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終末の魔女  作者: せいじ
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「さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。大陸一の舞台が始まるよ。さあさあ、見てのお立合い!」

 

 俺とリズは、にぎやかな音と掛け声のする方へ向かって歩いた。

 中央広場は想像した以上に広々としていて、緑も多く落ち着いた雰囲気の場所だった。


 恐らく、礼拝堂が鎮座しているからかもしれない。


 礼拝堂の荘厳な感じが、観光気分を盛り上げてくれるようだ。


 不謹慎だろうか?

 

 そんな広場には石畳が敷かれ、中央には噴水があった。

 噴水の前に、舞台が用意されていた。


 お芝居のようだった。


「さあさあ、紳士淑女の皆々様、お時間のある方、無い方も見てらっしゃい、聞いてらっしゃい!」

 元気よく呼び込みをしているのは、道化師のようだ。

 この世界の道化師も、俺の居た世界と同様に、身体にぴったりとした派手な衣装に、顔にまるでペンキでも塗ったような笑った感じの化粧が施されていた。

 道化師は女性のように華奢な感じに見えたけど、声は明らかに男だったし、胸板も明らかに男性特有のものだった。

 道化師は身振り手振りを交え、軽快に語り掛ける感じが、見ていて楽しかった。

「これを見ないと、後悔すること間違いなし!」

 大きく出たものだと思うけど、こういうものは言ったもん勝ちかな。

 営業の基本だ。

 とにかく、客を取れと。

 まあ、その後は大変なんだが。


 

 舞台の前には席が用意され、すでに何人かの客が着席していた。

 俺とリズも、隅の席に座ることにした。

 本当なら真ん中が良かったんだけど、リズがこちらにいたしましょうと俺の手を引いたからだ。

 

 まあ、ここで問答していても仕方が無いし、若い者は端に居るもんだろう。

 でも、チケット代はどこで支払うんだろう?


 周囲を見たけど、それらしきものは見当たらなかった。


 きっと、最後にあの道化師が帽子みたいなものを持ってきて、各々が思い思いにお金を支払うんだろう。

 問題は俺はもちろんのこと、リズに場末の舞台の相場が分かるだろうかということだ。

 払い過ぎれば正体がバレるし、少ないとそれはそれでよそ者と勘違いされる。

 いい塩梅を、どうするかだ。

 値切り過ぎて、結局商談が成立しないのは、三流の営業のすることだからだ。

 だから、落としどころを見極めるのが、一流の仕事だと思うし、思いたい。


 だから周囲を観察しつつ、適宜判断しよう。


 おおっと、始まるみたいだ。


 道化師が出てきて、物語の始まりを語りだした。


「時は世界創成期、神々がまだこの地上にいらっしゃった頃のお話、おは~なしぃ!」

 パチパチパチと拍手が鳴ったので、俺も追従しようとしたけど出来なかった。

 リズが俺の手を放してくれなかったからだ。


 いつまでも、手を繋いだままだった。


 まあ、いっか。


「神はこの世界を創造したもうた!」

 ドンドンと、太鼓が鳴った。

「世界を創造した神は、やがてこの大地に変身し、月を産みたもうた!」

 そこに大地というか、地球みたいな丸い仮面を被った男性の役者と、三日月を模した仮面を被った女性の役者が表れる。

 二人はぐるぐる回り、やがてハグをする。

 すると二人の間から、太陽を模した仮面を被った子供が登場する。

 こちらは分かりやすい意匠だ。


 それにしても、うまい!


 舞台は流れるように進行し、予想を裏切るぐらいによく出来ている。

 俺は拍手したかったけど、リズが手を放してくれなかったから出来なかった。

 それは残念だと思う。

 俺は何とか、手を放そうとした。

 

 俺の手を握るリズの力が、むしろ少しだけ強くなった。

 

 もしかして、身分のある人は、こういった場では拍手してはいけないのかな?

 拍手する代わりに、褒美を取らせようとでも言わないといけないのかな?

 まあ、それならそれで、後はリズが何とかしてくれるだろうけど。

 仕方が無いので、このままお芝居に集中しよう。

 神話についてはよく知らないので、むしろ参考になりそうだ。

 

 これが、世界創世記の話なんだと。

 でも、太陽が地球と月の子供って、ちょっと変だなあ。

 そんな神話、前世でもあったかな?

 まあ、そういった話に関心が無かったから、よく分からないけど。


「だぁ~がぁ~、だがだあ~がぁ~、月は太陽を産んだことでえぇぇぇ~、ななななぁぁぁ~んとおぉぉぉ~、月は死んでしまうのでした!」

 ドドンと、太鼓が鳴る。


 月が燃えている、そんな演出だった。


 そこに物悲しい雰囲気が醸し出され、おどろおどろしくなってきた。

 笛の音も鳴り響き、おどろおどろしさに拍車が掛かる。

 これって、悲劇の物語かな?

 う~ん、休日に相応しくないような演目のような気がする。

 しかも昼日中なのに、これってどうだろうか。

 だって、今日は聖日なんでしょう?

 子供も居るんだよ?

 いえ、俺以外の話ですけどね。


 その時だった。


 舞台の内容とは裏腹に、軽快にナレーションをしていた道化師と、目が合った。

 それも偶然ではなく、はっきりと目が合った。

 道化師は俺から目を逸らさず、むしろ強い視線を向けてきた。

 見てはいけないと俺の中の何かがささやくけど、目が離せなかった。


 どうしても、目を逸らすことが出来ない。


 道化師の瞳は深い闇を思わせるような色だけど、瞳の奥にかすかに赤みを帯びたような不思議な色をした瞳だった。


 まるで、血のような赤に見える。


 血の色に、引き寄せられてしまう。

 

 そのまま吸い込まれそうで、とても怖かった。


 視線を外したくても、どうしても視線を逸らすことが出来なかった。


 闇に引きずり込まれるような、そんな錯覚を覚えた。


 ここに居てはいけない。


 でも、動けない。


「?」

 手に力が掛かった。

 リズが、繋いでいた手に力を入れてきた。


 痛いぐらいに、強かった。


 繋いだ手が、ほんのわずかだけど汗ばんでいた。


 道化師から、視線を外すことが出来た。

 

 その瞬間、俺はリズの方を見た。

 リズも俺を見つめていた。

「おぼっちゃま、参りましょう」

 リオンだよと咎める雰囲気では無かったし、道化師の瞳は正直怖かった。

 リズも緊張した表情をしていた。

 実際、会場はどこか不穏な空気に包まれていた。

 いつの間にか黒い装束を身にまとった、いかつい感じの男たちが少しずつ集まり始めていた。

「何者かな?」

「・・・・・・・・」

「リズ?」

「さあ、参りましょう」

 リズは俺の手を引き、中央広場を後にした。

 禁忌に触れる内容だったのか、発禁扱いの物語を使ったのか俺には分からない。

 でも、リズの雰囲気は尋常ではなかった。


 この世界に無知な俺は、この世界の住人であるリズに従うべきだろう。

 郷に入っては郷に従えとも言うし。

 

 いくら俺でも、頑なではない。


 俺も、ここを離れた方がいいと思ったから。

 

 リズと俺は中央広場を後にしたけど、それでもリズの様子が変だった。

 時折、周囲を見回していたからだ。

 追手でもあるのかと思い、俺も周囲を見回したけど、誰も居なかった。


 ホッとした。


 追いかけられたら、どうしようかと思ったからだ。


 でもどうして、追いかけられると思ったんだ?


 いや、変だ。


 何だろう、とても変な感じがする。


 おかしいけど、おかしい理由が分からない。


 俺はもう一度、周囲を見回した。


 やはり、誰も居ない。


 そうだ、誰も居ない。

 さっきまで、あれだけ人だかりが出来ていたのにだ。

 俺とリズは、表通りを足早に歩いている。

 それなのに、誰も歩いていない。

 裏通りならともかく、表通りなのに誰ひとり歩いていない。


 普通ではない。


 リズは、更に早足になった。

 握る手から、リズの焦りが伝わってきた。

 リズに事情を聞きたいけど、そんな雰囲気ではなかった。

 とにかく、ここを離れよう。

 屋敷に戻ってから、リズに事情を聞けばいいと思う。

 とにかく、まずはあの殺風景な場所に戻ろう。

 リズも来た道を戻っているし。


 その時だった。


 俺とリズが、T字路に差し掛かった時だった。


 明らかに怪しい風体の男が三人、俺とリズが進もうとしている道に立ちふさがっていた。

 リズは咄嗟に立ち止まって後ろを振り向くと、いつの間にか同じように怪しい風体の男が二人、まるで俺たちの退路を塞ぐように立っていた。

 男たちは、何か得物らしきものを持っていた。

 リズは俺の手を引きながら、空いている方の道へ曲がろうと向きを変えた、その瞬間だった。


 誰か居る!


「お客さぁ~ん、まぁ~だぁ~、演目がぁ、終わってませんよぉ」

「え?」

 あの時の、道化師だった。


 いつの間に。


 リズは庇うようにして、俺の前に立った。

「な、なんでしょうか?」

「お客さ~ん、舞台はこれからですよぉ」

「も、もう結構でございますわ」

「そうですかねぇ。そちらの坊やは、まだ見たいんじゃないんでしょうかねぇ」

 笑っているのに、笑っていない。

 深い闇の色をした瞳は、それだけに闇が深そうだ。


 闇色の瞳の奥の赤が、とても怖かった。


「ねえ~、坊やぁ、聞こえてるかなぁ?」 

 嫌な感じしかしない。





 この世界に来て初めて、人を怖いと思った。





「こ、子供には関係ありませんわ!」

 リズはそう言いながら、俺を後ろへ後ろへと背中で押していった。

 道化師はゆっくりと、近づいてきた。

 やがて俺は、リズの背中と建物の壁の間に挟まれた。

「ねぇ、美人さん?」

「ひ、人違いですわ!」

「人違いねぇ。クックックックッ。人違いかどうかは、調べてみないとねぇ。確認は大事だよねぇ。ねえ、坊やもそう思わないかなぁ?」

 リズは小声で俺に話しかけた。

 リズは正面を向いているのに、まるで耳元で話し掛けられているような感じがする。

「おぼっちゃま、そのままで居てくださいませ。リズが必ずお守りいたしますから」

 いや、この期の及んで女性に、リズに守られるなんて。

 自分が子供だからって、いくらなんでもそれはダメだ。


 女性を守れずに、何で男なんだと。


 そこで思い出した。

 俺はルスから、ナイフを預かっていたことを。

 何かあったら、使うようにと。


 俺は腰のあたりを探り、ナイフの入った鞘を取り出した。


 小声で、リズにこのことを伝えた。

「リズ、リズ」

「はい、何でしょうか、おぼっちゃま」

「僕が逃げ道を切り開くから、リズはそこから逃げて。それで、助けを呼んで来て」

「え?」

「ルスからナイフを預かったから、右のあの三人なら突破できると思う」

「まあ」

 多人数を相手にするときの戦い方は、一応は教わっていた。

 ただし、倒すことが目的ではなく、逃げる為に。

 そして逃げるには、相手の力量を見極めることが大事であると。

 正面の道化師は、恐らくは強い。左に居る二人と右に居る三人は、ほぼ同等の力のようだけど、三人の内の一人だけがレベルが違っていた。

 この場合、レベルが違うメンバーでパーティを構成していると、咄嗟の時の連携を取る事が難しくなり、一人をうまく崩せば突破は可能だ。

 俺たちを舐めてくれていれば、なおいい。

 油断は足元を掬うからだ。

 こちらはか弱い女性に子供の二人連れだから、あの三人は油断しているはず。

 人数が多いと、逆にその人数に依存してしまうものだと、ルスから教わった。

 自分が何もしなくても、他の奴がやってくれるはずだと。

 その上で、他人の功績をうまく掠め取ろうとするものだと。

 むしろ、こっちには来ないはずだと高を括っているはず。

 普通なら、人数の少ない正面の道化師か、左の二人に行くはず。


 自分たちに来るはずはないと。


 少なくともあの三人は、そう思っているはずだ。


 だからここは、意表を突く。


 突破口は、あの三人の方だ。

「リズ、僕に任せて」

「珍しく、ルスも気が利きますこと」

 リズがかすかに、ため息を吐いた。

 リズの間延びしたというか、どこかのんびりした態度に、俺はむしろ動揺した。

「普段もこうだと、よろしいのでしょうけれど」

 何を呑気な。

 そんなやり取りをしている場合ではない。

 道化師は徐々に近づいてきたからだ。

 どうせ逃げられないだろうと、余裕な感じにすら見えた。


 いや、これも駆け引きか?


 リズが動揺するのを、待っているのか?


 近付く道化師の瞳の奥に見える、闇の中に見えるかすかな赤色が妖しく光っていた。


 リズはまた、人が変わったように道化師と対峙した。

「ひ、ひ、人を呼びますよ!」

「呼べばぁ~」

「だ、だれか~、だれか~、人さらいが居ます!だれか~、たすけてください!」

 リズのこんな叫び声は初めてだけど、よく通る声だった。

 でも、誰も来なかった。

 信じられないぐらい、ここには誰も来ない。

 何か変だ。

 変でも、戦うしかない。

 俺が、リズを守るしかないんだ。

 俺は意を決した。

 女性を守るのは、男の役割だ。



 リズは、俺が守るんだ!



「リズ、身体を離して」

 リズと壁の間に挟まれたせいで、ナイフを鞘から抜くことが出来ない。

「おぼっちゃま、後はリズにお任せくださいませ。決して、いいですか、決して、動かないでくださいませ」

「なにを?」

 リズは俺を無視して、道化師とのやり取りを再開した。

「な、なんなんですか、あなたは?」

「いい加減さ、その坊やを捨てて逃げたらどうかな?」

「この子は、この子は私の大事な子供です!お母さんである私が、お母さんが、お母さんであるこの私が、子供を置いて逃げるはずありませんわ!」

「ほぉ~、見上げた忠誠心だねぇ」

「私の声を聞いて、すぐに警備兵が来ますよ!」

「来ないと思うよぉ」

「き、きます!か、かならず来てくれます!」

「無理だよぉ。だって、結界を張ってあるんだもの」

「結界?・・・・まさか、第二位階聖法でしょうか?」

「ざ~んねん、第九階梯魔法だよ」

「・・・・・・・・あなた、魔族でございますね?」

 え?魔族?

 魔族って、尻尾が生えていて牙があって、角があって、あとはええっと、ええっと、つまり人間ではないと。

 でも、目の前に居るのは華奢な感じでやけに人間ぽく見えるけど。

 道化師の衣装や化粧は、確かに普通ではない。

 ああ、もしかして道化師って魔族を模したのかな?だとすると、分かりやすいなあ。

 魔族イコール道化師であり、恐ろしい存在はむしろ、笑いの対象にする。 

 いや、それだとかえって分かりにくいか。

 角も牙もなく、翼や尻尾も無い。

 化粧や恰好以外はどうみても普通の人間だし、逆に子供たちに人気が出そうだ。

 子供が支持する対象を、人類の敵には出来ないはず。

 いや、今はそんなことを考えている場合ではないけど、何も出来ないのも事実だ。



 異世界ファンタジーの主人公なら、こんな時どうする?



 待てよ、そもそも俺が主人公であるとは限らない。

 主人公なら正義を愛し、弱い人々の為に命をかけることが出来る、そんな努力家だと思う。

 スローライフを夢見るような人間が、主人公である訳がない。

 俺だって、そんな怠け者の主人公は嫌だ。


 どう考えても、俺みたいなのは主人公らしくないし、仮に俺が主人公だったら物語として成立しない。


 そうだとしたら、益々まずい状況だ。

「ねぇ~キレイなお姉さん、君は見逃してあげるよ。ボクだってねぇ~、女性を傷付けるのって、気が進まないんだよねぇ」

 ねっとりした言い方だったけど、リズは見逃してくれると確かに言った。

 そうだとすると、道化師の目的はリズではなく俺なのか。

 大公家の息子である、俺がターゲットなんだ。


 営利誘拐が目的か?


 そう考えると、リズを巻き込んだのは、むしろ俺の方なんだ。

 だったら、リズだけでも逃がそう。俺なら、きっとなんとかなる。きっとここで、俺は何らかのチート能力に目覚めて、悪漢どもをバッタバッタとなぎ倒す。

 それを信じよう。

 それが無理だとしても、営利目的なら俺を殺したりしないはずだ。

 だって人質を殺したら、身代金を貰えないからだ。


 多分だけど。


 でも、それしかない。

「リズ、リズだけでも逃げて」

 リズは俺を無視する。

 無視されたことで、俺はパニックになりそうになるけど、何とかこらえる。


 リズを守れるのは、俺だけだから。


「魔族が相手ならさぁ、君のご主人さまだってぇ、きっとわかってくれると思うよぉ」

「な、なにを言っているのか、私にはまったく分かりません!」

「クビになることを心配してるのかい?なんだったらさぁ、仕事、ボクが世話してあげるよぉ。お姉さんって美人だからさぁ、今よりも待遇いいと思うよぉ」

「分かりません、分からないわ。わたしは、わたしは・・・」

「だからさ、その坊やをボクに渡しなよ。悪いようにはしないからさ」

 道化師の口調が、明らかに変わった。

 どうしてだろうか?

 イラついてもいるようだ。

「この子は、・・・・・・リオンは私の命です。あなたになんか、あなたなんかに絶対に渡しませんわ!」

「はあ~、どうして女って、こうも愚かなんだろうねえ。せっかく、見逃してあげるって言ってるのにさ」

 道化師は呆れたと、そんな感じだった。

 意外に、人間臭いと思った。

「お姉さんさぁ、このままだとそこの坊やが誰にさらわれたのか、分からないと思うよ。君のご主人さまにこのことを知らせるのも、忠誠心の表し方のひとつじゃないのかい?」

「だ、だから、ひ、ひとちがいです!だれかとまちがえています!!!」

「誤魔化すのはもういい。ボクはね、面倒くさいのキライなんだよ」

 道化師は背中から、黒い棒のようなモノを取り出した。

 細身の剣だった。

「さっさと行けよ、今の内だ」

「ち、近づかないでください!それ以上近づいたら、承知しません!」

「メイド風情が、何を承知しないって?」

 すでに間合いに入った。

 道化師は、笑っていた。

 残忍な感じのする、嫌な笑いだった。

「リズ、逃げて。お願いだから」

 もう、ダメだ。

 近すぎる。

 リズが斬られ、俺が不意を突いて道化師に斬りかかる。

 選択肢が、それしかなくなった。

 でも、それだとリズが犠牲になる。

 リズは俺を逃がすために、犠牲になるつもりだ。

 それだけは、それだけは絶対に嫌だ。

 リズが傷つくのは、自分が傷つくよりも嫌なんだ。

 リズが死ぬなんて、もっと嫌だ。

 どうして、こんなことになったんだ。


 俺のせいだ。

 俺が、リズが用意しようとした護衛を断らなければ。

 俺が、リズが用意した馬車に乗っていれば。

 俺が、リズの言ったように公式の視察にしていれば。

 

 俺が街に行こうと言わなければ、こうはならなかったんだ。


 リズは街は危険だって、俺に言っていたじゃないか。


 リズの言っていることを、大げさだと思った。


 愚かだったのは、俺の方だった。




 愚かな俺のせいで、リズが傷つくんだ。




 ゴメン。


 ゴメン。


 ゴメン。




 リズ・・・・・・・・。




 だれか、だれか、リズをたすけて・・・・・・・・・




 おねがいだから

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