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「おぼっちゃまああああ!!!!!!!!!!!!!!」
ああ、まずかった。
俺って、やっぱり馬鹿なんだろうか。
リズに何か言いたい。
感謝の言葉を、純粋に述べたいと思った。
特に意識をした訳でもなく、ただフッと言葉が出たのだ。
何かすごいことを言ったつもりはない。
でも、リズは急に俯き震えていた。
「どうし・・・」
体調に何か問題があったのかと思い、リズに声をかけようとした瞬間、彼女は俺に抱き着いてきた。
いや、飛びついてきたという方が、より正確か。
「おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!おぼっちゃま!わたくしのおぼっちゃまあ!わたくしのぉぉ!!わたしくのおぼっちゃまあああ!!!!リズは、リズは、リズはうれしゅうございます!!!!」
「く、くるしいぃ~」
「リズは、リズはおぼっちゃまが、おぼっちゃまがこのようにご成長なさったことが、とても、とってもうれしゅうございますわ!」
「わ、わかったから・・・・」
「リズは、リズは信じておりましたわ。リズだけは分かっておりました。リズだけはおぼっちゃまのことを、ぜ~んぶ分かっておりましたわ。でも、でも、やっぱり・・・・」
「ね、ねえ~、は、はなして・・・・」
そこに助け舟が戻ってきた。
大賢者げいかさまを見送ったルスが、食堂に戻ってきたのだ。
頼りになる男の登場だ。
助かった。
九死に一生を得るとは、こういうことか。
俺は何とか声を振り絞り、ルスに助けを求めた。
「る、るすぅ~、、、た、たすけて~」
こっちを見たルスは、一瞬ギョッとした表情をした。
次の瞬間、さっき以上の能面になり、自分の席に置いてある料理の乗ったお皿を持ち、そのままどこかに行ってしまった。
はあ~!?
「は、はくじょ~もの~」
ルスに見捨てられた俺は、少しずつ気が遠くなってきた。
「ああ!おぼっちゃま!どうなさいましたか?お料理がお口に合いませんでしたか?」
だから、もう、はなして~と、声にならない声を上げた。
「やっぱり、お毒見しなかったから?」
ああ、いつものリズだった。
いつもの、思い込みの激しい、リズだった。
「ああ、やっぱりお毒見をしなかったから」
ねえ、離してよ。それで万事解決だと思うよ。
「そ、それとも、何か、何かご病気なのでは?」
リズに技を掛けられているだけだから。
もう少しで、落ちると思うよ。
「ああ!私のおぼっちゃまがぁ!」
ああ!!!俺も叫びたい!
「リズ!!!」
俺は残った力を振り絞り、リズを力づくで押しのけようとしたけど、手が思わぬモノを掴んでしまった。
リズのあの豊かなお胸に、手が触れてしまった。
だって、リズの力は俺よりもあるから、俺の顔に一番近い位置にあるのはリズのあの豊満なお胸であり、位置関係上それしか押し返せなかったから。
言い訳です、ごめんなさい。
セクハラです!と言われると思った。
でも、リズの反応は違った。
「あ、あら、あらあら、あらあ?お、おぼっちゃま?」
「ぜ~、ぜ~、ぜ~」
「お、おぼっちゃま?」
「ぜ~、ぜ~、ぜ~、ぜ~、ぜ~、ぜ~」
声が出ない。リズが俺の顔を覗き込んでいるけど、どうにも返答が出来ない。
「ふ~、仕方がございませんわ。おぼっちゃまが、そのようにリズの胸がご所望だったなんて。もう、最初からそう言ってくだされれば」
「ぜ~、ぜ~、ぜ~、な、なにを?」
するとリズは、突然上着を脱ぎだした。
「り、り、りずぅ~?」
「おぼっちゃまがリズのお乳をお望みのようでございますけど、リズの胸からはもうお乳は出てくれませんわ。それでもおぼっちゃまがリズのお乳をご所望なら、リズは、リズは、リズは頑張っておぼっちゃまのご期待に応えてみせますわ!」
上着の次にブラウスを脱いだ。
俺は一瞬、目を逸らしてしまった。
「おぼっちゃまがお小さかった頃は、リズの胸が本当にお好きでしたわ。それにおぼっちゃまが中々お休みになれなかった時や、ご不安におなりになって泣いていた時なんか、リズが胸を差し出すと安心なさり、すぐにお休みになりましたわ。はあ~、懐かしゅうございますわ」
リズがキャミソールみたいな下着に手を掛けたので、俺はその手を掴んで止めた。
お乳を欲しがるような年ではないよと言いたいけど、話の流れから俺の小さい頃はリズのお乳で育ったのだろう。
本当にリズに世話になったようだ。
だから自然に、まるで当たり前のように胸を俺に差し出そうとしているけど、勘違いはしないで欲しい。
俺にとっては、ただ恥ずかしいだけだ。
「おぼっちゃま?」
どうする、俺。
「リ、リズ」
「はい!おぼっちゃま!」
「だ、大丈夫だから、大丈夫だから、ふ、服を着て」
「本当でございますか?」
リズは俺の顔を除きこむというより、殆ど触れる寸前まで近寄ってきた。
リズの息遣いや体温が感じられ、むしろ余計にドキドキしてきた。
キャミソールとは言え、リズの胸の形がよく分かり、どうしていいか分からなくなる。
「おぼっちゃま、我慢してはいけませんわ。リズには、リズにだけは何でもおっしゃってくださいませ」
「大丈夫だから」
「リズは、リズはおぼっちゃまの為なら、何でも致しますから!」
リズにはすまないけど、俺の願いはただひとつ。
もう、なにもするな!
「ありがとう。でも、本当に大丈夫だから」
何もするなと心が叫ぶが、俺の上流階級スキルは、当たり障りのない返答をリズに返すだけだった。
「本当でございますか?リズに遠慮はご無用でございますわ」
そういうと、リズはまるで自分の胸からお乳を出さんばかりに揉みだし、その巨乳ぶりをアピールしてきた。
まるで、さあどうぞと言わんばかりに。
見た感じリズの胸には弾力があり、それでいてとても柔らかそう。触れてみたいという誘惑と、やめんか馬鹿者と叫ぶ俺がいる。
ちなみに、リズはまだキャミソールは脱いでいませんので、キャミソール越しで胸を揉んでいます。
いや、このままだとリズは本気でキャミソールまで脱ぎそうだし、その勢いで俺に乳房を押し付けてきそうだ。
さあ、さあ!さあ!!と。
どうぞおおおおお!!!!!と。
何の罰ゲームだ?
それはもう、悪夢だろう。
いい年して、お乳を欲しがる俺。
・・・・・・それってどうよ?
「いいから!服を着て」
リズが脱ぎ捨てたブラウスを拾い上げ、リズに向かって乱暴に投げた。
「お、おぼっちゃま?」
リズが驚いていた。
俺も、驚いていた。
どうしてそんなことをしたのか?
どうしていいか、本当に分からなかったから。
とにかく、俺は恥ずかしくなり、食堂を後にした。
これ以上、リズを見たくないから。
リズに、見られたくなかったから。
「おぼっちゃま?」
「服を着て!」
追いかけてこようとするリズを止め、俺は自分の部屋に戻る為に走った。
だって、この期に及んでも、リズは服を着てくれない。
服を握ったまま、俺を見ているし。
さすがのリズも、キャミソール姿で追いかけっこは出来ないだろう。
いや、俺はリズを理解していなかったようだ。
「おぼっちゃま~!!!おまちくださいませ!!!」
追いかけてきた。
本当に追いかけてきた。
ああ、前にもあったな、こんなこと。
随分と、遠い昔の出来事のような気もするけど、それどころではない!
キャミソール姿のあられもない恰好で、しかもあの大きなお胸をぷるんぷるんと盛大に揺らしながら。
時々思うけど、胸が揺れて痛くないのだろうかと、昔、というか前世で感じたことを今になって思い出した。
そんなことを思い出してる場合か!
捕まるだろう!
捕まったら、俺は一体どうなるんだ?
俺は、ただ逃げた。
「リズ!」
「はい!なんでしょうか!おぼっちゃま!!!」
「お願いだから!」
「はい、おぼっちゃま!リズはなんでもおききいたしますわ!」
「ふくを」
「はい?」
「だから、服を着て!」
「はい!おぼっちゃまがリズにきせてくださいませ!」
はあ?何を言ってる、この女は?
「自分で着て!」
「リ、リズは、おぼっちゃまをおいかけるのでせいいっぱいです!だから、おようふくをきれません」
ああ、もう!
「リズ!」
「はい!おぼっちゃま!」
俺はその場で立ち止まり、俺に向かって突進してきたリズを手でなんとか止めた。
驚いているリズの手にある、ブラウスをひったくった。
そして俺は、そのブラウスをリズに着せてあげることにした。
ブラウスの袖に腕を通し、前を合わせる。
「うふふふふ♪」
何が楽しいのか、少女のようにころころと笑うリズは、まるでいたずらっ子のようだ。
いたずらが大成功したと、そんな感じにすら見える。
ちょっと、ムッとくる。
「何がそんなにおかしいの?」
「だって」
「だって?」
「いつもおぼっちゃまのお着替えをお手伝いしているのは、リズでございましたのに」
「そうだね」
「それなのに、おぼっちゃまにお洋服を着せていただくようになるなんて、思ってもいませんでしたわ」
この時代の服は、本当に着にくい。
袖に腕を通すのだって、雑にやると引っかかる。
リズに着方を教えてもらわなければ、一人で服を着ることも出来なかった。
特に女性の服は構造がわかりにくいから、胸の前をどう合わせればいいのか分からなかった。
「リズ」
「はい、おぼっちゃま」
「あとは自分でやって」
「?」
「それ以上は、ちょっと出来ない」
前はさすがに、色々と触りがある。
リズの大きなお胸に触ることになるからとはさすがに言えなかったし、言ったら言ったでリズは構いませんよとでも言われたりしたら、俺の逃げ道が無くなるから。
まさか俺の人生で、女性に服を着せるような日がくるなんて、ホント人生って分からん。
「ざ~んねん♪」
「リズ?」
「冗談でございますわ♪」
リズは自分で服を直し、ついでに髪も直した後、「あら?」と言いながら俺の服も直してくれた。
「うふふふふ♪」
「リズ?」
「何でもございませんわ♪」
「そう?」
「そうでございますわ♪」
「ふ~ん」
「さあ、お食事の続きをいたしましょう、おぼっちゃま♪」
どこまでもご機嫌なリズは、俺の手を取り食堂に引き返した。
リズの手は、暖かくて柔らかかった。
俺はこの人に、一生勝てない。
何となく、そう思った。
すると、音楽が聞こえてきた。
歌声が聴こえてきた。
リズが歌っていた。
リズが機嫌よく、歌を口ずさんでいた。
何の歌か分からないけど、いい歌だと思う。
俺はそれを聴きながら、ただリズに付いて行った。




