表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

第一章 出会いはある日突然に。

・ミント 亡くなった両親から受け継いだミントグリーンの瞳と、明るい性格でみんなから好かれているちょっと天然な青年。生まれ育ったカセロール村で薬師をしている。20歳。


・ヴェル 黒いセミロングの髪と紅玉の瞳をもつちょいワル最強美人吸血鬼。運命の相手と知ったミントを溺愛している。見た目年齢25歳。


・ノワール ヴェルのペットのコウモリ。実は渋い男前なヴェルの忠実な部下。魔法も得意だが、空気を読むのも得意。基本的に執事服を着ている。見た目年齢45歳。

 僕の名前はミント。

 この、のどかで小さなカセロール村で生まれ育った。人も家畜も少なく、のんびりとした村だ。

 僕はこの村が大好きで、毎日のんびり穏やかに過ごしていた。

 そう、あの日までは…



 ある晴れた夏の午後、僕はヤギのブランと一緒に森に薬草摘みに出かけていた。


  僕は薬師で生計を立てている。カセロールは小さな村なので医者もいない。だから怪我人や病人がでると、僕の薬が必須になる。

 原料である薬草は必需品なので、薬草がよく茂る夏の間は毎日薬草摘みに出かけている。

 薬草摘みは、村から少し離れた通称闇の森という場所に行くことが多い。家の裏で育てられない薬草は、だいたいこの森で手に入る。

 ただ闇の森というだけあって昼間でも薄暗く、腕に自信のある猟師でもない限り、奥へ踏み入ることは滅多にない。


「困ったなぁ…。」

 今日必要な薬草が、いつも行く入り口付近に残っていなかった。腹痛によく効くこの薬草は、いつもなら入り口付近で十分に採れるのだが、今日はなぜかひとつも見当たらない。

「うーん…。これは奥まで行かなきゃだめかなぁ。」

 森の奥へ行くのは正直気が進まないが、背に腹は変えられない。

僕は、少し怖いと思いながらも、森の奥へと踏み入った。


 1時間後なんとかお目当ての薬草を採取して、ほっと息をついて、何気なく空を見上げた時、何か大きな黒い生き物が森の奥へと飛んでいくのが見えた。

 なぜだか無性に気になった僕は、跡を追うことにした。30分くらい歩いた頃、急に目の前が開けて古い教会のような建物が現れた。

「こんなところに教会…?」

 よく見るとかなり古い建物のようで、あちこち壁が剥がれたり、彫刻が崩れたりしている。

「こんな森の奥に教会なんて、誰が建てたんだろう?」

 無性に教会の中に入らなければ、という衝動に駆られた僕は、古びた扉に手をかけた。

 ギギーッ!

 軋む音と共に扉は難なく開いた。

 教会の中は外観からは想像できないくらい整っていて、ステンドグラスから差し込む夕日が綺麗だ。

 よく見ると、奥にある祭壇に誰かがもたれかかっているのが見えた。

「大丈夫ですか?怪我したりしていませんか?」

そう声をかけると、

「まあ、なんとか。それより、そんなところにいないで、入っておいで」

と言われ、僕は祭壇へと歩いて行った。


 祭壇にもたれかかっていたのは、漆黒の髪と紅玉の瞳の今まで見たこともないような美しい女性だった。

しかし、顔色が紙のように白く具合が悪そうに見えた。

「ねぇ、隣に座りなよ」

 そう促されて隣に座ると、彼女は僕の肩に寄りかかってきた。やはり具合が良くないのだろう。

 すると突然、

「キミ、良い匂いがするね」と耳元で囁かれ、首にチリッとした痛みを感じ、僕は意識を失った。



 ピチチッ。

 小鳥の声で目が覚めると、そこは知らない部屋だった。

「ん…。ここは…?」

全体的に古いけれど、きれいに掃除された部屋で、寝ていたベッドも、ふかふかで気持ちがいい。


 トントン。

 ドアをノックする音が聞こえた。

どうぞという間もなく扉が開き、見覚えのある女性が入ってきた。昨日祭壇にいた女性だ。

「おはよう。よく眠れた?」

 と、朝日が輝く中、負けないくらいの眩しい笑顔で問われ、

「はい…。ところで…。」

そこまで言うと、いきなり彼女が遮った。

「キミが聞きたいのは、ここがどこで、私が誰で、何が起きたのか?ってことかな?」

 聞きたいことを正確に当てられ、僕は頷いた。

「私は、ヴェル。ここは昨日私たちが出会った教会の住居部分だよ。君が気を失った理由は、私が血を吸ったから。いきなりごめんね。」

 ワタシガ チヲ スッタ??

「私はね、吸血鬼なんだよ。」

 吸血鬼はとうの昔に滅んだ種族のはずで、目の前にいる彼女が吸血鬼とは、信じられない。

吸血鬼ならこの朝日が差し込む部屋で平然としていられる訳がない。

 そして気がついた。もしかして、自分はもう…

「大丈夫。血を吸われただけで吸血鬼になったりしないよ。ついでに日の光も、十字架も、にんにくも私には効かないよ。…怖い思いをさせてごめんね。」

 彼女はいつの間にか隣に座っていて、僕を優しく抱きしめて頭を撫でていた。

 出会ったばかりで、しかも怖いはずの相手なのに、不思議と安心して溢れた涙は止まっていた。


 落ち着いた僕は、疑問に思ったことを聞こうとした。すると声に出す前に、ヴェルが話し始めた。

「吸血鬼になるには特別な儀式があるんだよ。

内容はまだ秘密だけどね。

 ところで、君は私の特別な相手みたいなんだ。

君からはとても良い香りがするんだ。この良い香りは特別な相手からしかしないからね」

 特別な相手…?

「そう。特別な相手。だから、私は君と一緒にいたい。どうかな?」

いきなりどうかな?とは言われても、出会ったばかりの女性に一緒にいたいと言われて、はい、そうですかという訳にもいかない。

「じゃあ、取引しようか。私は君が一緒にいてくれたら、君の仕事を手伝うし家事もする。

心配してるみたいだけど、村の人の血を吸ったりもしない。…君の血はたまに欲しいけど。」

 そう言って、ヴェルは僕の首筋の噛み跡にキスをした。すると、急に体が熱くなり頭がぼんやりして、なぜか頷いてしまった。


「ふふっ。かわいいね。ねえ、かわいい君にお願いがあるんだけど聞いてくれる?私以外の恋人は作らないで欲しいな。…まだ私とも恋人じゃないけどね。」

 また、ぼんやりしたまま頷いた。

「良い子だね。これからよろしくね、ミント。」


 僕は気付いていなかった。

彼女、ヴェルに自分の名前を名乗っていないことを。

そして、自分の考えていることを口に出す前に、彼女が答えていたことを。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ