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第7話 神殿跡の主

 干したフェニカの実をかじる。一瞬酸味が口に広がるが、すぐに甘さが染み出てきて口の中に満たされる。しっかりとした噛み心地で噛めば噛むほど甘みが出てくる。フェニカは最も一般的な果実の一つだ。その旨味はフェニカ独特の甘みもそうだが、生で食べれば酸味がアクセントになり美味しく、この世界で最も栽培されている果物と言っていい。調理の幅も広くほとんどどんな地域でも成長し、実を結ぶ。人はこの実を『天の果実』とも言ったりする。

 閑話休題。


「たくさんあってよかったな」

「そうだね」


 ケイルの問いかけにレディミアは顔を綻ばせながら答える。起きてから食べ物を口にしてなかった二人は、噛みしめるようにその美味しさを堪能する。ダーティは縛るところを増やし、芋虫状態でしか動けないようにして寝転ばしている。彼はじっと目を瞑り何かを待っているように動かない。


 彼が見つけていた食料は保存食が大半だった。当然のことであろうが、ナマモノであったものはほぼすべてが駄目になっていたようだ。水の入った樽が一樽生き残っていたことにはケイルとレディミアは喜びを隠せなかった。他には干し肉と今食べている干したフェニカの実に他の干した果実、そして水樽だった。量にして一人であれば、一ヶ月ほどもあった。ただ腐ることも考えれば、悠長には言ってられないのが現実でもあった。


「本当に出口はないのか?」

「ないな。俺がここに来て寝た回数考えても三週ほど経っている。当然、その間探せるだけ探して見たが、上に登る階段は見つけていない。他に人も見当たらない。ただ――」

「ただ?」

「下る先はある」

「この地下はまだ降りる空間があるのか?」

「ああ、ある。で? 俺にここまで話させて同情する気になったか?」

「いや、お前はそのままだ。残念だが、拘束を緩める気は一切ない」

「はぁ……。ふざけやがって」

「当然だ。得体のしれないお前を信用する気はない」


 ケイルにとってはレディミアを傷つけた当人でもあり、彼自身許すつもりもない。けれど、彼のここでの知見だけは役に立つことは確かであった。


「それはどこにある?」

「……いや、いいだろう。案内してやる」

「何を考えた?」

「言ってみりゃあわかるさ」


 含みをもたせた言い方にケイルが詰問するが、ダーティは鼻であしらうような態度を取る。もはやこれまでという考えではないようで案内の先に何かがあることは間違いがないようであった。


「レミはここはどう思う?」

「私は建築は疎いんだけど、この部屋たちは研究施設だと思う。もちろん、貴族以上の相手ができる設備も備えているけど、何かを調べるための部屋が多いもの」

「つまり、地下に何かがあるってのが本当ってことか」

「そうね、私はそう思う。もちろん出口もあるだろうけど、彼が探して見つけてないのなら落盤で潰れているのかもしれない」

「そうなら厄介だな……」

「でもね。こういう作りなら出口を一つにするなんて考えられないし、必ずあるよ」

「それを確かめに行くか……」


 レディミアにとっては研究しがいのある場所であった。大量の資料が現存し、ほとんどが手つかずだ。蛇魔型独王蛇クインテラ・ヴァイトヘッグが奇しくも護ってきたということになるのだろう。ここでの調査が可能になったなら、今までの仮説や研究成果が報われる可能性もある。彼女は古代遺物では呪術関連の研究を行っていた。しかし、呪術関連は鐘楼教会とは相性が悪く、千年以上前の資料を集めるのは難しいと言わざるを得ない。また、鐘楼教会も資料を保持していることはわかっていた。けれど、そのほとんどが禁書庫の中であり、部外者の彼女は目に触れることさえできない。彼女は一度、鐘師になろうかと思っている時期もあった。けれど、彼女には適性がなかった。

 鐘師になるには幻術を扱えることが条件だ。しかし、幻術の行使は適性が存在する。全ての人間が学べば扱えるようになれる代物ではないのだ。故に彼女は今の地位に就いたのだ。


「たぶんだけど、この地下もそうだけど、上の状態も考えて明らかに古代の呪術に関係するものがあるよ」

「どういうことだ?」


 ダーティに案内させつつの道すがらレディミアはそう呟いた。


「この『荒野神殿』って言われている場所全体が呪術的作為を感じるの。詳しいことはわからない。私も色々調べたけど、呪術関連は本当に資料が少なくて。柱や壁の黒化現象、それに空に覆ってた遮熱効果……。全部関係あると思うの」

「ああ、なるほどな。全部が一つ一つの現象じゃなくて一つの現象の結果だっていうことか」

「そう。例えば、悪神教団が盛大に暴れてた時代があったみたいだけど、彼らも魔獣操ったり、事件起こしたりしてたのは一つの呪術的な何かを起こすつもりだったみたいなの」

「悪神教団? あの背教者の集まりか」

「そう。つい、二、三十年前らしいけどね」

「悪神教団が使ってたのも呪術の一種だって言われているけど、彼らのことは鐘楼教会は絶対に外に出さないし……」

「まぁ完全な敵だからなぁ……。でも今はもうほとんどいないって話じゃなかったか?」

「そうよ。刻紋術が出る直前に鐘楼教会が悪神教団の信者たちをほとんど処分したらしいからね」

「ここは……」


 部屋と廊下をいくつか跨ぎ、移動していく。そして広い空間に出る。そこは見覚えのあるケイルとレディミアが落ちていた部屋であった。柱がいくつか立ち、華美にも見える装飾が凝らされた壁が存在する。天井もアーチ状に作られ、その空間の広がりを与えている。ただし、その高さは倉庫よりも低い。それ故彼らが落ちても怪我をしなかった理由でもあった。


「ちょっと休憩させてくれ……」


 ダーティはそう言うと柱に肩を預け、その場にへたり込む。どうやら足の怪我の影響でかなり苦痛が伴っているようであった。よく見ると顔には脂汗が浮かび、息も荒くなっていた。

 ケイルも流石に途中で倒れられても困るので見過ごした。ただ、警戒の剣は下げないように気をつけている。


「苦しいか?」

「歩き通しだからな……」

「ここ、私達が落ちてた場所ね」

「ああ、俺もそう思った。まさかここにあるとは言わねえよな?」

「違う。だが、そこの大扉の向こうだ」


 ダーティが指差した先には開けっ放しの大扉がある。この大広間には六つの扉があることを確認していた。大広間の上下と左右に上部と下部に一つずつだ。ダーティが指差した大扉が下の扉とすると、大広間の左下あたりの大扉から戻っていたため、そこにあるが見えたのだ。大広間は等間隔に石柱の柱があり、天井を支えている。ケイルたちは大広間の上部付近に落ちていた。そこから近い上の大扉を抜けると大広間を囲うようにぐるりと廊下がある。そこから左に向かったことを覚えていることからぐるりと地下空間をぐるりと部屋や廊下を移動して左回りに進んだことになる。


「ここは中心か」

「そうね。私の思い違いじゃなかったら」


 そうなるとここの傍に上に登る階段があって良さそうなのにとケイルは思った。中心としてここを使っていたのかもしれないのなら便利の良い場所に上への階段があっても不思議はない。


「本当に上への階段はないのか?」

「俺の見た限りじゃあな。まあ俺が嘘をついているってなら、自分らで探せよ」


 確かにダーティが嘘を言っている可能性はあった。実は上への階段を見つけており、それを黙っている可能性が高いのも事実だ。なぜならケイル達とはまるでここにいる期間が違う。体感で一時ほどの移動で食料のある倉庫からここへ戻ってきた。ということは、暗がりでわかりにくいが、この地下空間はそこまでの広さがないように思えた。


「レミ、どうする?」

「危険に誘われているってこと? まぁ確かめてから遅くないでしょう」


 ケイルは顎に手を当てて思考する。ダーティが得体のしれないのは間違いがない。けれど、実際出入りできる階段があったとしてダーティがここの地下に留まる理由が思いつかない。確かに蛇魔型独王蛇クインテラ・ヴァイトヘッグが地上には陣取っている。けれど、正面入口に近づかなければ、蛇魔型独王蛇クインテラ・ヴァイトヘッグに気づかれない可能性もあり、逃げ出すことは可能だ。特に一人であればなおのことである。

 しかも、ダーティはそれなりの手練に思えた。一定以上の鍛錬を終え、技術も経験もケイル以上であるようにも思える。であるならなおさら逃げ出さない理由もない。何かを隠していることは間違いがないが、ここに留まる理由には思えない。特にダーティがアバッティオ諸国連盟所属の部隊の一員だとすればなおのことだ。部隊の全滅と内部の報告だけでも十分に思える。


「見るだけいくか。火球はまだ大丈夫なんだな?」

「大丈夫。聖粉のおかげか随分と楽になったから」


 ケイルの懸念の一つはレディミアの腕のこともあった。ケイル自身の体の状態もあまり良くないのは事実だ。魔獣との戦闘がどれほどできるかはわからないが、一応戦えるはずだと思っていた。左腕は相変わらずだが、痛みながらも握ることはできる。聖粉は万能薬だが、継続使用が前提の薬だ。その薬も筒に半分しか残っていない。彼女の腕は青黒く内出血しているが、動かすことはできるそうだ。ただ力を込めるとその度に痛むようだ。折れているわけじゃないが、尋常の怪我には思えなかった。

 そんな心配を他所にレディミアは明かりが入るでしょ、と言いながら刻紋術を行使している。確かに彼女の創り出す火球の明かりは有り難い。なければ真っ暗闇なところを昼間の陽光に照らされたように明るいのは、危険を少なくする面においても重要だ。

 ならば、松明にしようと転がっている木材で作ってはいるが、彼女はそれを良しとしなかった。魔獣が現れた時、ケイルは右手しか使えないのだ。二人して松明を持っても戦闘時に一つは手放すことになる。それに剣は腰にしてなければならず、初動が確実に遅れる。そうなれば、ただでさえ怪我をしている状態であるのに魔獣や敵に対して後手に回るのだ。レディミアはそれを嫌ったし、ケイルも腰に帯剣状態での失態を思うと避けたかった。

 だから、火球を明かり扱いにして行動しているのだ。


「よし、そろそろ行くぞ。立て」

「はいはい」


 ダーティを立たせて先行させる。彼が罠にはめようとしているのならば、先行させる意味がある。魔獣がいる地区に行くにしても仲間がいるところへ行くにしても盾役をしてもらわなければならないからだ。

 大扉を抜けると狭くはないが、大広間に比べれば狭い広間に出た。ちょうど廊下のような役割を担っているようでもう大扉がすぐにある。そこの部屋には過度な調度品があった形跡もなく、ひっそりとしていた。


「これ、神殿の様式ね」

「神殿?」

「そう。いまの鐘楼教会の神殿とは形式は違うけどね。この扉の隣に枝の紋様配置して上部に割れた果実、フェニカね、の配置してるし、そこの彫刻は幻獣……ね。狐だから、衒狐げんこでそっちのは猿で……霊袁れいえん、かな」

「どういう取り合わせだ?」

「うーん。こういう幻獣信仰は地域との関係もあるみたい。霊袁は『森の智慧者』だし、傍の中央山脈にいると思うからそのせいかな。衒狐は……うーん、『魔への幻惑者』……だったかな。でも資料が少ないからなぁ……わかんない」

「上の文字は?」

「えーっとね。『眠る神たる二手に別れ、ここに鎮座す』かな。たぶんここに祀ってた神獣のことだと思うけど……」

「神獣なのか?」

「ええ、こういうのは幻獣を配置して真ん中が神獣なの。だから、この部屋の向こうの空間に祭壇がある、かな……」


 ケイルは固く閉じた大扉を見る。石造りでしっかりとしたものだ。最近動かしたあとがあるが、それはダーティが動かしたものだろう。ならばここにも何かがある可能性がある。ケイルは罠かもしれないと少しだけ緊張をする。


「さて、開けてみるか」

「うん」


 取手に手をかける。ゆっくりと片方だけを開けようと力をかける。矢などが飛んできても良いように扉の影に隠れながら開ける。真ん中にはダーティを立たせている。


「ふん、なんも飛んできやぁしねえよ」


 少しだけ開けて中を伺う。火球が二つに分かれ、一つがその隙間をすり抜けるように中に入っていく。徐々に高度を上げて中を照らし出す。中はレディミアの言う通り神殿のようであった。広い空間が広がって天井もアーチ状作られており高く作られている。そして柱も等間隔に広がるが、その装飾も華美ではないがしっかりと作り込まれていることが遠目にもわかる。礼拝のための長椅子があったのだろう崩れた残骸がところどころにあった。光が奥に進みながら高度を上げたとき、光に反応するものがあった。


「なんだ、あれ」


 ケイルが呟いたが、レディミアも反応に困った。何かわからないのだ。照らされた神殿内の奥、祭壇があったのだろう場所は破壊されている。その場所に蠢く何かがいる。

 形はない。黒い粘土に意思があるように動く。ボコボコと蠢いている。火球の明かりの加減で一個の塊が動いているようである。

 そして一つ。変化が起きる。粘土の塊から白い何かが吐き出させる。それは矢の如く速度で火球を貫く。けれど火球はただの火の塊だ。物体の攻撃は意味がない。故に何も起きないはずだった。

 しかし。


「え……!」

「消えた……」

「ははっ!」


 蝋燭の火をかき消すように神殿に闇が戻る。三者の声はその闇に溶け込むように響く。そして神殿の奥から蠢く音が僅かに扉まで届いてきた。

 ケイルはほとんど無意識的に力を込め大扉を締め切る。驚きであった。扉の取手を右手が震えるほど押さえつけながら彼は傍のダーティを暗闇の中、睨み付ける。ダーティはにやにやと嫌らしい笑みを浮かべながら肩を竦める。


「なんだあれは!?」

「わかんねえのか、魔獣だよ」

「何の種だと言ってるんだ……!」

「俺が知るかよ」

「糸……幻術殺しの糸……。祓蜘蛛族甲殻種(エクンダ・クロスタ)ね」


 レディミアが自身の左腕を抱くようにしながら呟いた。彼女の腕の光は僅かに弱まっているようであった。彼女の意外な言葉に声を荒げてしまう。


「はぁ? あれが蜘蛛っだって?」

「ええ、たぶん何かにたかってたのよ……。それもあの塊になる数が……」


 レディミアの推測にケイルは愕然とする。隣りにいるダーティは笑うだけだ。レディミアの言う通り祓蜘蛛族甲殻種(エクンダ・クロスタ)であるとするなら、大きさはそこまで大きくない。せいぜい成人の人間ぐらいの蜘蛛だ。それが、人の三倍ぐらいはありそうなほどの大きさを誇っていた。当然奴らが集っていたモノの大きさにもよるだろう。けれど、黒い塊になるほど隙間なく数が揃っているのならば、何体いるのかわかったものではない。とても抜ける事はできない。


「だめだ。この道は進まない」

「ああ、そりゃあいい」

「騙したな」

「いんや。あの奥に道がある。確実だ。俺が着たときはあんなことになってなかったんでね。確認した」

「ふざけやがって」

「好きにしろ。どうせこっからの道はあそこしかねえ」


 ケイルもレディミアも大きくため息を吐く。彼が言っていることが正しいかどうかはまだ不明だ。だから、二人はとりあえずこの神殿内については後回しにすることにした。大広間に戻り大扉を占める。閂として取手に転がっていた廃材を噛ましておく。そこまでして二人は息をつく。


「アレを抜けれるわけがない。とりあえず、嘘を言ってる可能性があるから二人で探そう」

「あいつら、私の火球も食べられるみたいだし」

「あの数は尋常じゃないぞ」

「貴方が見た時、あそこには何があったの?」

「ああ? なんだっけな」

「早く答えろ」


 ケイルは抜身の剣を首筋に当ててへらへらとするダーティを脅す。


「おっと、ちょっと待ってくれよ。わかった、わかったから下ろしてくれよ。そうそう。あれだ、水晶の塊だったかな。銅像みてえに何か飾ってたな」

「どんな形の?」

「形? 形は原石切り出しみてえな整ってちゃあなかったぞ。でけえ人ぐらいのもんだ。中にはそうだな、なんか獣、か? が彫られてるのか閉じ込めたのか知らねえが見えた気がするな」

「獣?」

「ああ、何かはしらねえぞ。四足のだ。狼か、そこらだろ」

「狼……」


 レディミアは思案げに難しい顔をするが、答えは出ないようだ。ケイルは自分の左腕を見る。折れたのだろうから未だに全く動かすことができず、握る程度のことしかできない。添え木で固定しているものの戦闘中に使えるものではない。数体ならば、無理をすればどうにかなるだろうが、あの黒い球体になるほどにいるのなら、万全であったとしても無理が過ぎる。

 祓蜘蛛族甲殻種(エクンダ・クロスタ)は、大型の蜘蛛型の魔獣だ。その大きさは身体の部分が人程度の大きさあり、長い足を合わせると人の三倍ほどになる。何より厄介なのが、あの糸だ。糸は、幻術殺しとも言われる謎の素材でできている。あの糸が触れると鐘師達の幻術で創られた聖なる刃が灰燼に帰す。故にあの蜘蛛の危険度は上で戦った小狼種ウルファヴァリ小鬼種(ゴブリン)などとは比にならない。ある意味では、貴種たる魔獣の貴族達よりも強いなどと叫ばれたりするほどだ。

 だが、脚を除けば身体自体は柔らかい。ただの剣でも簡単に切断ができ得るため、矢などの攻撃がもっとも重要な相手とも言える。脚は甲殻に覆われているため、切断は容易ではない。接近さえできれば、ケイルの剣の腕があれば身体を斬り裂き倒すことが可能だ。だが、それは数が少ないからできることである。そして何より、糸が避けれる前提もある。

 彼の体は未だ治療が必要な身体だ。動けはするが連続する戦闘が可能ではない。矢の如く速度で射出される糸は、避けるのも簡単ではない。更に言えば数もいるので相手の管理が一人しかいない前衛のケイルでは難しい。数を減らしてからでなければ、攻めれないのだ。


「休憩しよう。レミ、大丈夫か?」

「うん? うん、なんとか大丈夫」

「けっ……」




 その日はいくつか部屋を回り、階段がないことに落胆しながら食料のある倉庫まで戻る。倉庫内は腐臭で辛いため、手前の部屋に食料を移動させた。ダーティはちょうど閉じ込めれる構造の部屋があったため、そこに閉じ込めておいた。当然拘束はそのままだ。廃材が転がっているため、それで切り脱出を図りかねないが、ケイルとレディミアの二人しかいない。そのため、無理に寝ずの番で対処するよりもいいと考えた。

 干したフェニカの実をかじりながら、ケイルは今後のことを考える。レディミアも優れない顔つきでフェニカの実をかじっている。そして弱々しく呟いた。


「階段あるかな……」

「歩いてわかったけど、だいぶこの地下施設は広い。まだ探索できてない部屋も多い。どっかにあるはずだ。それに、これだけ部屋があれば仲間いるかもしれない」

「仲間?」

「そう、俺らが落ちたのは広場からだろ? なら、同じ広場にいたやつがいたって不思議じゃないはずだ」

「そうね。数が入ればあいつだって倒せるし」

「本当に祓蜘蛛族甲殻種(エクンダ・クロスタ)だと思うか?」

「ええ。私の火球消えたの見たでしょ。あの時、私が操作してたのにあの糸に触れた途端に持ってかれた感触があったの」

「そうか……」

「幻術を潰せるのは貴種の能力以外は祓蜘蛛族(エクンダ)しか私は知らない」

「俺もだ」

「あの男は、本当に水晶の銅像を見たのかしら」

「さぁ、あの状況じゃなかったって言ってたけど、ならなんで降りなかったんだって話だろうしな。何かを探している風ではあったな」


 今日のダーティの様子を思い出しながらそう答える。そう、ダーティは何かを探すように下を見ながら時折歩いていた。明かりが十分に取れたことで部屋の様子がよく分かる。けれど、そちらには意識を持っていかず、下ばかり見ている時があったのだ。


「何をってのが重要ね。もしかしたら、諸国連盟の大事なものかもしれないし」

「身分証明ぐらいのもんなら、あんな風にするかね」

「わかんない。あの男が三週間も一人だったのに変に無事なのも不思議。今は私がいるから、明かりも十分だと思うけど、真っ暗なのよ。ここは。」

「たしかにな。俺なら耐えれそうにないわ」

「よね。私も厳しいかもしれない。ケイルがいてよかったよ」


 そう言ってふふふと彼女は笑う。ケイルもつられて笑みをこぼす。


「寝るか」

「そうね」


 そう言って、布を巻き付けただけの松明に火球を近づけて火を付ける。パチパチと火が揺れる。それを廃材や瓦礫をのけている場所に置く。

 消すよ、とレディミアが言って左腕を左右に振るう。すると火球の光がもやに紛れるように消えていった。休息に暗くなった部屋は少しだけ落ち着かない気持ちがした。その中にある松明の明かりがわずかにケイルとレディミアを照らす。

 松明に薪は足さない。地下空間での火の扱いは危険だ。それを知っていたのはレディミアの父であるアングスのおかげだった。彼は傭兵仕事以外にも魔狩(ヴァレグラー)という魔獣退治だけを専業する教会の下働きの実働部隊にいたことがある。そこで洞窟の中での焚き火の危険性を実感したらしい。不用意に火の大きい焚き火をすると、朝起きるまでに死んでしまうと彼は言っていた。煙に毒が出るとのことだった。

 その教えを思い出しながら、松明の火を見つめる。一時もしないうちに燃え尽きるだろう火だった。。その火を見ながら、横になりケイルは目を瞑る。まぶたの先から感じる僅かな光に安心を覚えながら意識をまどろませていった。

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