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第二章 私は吸血鬼

【ヴェル】


 今日は散々だった。

 ヴァンパイアハンターに囲まれてかなりの深手を負ってしまった。


 この私、宵闇のヴェルは長い長い年月を吸血鬼として生きてきた。

 両親も吸血鬼だが、吸血鬼は基本的には子育てをしない。吸血鬼には貴族が多く使用人に子育てをまかせて、また自由に旅にでる。

 15歳の時私も使い魔と共に旅にでた。

 時が流れ、今やどんな凄腕のヴァンパイアハンターでも負け知らずの吸血鬼として名を馳せている。


 ここ数百年で吸血鬼は数を大幅に減らし、人間は滅びた種族と言われるようになった。

 賞金目当てのヴァンパイアハンターに多くの吸血鬼が滅ぼされてしまったからと、人間に混じり普通の人間と同じように食事を摂り、日中活動し夜眠る生活をするようになったからだ。


 しかし数ヶ月に一度程度は、人間の血を吸わないと力が失われていき、そのままだと死に至るので、相手に気付かれないように少量の血を吸っている。

 中には血を吸い出すと美味しくてうっかりたくさん吸ってしまい、相手を気絶させてしまうミスをしてしまうことがあるらしい。

 そのタイミングで吸血鬼とバレてしまい、討伐要請を受けたヴァンパイアハンターに狙われてしまう者も少なくない。

私はそんなミスはしないが。


 私も人間と同じような生活をしながら長年旅をしてきて、何度もヴァンパイアハンターに狙われたが、血を吸ったことではなく、吸血鬼が使える強大な魔法で正体がバレてしまい狙われることが多かった。

 定期的に血を吸うときは、相手を眠らせ絶対に気付かれないようにする、これが私のポリシーだった。

なぜなら、血も普通の食事も必要だから摂るくらいの感覚で、美味しいなんて思ったこともなかったからだ。

 今日まで、あのミントという青年に会うまでは…。


 深手を負いながらもなんとか逃げ切った私は、通称闇の森の古い教会に隠れることにした。

 思ったより血を失いすぎてしまっていたようで、祭壇の前に着いた時には体に力が入らず、崩れ落ちてしまった。

 さすがにこれは死を免れないだろう。

長いだけのつまらない一生だったな。

ただ、「運命の相手」に出会う前に死ぬことだけが、少し心残りだ。


吸血鬼にとっての「運命の相手」、それは人間だという。

 出会えば絶対に「こいつだ!」とわかるらしい。

 不老長寿の化け物である吸血鬼が唯一幸せになれるという運命の相手との出会いとは、一体なんなのか…。

 そうつらつら考えているうちに、目の前が暗くなってきた。


 その時だった。

 教会の扉が開かれ、今まで嗅いだことのない魅惑的な香りが溢れた。

 なんとか顔を上げて見ると、そこには夕日を受けてキラキラ光る髪をした青年が立っていた。

 熟れた果実の様な甘美な香りに、我慢ができなくなった私は、青年を隣に呼び寄せ、その白い首筋に牙を埋めた…


 その瞬間、これが運命の相手なのかと確信した。

 今まで出会った人間とは全く違うかけがえのない相手だと、名前も知らないのにそう感じた。

 彼の血を嚥下するごとに体中に力が漲っていく。

 少しずつ体が暖かいものに包まれていくような不思議な感覚が訪れた。

 そして身体中が満たされ、全身が幸せだと叫んでいるようだ。


 彼の血があまりに美味しすぎて、つい飲みすぎてしまい、彼は気を失ってしまった。

 私としたことが、血を吸いすぎるミスとは…。


 そして改めて彼を見ると、今度は体が熱くなって動悸がした。

 なんて美しいんだろう。

 彼を絶対に手に入れる。

 私だけのものにしてしまいたい。

 彼が起きたら、話をしよう。

「ずっと君そばにいたい」と…。



【ミント】


会ったばかりで、しかも吸血鬼らしいけれど、僕は

なぜか彼女と離れたくない気持ちが心を占めていた。


「あ!ブランは?!」

「大丈夫だよ。隣の部屋で私のペットのノワールと遊んでるよ。そういえば、お腹空いてるでしょ?朝ごはんできてるよ。一緒にに食べよう。」

 クゥーー。

 ブランが無事で安心したのと、昨日から何も食べていないのとで、お腹が鳴ってしまった。

「ふふっ。さあ食べにいこう。」

彼女は嬉しそうに僕をの手を引いた。


 隣の部屋に移動すると、テーブルの上には、ふわふわのオムレツ、焼きたてのパン、たくさんの果物が所狭しと並べられていた。


「すごーい!!これ、全部ヴェルが作ったの?」

「そうだよ。さあ、遠慮なく食べて食べて」

 2人で席について、楽しい朝ごはんが始まった。

「おいしーい!!パンもオムレツもすっごくおいしいよ!ヴェルってすごいんだね!」

「喜んでもらえて、私もうれしいよ。

 あ、ケチャップついてるよ」

 ヴェルはそう言って、僕の口の横を指で拭うとペロリと舐めた。

「どうしたの?顔真っ赤だよ?」

恥ずかしい上に、ヴェルにドキドキしてしまった。

「もっと私にドキドキしていいんだよ?

 だって私はミントのものなんだから。」

 ヴェルさん、その笑顔は反則です…と思いながら、僕は美味しい朝食を食べ切った。


 ドキドキな朝ごはんが終わって、落ち着いたら思い出した!

 家に戻らなくっちゃ!

 薬草も薬にしておかないと…

「ヴェルさん、僕帰らなきゃ…。僕は薬師だから村に戻らないと…!ヴェルさんともっと一緒にいたいけど…。」

「大丈夫だよ。もう準備はできているから君の家へ行こうか。…もちろん私も一緒に、ね。」



 闇の森を抜けて、2人と2匹はミントの家の前に辿り着いた。

「着いたー!!薬草もブランも無事だし、ヴェル、本当にありがとう!」

「どういたしまして。

 へぇ。ここがキミの家なんだね。

 悪いけど、キミが私を招いてくれないかな?

 招かれないと入れないんだ。」

ヴェルさん礼儀正しい人なのかな?

「ふふっ。礼儀正しいわけじゃないよ。

 吸血鬼はね、招かれないと家に入れないんだ。

 不便だよね?」

 なるほど。そういうことなのかと納得し、ヴェルを家に招く。

「では、ヴェルさん、どうぞ僕の家へ」

「ありがとう。今日からよろしくね。」

「そうだよ一緒に住んでいいよね?

 だって私はミントのものなんだから♪

 それとも嫌だった?」

あれ?いいのかな?一緒に住むとか、大丈夫かな。ヴェルとは、なんでか離れたくないけど…。

「じゃあ決まりね!これからよろしく。

 離れたくないなんて、ミントくんは大胆だね。」

 いつの間にか近くにいたヴェルさんに、耳元で囁かれた。ち、近い!!

「近くないよ。これが私とミントの適切な距離だからね。」

適切な距離が近い!!って、あれ?声に出してたっけ…?と疑問に思っていると、

「あぁ、気づいちゃった?私はすこーしだけミントの考えが聞こえるんだ。

 …もっといっぱい血をくれたら、もっと聞こえるようになるかもね。嫌かな?」

 正直なところびっくりはしたが、嫌ではない。

「嫌じゃないよ。大丈夫!」

「それならよかった。じゃあ改めてよろしくね。」

 そう言ってヴェルさんは、僕のおでこに口付けた。

 僕の心臓は、はちきれそうにドキドキした。


「ミントは薬師さんなんだよね。私は助手をするよ。ほら、衣装も用意したんだ♪」

 なぜかヴェルは、白衣を持ってきていた。

 僕は普段着のままだけど、ヴェルは白衣が似合うから、むしろ僕より薬師に見える。

 薬師の師匠兼育ての親の祖父が亡くなってから、ずっとひとりぼっちだった。

 誰かと一緒ってあったかい気持ちになるなぁ、ヴェルも一緒だったらいいなと思った。

「ふふっ。ありがとうミント。私も一緒だよ。ずっとひとりぼっちだったから、ミントと一緒でうれしいよ。」

 そう言って今度は、僕の頬に口付けた。

 僕は恥ずかしながら気を失ってしまったのだった。

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