと、リックは涙を流して頷いた。

 ノワールが深々と礼をすると、ノワールとリック、ロン3人の姿は消えていた。


「あれ?みんなどこに行ったの?」

 ミントがきょろきょろしながら不思議そうに言う。

「ノワールが気を利かせて連れて行ったんだよ。

 すっかり忘れていたけど、私たち新婚旅行中だからね?」

 と、耳元で囁いて、私はミントを抱きしめた。

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