表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の魔女  作者: せいじ
8/17

 パワーブレックファストとは、こういうものなのだろうか。

 前世の俺にはとんと縁のない、しかし参加した者が自慢するような朝食会。


 俺にわざわざ、自慢するように。


 それがパワーブレックファストと呼ぶらしいけど、参加したことを他人に自慢する段階で、何がパワーなんだか。

 朝から上司の顔を見て、何が楽しいのやらだ。

 しかしここでは、何だかその名称がしっくりくる。

 パワーとパワーの押し合い、へし合い。

 さあさあ、とんとお立合い、お立合い。


 観客なら、良かったのに。


 やっちゃえ!やっちゃえ!とヤジを飛ばす、気楽な外野で居たかった。


「それで、殿下の聖都入りは、いつになりますかな?」

「御冗談を。殿下はまだ成人前でございます」

「成人式を前倒ししても、教会としては一向に構いません。何なら、成人式を聖都で執り行っても構いませんよ。私が執り行ってもいい」

「いえいえ、高位聖職者の方々にそのようなお手間を取らせるようなご不敬、我ら末端の信徒にはとても、とても」

 軽く首を横に振るリズは、見たことが無い人のようだ。

 大賢者さまも、いつもの大賢者さまとは思えない。


 両者はいったい、何を話しているんだ?


 笑顔を絶やさないリズだけど、いつものリズの笑顔では無かった。

 いや、俺はリズの何を知っているのだ?

 俺のことをおぼっちゃまと呼び、過保護でやたらとスキンシップが過剰な大人の女性。

 でもそれは、俺の目の前に居るリズであって、他人の前のリズではない。

「教会はいつでも、敬虔な信徒の味方ですよ。むしろ、遠慮する方が不敬ではありませんかな?」

「遠慮などしておりませんわ。信仰篤き信徒にとって、聖都は必ず赴かなければいけない聖地でございますから」

「その通りです」

「聖都では連日、中央大陸各地から信徒がやって来るとお聞きします。高位聖職者の方と一目お会いしたい、祝福を授かりたいと遠方からたくさんの信徒が集まります。その忙しさは、想像に難くございません」

「いやいや、迷える信徒を導くのに、それを忙しいと嘆くような聖職者など、ただの一人もおりませんよ」

「聖職者の方々のご献身は、我ら末端の信徒にも届いております。それだからこそ、聖職者の方々のお手を患わせることは出来かねます」

「ふむ、辺境であるこの地にも、教会の教えのことはきちんと伝わっているということですかな」

「我ら信徒にとって、教会の教えは至高でございます。我らは常に、聖都に向かってお祈りを捧げております」

「それは大変、結構なお心がけです。しかし、聖なる神の教えは至高でも、教会そのものは至高ではありません。聖職者たちは常に、迷える民の傍らにおります。至高の存在は、聖主ただおひとりですよ」

「まあ、そのとおりでございますわ。でも、聖主聖下はまだ御出でではないとお聞きしております」

「・・・・・・・・・・・・・いずれ、御出でになるでしょう」

「聖主聖下ご不在の中、聖職者の方々のご心労を察すると、我ら信徒は心が痛みます」

「なるほど、敬虔な心から出た、お気遣いということですかな?」

「はい、我ら聖なる神の信徒は、常に聖なる神のご意向に従ってまいります」

 うん?

 それって教会ではなく、聖なる神に従うってことか?

 というか、聖主聖下って、何?

 それを聞ける雰囲気ではないな。


 優雅に頭を下げるリズ、益々能面になるルス、青ざめる司祭見習い、ニコニコしている大賢者さま。



 そして俺は。



 逃げたい。




「そうですな、少し性急に過ぎました。ここは一旦、我らは引き下がりましょう」

「申し訳ございません、猊下」

 うん?げいかって、もしかして猊下か?

 大賢者猊下と呼ばないといけなかったのか?

 大賢者げいかさまか、大賢者さまげいかか?

 語呂が悪いから、大賢者げいかさまにしよう。

 肝腎の大賢者げいかさまは、少しだけ、ほんの一瞬だけ嫌な表情を見せた。

 ほんの一瞬だったけど、俺は見逃さなかった。

 嘘です。目上の人に対して目を逸らすのは不敬だから、ずっと見ていただけです。

「では、私は聖都に戻ります」

「今まで、ありがとうございました。当家ともども、感謝の極みでございます」

 俺も慌てて、頭を下げた。

 大賢者げいかさまは席を立ち、そのまま扉に向かった。

 司祭見習いが慌てて、扉を開けて頭を下げた。

 うん、宮仕えの鏡だ。

 大賢者げいかさまは扉の前まで来ると、突然くるりと回り俺の方を向いた。

「では、次にお会いする日を、心待ちにしていますよ。公子殿下」

 え?

 急に俺に振らないでよ。

「はい。大賢者さまもご壮健で在られます様に、聖なる神にお祈り致します」

 俺は静かに、そして優雅に頭を下げた。

 大賢者げいかさまは、満足そうにうなずいたけど、心の中までは分からない。

 とは思うものの、我ながら良く出来たと思う。

 大物を相手に、どうしてこんな芸当が出来たのか、俺には分からなかった。

 まったく、俺ってどうなっている。

 澱みなく、こう言える俺って、すごくない?

「ああ、見送りはいいですよ。聖なる神のお導きで、すぐに再会出来ると思いますので」

 ルスだけは、送るために付いて行った。

 途中まで、警護致しますと。

 俺とリズは、ただ頭を下げて大賢者げいかさま一行が見えなくなるまで、そのままの姿勢でいた。

 俺はチラッと、リズの横顔を見た。

 心なしか、リズはホッとした表情をしていた。

 

 リズは、何と戦っていたんだ?


 それにしても、やっと終わった。

 時間にして10分足らずだと思うけど、何だか数時間経過したような気がする。

 湯気が立っていた朝食もすっかり冷めていたし、そもそも大賢者げいかさまは用意された食事に手を付けなかった。

 食べ物を粗末にするって、どうよ?

「リズ?」

「はい、殿下」

「リズ」

 俺は、リズの手を取った。

 リズの手は、すっかり冷えていた。

 今までで一番、冷えていた。

 俺は、リズの手をさすった。

「ああ、申し訳ございません。おぼっちゃま」

 顔色が悪かったけど、大丈夫そうだった。



 

 だって、ちゃんと目が笑っていたから。




「お見送りに出なくても良かったのかな?」

「大丈夫でございますわ、おぼっちゃま」

「そう」

「はい」

「じゃ、もう食べてもいいよね?」

「あ、いけませんわ」

「なんで?」

「まだ、おどく・・・・味見をしていませんので」

「大丈夫だよ」

「ええ、でも」

「だって、リズが用意してくれたんでしょう?」

「はい、もちろんでございますわ」

「なら、大丈夫だよ」

「はい」

 俺は冷めたスープを飲む。

「美味しい」

「ありがとうございます」

「リズは食べないの?」

「リズは後で頂きます」

「一緒に食べよう」

「でも」

「ダメなの?」

「身分が」

「今日は聖日なんでしょう?だったら、聖なる神も許してくれるよ」

 俯いたリズは、おずおずとスプーンを取ってスープをすくった。

「あら、美味しいわ」

 自分で作ったのに、自画自賛かな?

「出来立てはもっと美味しかったので、ちょっと意外でしたわ」

「なんだ、毒見は済んでいるじゃないか」

「いえ、それは味見でして」

「違うんだ」

「はい、違いますわ」

「ふ~ん」

「おぼっちゃま、お行儀がお悪いですよ」

「リズ」

「はい、何でしょうか?」

「いつも、ありがとう」

 

 俺は手を止め、リズに感謝した。


 よく分からないけど、リズは俺を守ろうとしたんだろう。


 何から守ろうとしたのか、今の俺には分からないけど。


 政治って俺には分からないけど、それだけは分かる。


 リズは、俺の盾になってくれたんだと。


 だから、今度は俺がリズを守りたいと思う。



 守れるようになりたいと、強く思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ