表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の魔女  作者: せいじ
3/17

 たすけて



 たすけて



 たすけて



 だれだよ?



 たすけて



 だから、だれをたすけろって?



 たすけて



 ああ、うるさい!


 


 助けてほしいのは、俺の方だ!




「あら、おぼっちゃま。おはようございます」


 え?


 ここは、どこだ?


 知らない天井だった。

 いや、嘘ですけど、でも見慣れない風景だ。

 見慣れないのに、見慣れている感覚に、俺は少し戸惑った。

「少しお早いですけど、もう起きられますか?」

 美女がいる。

 年は、20代中ごろぐらいかな?

 もっと若く見えなくもないけど、そこまでは若くはないというのが分かる。

 落ち着いた仕草に、余裕がある態度は、ある程度の年齢がないと出ないと思う。


 しかし、ありえないぐらいの美人だ。


 金色の長い髪を後ろで編んで束ね、清楚な感じがする女性だ。

 しかも、胸が大きい。いや、とても大きい。

 とても魅力的な美女だけど、俺はなんとなくこの女性が苦手だ。

 普通はこんな美女が側に居てくれたら、それだけでハッピーなはずなんだけど、なんとなくひとりになりたくなるのが不思議だ。

 

 リズと名乗ったこの女性は、メイドのようでメイドではないようだ。

 それにいったいいつ休んでいるのか分からないぐらい、いつも俺の側に居る。

 寝る時も、起きる時もだ。

 俺が休む時も必ず、リズは俺の枕元に居て、子守唄を奏でる。

 リズの子守歌は、俺を深い眠りに誘う。

 子守歌なんか恥ずかしいと言っても、はいはいと言って、歌うのをやめたりしないのだ。

 

 そんな彼女に、なぜか俺は逆らえない。


 そして翌朝、必ず俺を起こしてくれる。


 まるで、一晩中俺の枕元に居たようにだ。



 いくらなんでも、そんなことは・・・・・ないよな?



 そうはいっても、俺はリズが休んでいるところを見たことがないし、俺の居るところには必ずリズが居て、視線を送るとリズはいつもニコッと微笑んでくれる。

 いつ着替えたのか分からないけど、いつも身ぎれいで、しかも目にクマはなく、とても徹夜明けには見えないから休んではいると思うけど、いつ休んでいるんだろうかと疑問に感じるぐらい、いつもちゃんとしている。


 そして、いつも優しい。


 もし聖母がいるとしたら、それはきっとリズのことだろう。


 こんな女性は、初めてだ。


「はい、おぼっちゃま」

 顔を洗った後、柔らかいタオルを渡された。

 以前は、リズが俺の顔を拭いてくれたけど、今は自分でやっている。

 いい加減、自分でやらないといけないからと言ったら、少し悲しげな顔をして、残念そうにタオルを渡された。

 リズのそんな表情を見た時、胸がズキッと痛んだ。

 本当に、痛かった。

 そのあまりの痛さに、俺は驚いた。

 本当に、俺がリズに悪いことでもしたようにだ。


 リズにそんな顔をさせるのは、とても嫌だと思ったし、自分を責めそうになる。

 そうは思うけど、時々いじわるをしてしまうのだ。


 したくなるのだ。


「おぼっちゃまもいずれは、聖都に赴かないといけなくなりますから・・・」

 うつむき加減でぼそぼそと語るリズを見ると、つい後悔してしまう。

 友達をうっかり傷つけた時の、あのばつの悪さというか、素直に謝れない感覚に俺は戸惑った。


 いや、ここに来てから、俺は戸惑いっぱなしだった。


「でも、おぼっちゃまがこちらにいらっしゃる間は、すべてこのリズにお任せくださいませ!」

 リズは小さく、ガッツポーズをしてみせた。

 こういう時のリズが、とても幼く見える。

 そんなリズを見ると、俺はリズに甘いと思う。


 やっぱり、今度はもっときつく言おう。


 そう思いつつも、いつもリズにされるがままの俺だった。

「さあ、お着替えいたしましょう」

 鼻歌交じりで俺の着替えを手伝うというより、着せ替え人形のごとくリズにされるがままの俺は、優柔不断なのだろうか。

 いや、美女に逆らえる男なんて、どこにもいないはずだ!


 そう思うことにしよう。


 でも、いずれ聖都に赴くってことは、ここは聖都ではないということか。


 聖都って、なんだ?


 そもそも、ここはどこだ?


 俺は何者だ?


 まあ、おいおい分かるだろう。


 まだ、ここがどこで、何なのか分からない内は、下手な詮索はしない方がいい。

 


 

 俺の正体を知られないように、慎重にだ。





「さあ、朝食のご用意が出来てございますよ♪」

 俺はリズに促されるように、部屋を出て廊下というか、回廊みたいな場所を歩いた。

 この屋敷は想像以上に広く、最初の頃は迷った。

 いや、俺の後ろには常にリズが付いているから、迷うことはないんだけど。

 どちらへと聞かれても、ちょっととしか答えない俺も悪いと思うけど。

 

 だって俺はいまだに、この屋敷の全貌が分からない。


 そもそもが、分からないことだらけだ。


 食事は食堂でするのだが、そこにはお貴族にありがちな大きな長方形のテーブルはなく、意外にも丸いテーブルだった。


 そこには両親はおらず、メイドがどこからかワゴンで料理を運ぶだけで、後はリズが全部やってくれる。


 だいたい、両親がどこに居るのかも俺は知らないし、名前すら分からない。


 知りたいけど、当然という顔をしないといけないと思うからだ。


 出された食事は冷えていて正直あまり美味しくないけど、あらかじめリズが毒見をしているそうだ。

 そんなことが必要なのかどうか分からないけど、出来立てを食べることはどうも無さそうだ。


 でも、毒見って本当に必要なのか?


 俺は冷めたスープをお上品にすすりながら、そう感じた。

 俺は貴族に相応しく、何事も上品にこなせる、らしい。

 というか、俺にはこんなスキルがあったのが驚きで、上流階級の作法にはそれほど苦労はしなかった。

 いちいち考えずに、無意識に貴族らしく振舞えるのだから、つくづく不思議な身体だと思う。

 しかも、初級の社交ダンスまで踊れるのだから、自分でも驚きだった。

 初めて社交ダンスの練習をした時は正直緊張したけど、自然に踊れてしかも相手の足を踏まずに身体を密着させながら、優雅に踊れてしまった。

 もう、中級の練習も出来ますねとリズは喜んでいたけど、そもそも社交ダンスの初級を練習した覚えはないんだけど。

 そんな社交ダンスの練習相手はいつもリズだけど、お上手です、おぼっちゃまを連呼しながら俺を抱きしめたり頭をなでるので、ちょっと恥ずかしかった。


 いちいちリズのスキンシップが過剰過ぎると思うけど、もしかしてこの世界ではこれが普通なのか?


 前世における外国では、握手やハグはもちろん何ならキスまでするのだから、これをおかしいと思ってはいけないのだろう。


 いや、他のメイドや使用人はそんなことはしないし、むしろ俺から距離を取っている。


 以前、使用人の少女が物を落としたので拾ってやると、使用人の少女は俺が驚くほど謝ってきた。

 俺は気にするなと言ったけど、リズは逆に俺をたしなめた。

 こういう時は、気が付かないふりをするのが作法でございますわと。

 そしてリズは、その少女を叱っていた。

 おぼっちゃまに、お手間を取らせてはいけませんと。

 うなだれた少女を見るのは、正直いたたまれなかった。

 でも、これが普通なんだ。


 普通なんだけど、俺にはどうもその感覚が理解出来ない。

 

 朝食の後は、身体を鍛える。

 主に走り込みと素振り。

 もちろん、素振りはバットではなく剣だ。

 剣と言っても木剣だけど、本物みたいに重かった。

 いや、本物を持ったことはなかったけど。

 とにかく、それをひたすら振るのだ。

 その後は、打ち合いの稽古をする。

 稽古の相手はこの屋敷に常駐している騎士で、リズの旦那さんだった。

 これを知るのは意外に簡単で、旦那さんから妻は問題ありませんかと聞いてきたので、リズは良くしてくれますと応えた。

 俺の世話をしているのは、リズ以外に居ないからこれだけで分かった。

 そんなリズの旦那さんはいつも言葉数少なく、もっととか、強くとか、早くと曖昧で困った。

 そんな無口な旦那さんは、リズからルスと呼ばれていたから、きっとルスという名前なんだろう。

 リズ自体は、エーオス様とかエーオス夫人と呼ばれていたので、姓はエーオスなんだろう。

 リズのことを奥さまと呼ぶ人も居るけど、それは一人だけだから気にしないでおこう。

 二人の名前はリズ・エーオスにルス・エーオスと、取り合えず覚えておこう。

 とは言うものの、もしかしたら聞き違いとか役職名の可能性もあるので、今はリズとルスと呼ぶことにした。

 それで困ることは、何も無いし。

 ちなみに俺のことは、リズ以外の皆は殿下と呼んでいる。

 ルスも俺のことを殿下と呼ぶので、おぼっちゃま呼びはリズだけのようだ。

 というか、この期に及んでも身近な人の正確な名前どころか、自分の名前すら知らない俺って、どうよ?

 メイドを始めとする使用人達はもちろん、肝腎の親の名前すら知らない。


 自分のコミュ力の無さを、実感する。


 コミュ力って、本当に大事なんだとこの世界に転生してから、実感するようになった。


 どうにかして、自分のことはもちろん、親やこのお屋敷の人たちについての情報も知らないといけない。


 とは言うものの、今更自己紹介は無いだろうし、使用人に親の名前を聞くのもどうかと思う。


 それこそ、お前誰だよになるからだ。


 それは、秘密にしないといけないだろう。


 そもそも、ここが異世界なのかどうかも、実はよく分からないからだ。


 俺が前世の記憶を持っているのか、それとも別世界から来たのか、それすらも分からないからだ。


 

 いろいろと不便な毎日だけど、前の生活よりも快適なので、なんとなく居心地がいい。



 ひとりになれないのが、玉に瑕だけど。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ