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終末の魔女  作者: せいじ
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「粉砕せよ!魔術解放!!!」

 空は黒い雲に覆われる。

 闇に染まっていく、世界。

 破壊を司るかの如く、雷鳴が轟く。


 消滅するだろう、街の行く末。


 しかし、魔術は発生しなかった。

「な!?」

 道化師の魔女はきょろきょろと、あたりを見回した。

「こいつは第九階梯魔法だぞ。ボクの切り札だぞ。しかも、解放した魔術を無効化するなんて、そんな真似が出来る奴が居るはずない!」

 だが、あたりには誰も居なかった。

「あのメイドでもない。なら、あの対抗魔法はいったい誰がやったんだ?」

 メイドは子供を抱えたまま、ぶつぶつと何かを呟きながらうずくまっていた。

「ははあ」

 道化師の魔女はほくそ笑んだ。

 愚かなことにメイドは、背を向けたまま状況の変化に気が付いていない。

 メイドに抱えられた子供は、どうやら無事のようだ。

 対抗魔法を仕掛けた奴は、どこに居るのか見当もつかない。

 そいつが誰なのか、敵なのか味方なのか分からない。

 出てこないということは、これ以上は用が無いということだろう。

 そいつが何を考えているのか分からないが、攻撃してくる意図は無いようだ。

「クックックックッ」

 よく分からないが、すべてがうまくいった。


 ボクは運がいい。


 笑い出してしまうのをなんとか止め、道化師の魔女は女に気取られないようにそっと近づいた。

「誰がやったか知らないが、結果オーライだ」

 道化師の魔女が手をにぎにぎすると、小さな煙のようなモノが出現した。

「やれやれ、第二階梯魔法がせいぜいかな」

 道化師の魔女は残った魔力を練り、術式を組み、手をかざした。


 メイドの背に向けて。


「本当に世界は広いものだ。第九階梯魔法を無力化出来る奴なんて、そうは居ないからな」

 このメイドの正体を知りたいところだが、敵には違いない。

 幸い、今は無防備だ。

 ここで殺しておくに、越したことは無い。

 メイドの正体は、後で調べれば分かるだろうし。

 笑い出しそうになるのをこらえながら、魔術を解放する。


「死ね」


 空から、何か大きな物体が落ちてきた。

「させん!!!」

「とべ!!!」

 異変に気が付いた道化師の魔女は、咄嗟に詠唱するも何も起きなかった。

 すでに魔力は枯渇し、後は体術で対応するしかなかった。

 そこに一瞬の遅れがあり、上空からの攻撃を完全に避けられなかった。


 指を二本、失ってしまった。


 道化師の魔女の目の前に降り立ったのは、大きな男の剣士だった。


「つぅ~」

 大男は持っている大剣を、まっすぐ道化師の魔女に向けた。

 道化師の魔女は地面に落ちた、自分の指を見つめた。

「はあ~、割に合わない仕事だねぇ」

 道化師の魔女は傷口を押さえ、しかしどこか呑気な感じを見せた。

「降伏しろ!」

「いっやっだね!」

「そうか、なら死ね」

 大男は大剣を振りかぶった。

 道化師の魔女は懐から礫のようなモノを取り出し、大男に向かって投げた。

 大男は飛んできた礫を大剣で弾くが、弾いたその瞬間、あたりは真っ白になった。

「クッ!閃光弾か?」

 目を覆っても、手遅れだった。


 あたりは、真っ白に光った。

 

 光はすぐに収まったが、そこに道化師の魔女は居なかった。


「逃げたか」


 後に残るのは、リズと少年とルスが連れてきた兵士と、拘束されたチンピラたち。



 そして、ルスが居るだけだった。



「やれやれ。何とか、間に合ったか」

 チンピラ達は、結界が解かれた瞬間に突入してきた兵士たちにすでに拘束されていた。

 男たちは何か喚いていたが、抵抗するなら斬ると脅すと、静かになった。

 組織の下っ端だとしても、なにがしかの情報は持っているはず。


 下っ端風情なら、組織の重要な情報は持っていないかもしれない。

 だが、組織が使っている拠点の一つぐらいは知ってはいるだろう。



 それを潰す。



 少なくとも、これで一連の誘拐騒ぎは収まるだろう。

 誘拐された子供たちを、出来れば助け出したいところだが。

 だが、我々は奴らの下部組織すらも実態が掴めていないから、根本的な解決は無理だろう。

 ましてや、奴らの上部組織の摘発なんて不可能だろう。

 おまけに、奴らと魔女が手を組むなんて、新たな事態だ。

 魔女にとって、奴らとは相容れることが出来ない敵のはずだからだ。

 ありえない事態だ。

 王都にいらっしゃる、大公殿下に報告しないといけない。

 



 人身売買シンジケートと魔女が、手を組んだ模様だと。




 でもなぜ、人身売買シンジケートが魔女なんかと手を組んだんだ?

 何かルートでもあるのか?

 情報屋からもそんな話しは聞かないし、そもそも闇社会の話が表面に出る時は、対立する組織を潰す為だったりする。

 その結果として、むしろ厄介な組織を太らせる事態になる。

 それとも、魔女とシンジケートの対立は表面上に過ぎず、裏では手を握っているということか?

 栗色や茶色い髪の子供たちが誘拐されたのも、偶然では無かったのだろう。

 殿下の髪の色は、鮮やかな金色だからだ。

 最初から、殿下が狙いだった。

 それで手あたり次第、殿下と似たような髪の色の、しかも殿下と同じような年格好の子供が狙われたのだろうか。

 あくまでも目的は殿下の身柄で、その為にシンジケートと魔女が手を組んだ。

 今までの騒動で、魔女どころか魔族の目撃情報は無かったからだ。

 それゆえに今回は、何か確信があったと見るべきだろう。

 シンジケートが魔女と一緒に居る姿を晒すリスクを冒しても、殿下を襲う必要があったとも考えられる。

 あんな昼日中で、しかも人目に付くようなやり方は異常で、それまでの人目を避けての誘拐のやり方ではないからだ。

 あまり考えたくないが、何か裏があるのか?


 それにいつどのタイミングで、シンジケートは平民の格好をした子供を、殿下であると確信したのか?


 もしかして、城が見張られていたのか?


 いや、城の見回りは念入りにやっているし、殿下の姿を知る者はそうは居ないはず。


 出入りの商人が、殿下を目撃したのか?


 いや、それはない。


 すべての出入りの商人の身元は確認しているし、怪しい人間はそもそも城に入ることは出来ないはず。


 もしかして、商人の身元が偽装されていたら?


 王都の有力商会の紹介状を持っていたから、それはないはず。


 まさかとは思うが、王都の上の方や教会が絡んでいるとか。


 嫌な感じがする。


 政治は何でもありだから、タチが悪い。


 ルスは考えたけど、そもそも考えるのは苦手なタチだった。


 あとは殿下に抱き着いて泣きわめいている、我が妻をどう扱うべきか?

 周囲の目も気にせず、子供に抱き着いて泣き喚くのは、さすがにどうだろうか?

 しかも、どうしてか分からないがスカートが切れていて、そこから妻の足が露わになっている。

 魔女にやられたにしては、不自然な切れ方だ。

 実に不思議だ。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 とりあえず、ここは部下に後を任せて俺は魔女を追おう。

 魔女さえ捕えることが出来れば、すべてが解決するはず。

 魔女が居ること自体が、そもそも不自然なのだから。

 それも魔女を捕まえれば、何か分かるだろう。

 魔力も枯渇し、しかも手傷を負っている。

 遠くに逃げられるとは思えないが、シンジケートが逃亡の手助けをする可能性もある。

 いや、それならそれで、むしろ好都合だ。

 まとめて潰せるからだ。

 そうだ、それがいい。

 うん、それしかない!

 それが俺の役割であり、巡り巡って殿下の為にもなる。



 俺がそうしようと動こうとした瞬間、名前を呼ばれた。



 妻に、呼ばれてしまったのだ。


 振り返ると、この世のモノとは思えないぐらいの恐ろしい形相をした、我が妻がそこに居た。

 いや、いらっしゃったと言うべきだろう。

 とても聖女とは思えないような形相だが、そういえば昔からああだったな。

 殿下のお世話をするようになってから、妻は変わった・・・・・・・・わけはないか。

 殿下の前だけ、聖女のような振る舞いをしているだけだったな。

 すっかり、忘れていた。

 


 これから俺は、どうなるのか?



 聖女のお裁きが、俺を待っているのか?

 いや、今はそんなことをしている場合ではない。

 俺は、魔女を追うんだ。

 追いたいんだ。

 追わせてほしい。

 分かってるさ。

 そんなことは、兵士にやらせろと言われるだけだろう。

 俺の仕事は、殿下の護衛だと、そう言われるだけだろう。

 間髪入れずに魔女を追えば良かったと思うけど、そうしたら殿下を置き去りに何をしてくれるともっと事態が悪化しそうなので、それは言わないでおこう。

 まあ、生きて帰れれば、御の字と思おう。

 戦場では何が起きるか、分からないから。

 戦場では諦めが死に繋がるが、この場合はその逆だろう。

 早い段階で諦めれば、傷も小さく済む。




 戦場の英雄は聖女さまのお裁きを受ける為、その大きくて重い身体を引きずりながらも、聖女さまの元に参上することになった。




 100の言い訳を用意しながら。

「言い訳って、何故か役に立ったこと無いんだよなあ」

 でも、殿下が何か言いたそうな表情をしているから、きっと助けてくれるだろう。

 殿下は年の割に、結構気が付くお方だから。

「殿下、俺を助けてくださいよ」

 俺のつぶやきが、殿下に通じたかどうか分からない。

 毎日剣を交わす仲だから、きっと通じ合うに違いない。


 妻は俺の言うことは何があっても絶対に聞かないけど、殿下が相手なら何でも言う事を聞く。

 何なら、殿下が何か言う前に動くぐらいに、気を遣っている。

 まあそれも、当然と言えば当然か。





 妻は、殿下に救われたのだから。





 とは言え、殿下に向ける優しさのその一片でも、俺に向けてくれないかなあ。


 一応、夫なんだから。


 いえ、何でもありません。


「今日も、いい天気だ」


 戦場の英雄は大空に向けて、盛大にため息を吐くのだった。



 戦っている時が、俺にとって一番しあわせな時間なんだ。

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