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終末の魔女  作者: せいじ
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 外に出る。


 屋敷の外に出る。


 敷地の外に出る。


 すぐ目の前なのに。


 見慣れた風景なのに。


 外に出る。


 それだけで、ドキドキする。


 なんだか、冒険に出るような気分だ。


 これだけでも、お出かけは正解だった。


 しかも、俺の隣には絶世かどうかは分からないけど、かなりの美人がいる。

 

 しかも、巨乳ときた。


 さあ、世の男性諸氏よ、羨んでくれたまえ!


 どうだ、羨ましいだろう!


 妬んでくれても、一向に構わないよ。


 というのは、まあ冗談です。

 実際はというと、俺を街までよく言えばエスコート、悪く言えば連行されているような恰好なのだ。

 リズに言わせると、森は危険だかららしいけど。

 でも、そんなに深い森には見えないし、なんならただの雑木林と言ってもいいレベルだ。

 樹木の隙間から、建物らしき構造物が見えるぐらいに。


 こんな雑木林に毛の生えた場所のどこに、危険な動物がいるんだ?


 もしかして、毒蛇でも居るのか?


 まさかな。


「さあ、街に向かいましょうか、おぼっちゃま」

 リズは足早にまるで先導するように、俺の手を引っ張っていく。

「もうちょっと、ゆっくりでもいいんじゃないかな?」

 森林浴だってしたいし。

「いけません、何が出るか分かりませんわ!」

 ああ、そうですか、そうですよね、そうなるといいですねえ。

 何が出るんでしょうねえ。


 熊?

 イノシシ?

 鹿?

 鳥ぐらいなら、居そうだね。


 いかんいかん、もっと前向きに、気分を挙げて行こう。


 俺は美女とデート、俺は巨乳美女とデート、俺は金髪巨乳美女とデートなんだ!


 どうしてだろうか、すでに挫けそうな気分になりそうなのは。


 テンションが下がる。



 やっぱり、一人で来ればよかった。


 

 そうこうしている内に、森という名前の雑木林を抜けると、民家というにはちょっと重々しい建物が視界に入ってきた。

 そこには、兵士らしき人が立っていた。


「何者だ!」

「ここは通さん!」

「通行証を見せろ!」

「さては、敵国のスパイだな!」

 

 残念ながら、そのようなことは一切なく、逆に敬礼される始末だ。

「ここはお任せください!」

「はい、お願いしますね」

「はい!!!!」

 まあ、金髪巨乳美女に声を掛けられたら、普通に張り切るだろうけどさ。

 でもどう見ても、平民の二人連れに対する扱いじゃないよなあ。

 お忍びだって、連絡はいっていないのかな?

 この先も、この調子なのかな?


 幸先悪いなあ。


 街の入り口あたりはやけに殺風景で、コンクリート作りみたいな、恐らくは石やレンガで作られた建物が、まるで城壁のような恰好で建っていた。

 見ていても、気分は上がらない。

 むしろ、落ちるぐらいだ。


 う~ん、期待外れのような。

 人も歩いていないし。

「どうかなさいましたか、おぼっちゃま?」

「ああ、うん、別に」

「そうですか」

 う~ん、そもそも女性とどのような会話をすればいいんだ。

 定番の新スポットとか、海外グルメとか、芸能ネタとか?

 そもそもここは異世界だし、前世でもそんなのは苦手だった。

 美味しい立ち食いそばの店なら、なんとか教えることが出来るけど。

 新人女子に立ち食いそばを教えたら、思いっきり引かれたなあ。

 あれから、彼女はどうしているんだろうか?

 そういえば、随分とそばを食べてないなあ。

 せめて、インスタントラーメンとか無いのかなあ?



 ホームシックにかかりそうだ。



「おぼっちゃま?」

「え?」

「大丈夫でございますか?」

 リズが俺の顔を覗き込んできたけど、どうもリズに隠し事は出来ないようだ。

「大丈夫、大丈夫」

「何かございましたら、リズに遠慮なく申してくださいませ」

「うん!」

 努めて明るく振舞おう。

 だって、せっかくのお出かけなんだから。

 そうだ!

「ねえ、リズ」

「はい、おぼっちゃま」

「その、おぼっちゃまは禁句にしない?」

「ええ?どうしてでしょうか?」

 だから、すぐに暗い顔をするのは、やめてくれないかな?

 胸はズキッとするし、胃だってキュッとするからさ。

「街ではさ、僕たちはお忍びだよね?」

「はい、さようでございますわ」

「だったらさ、身分を隠さないといけないよね?」

「もちろんでございますわ!」

「なら、おぼっちゃま呼びはまずいよね」


「・・・・・・・・・・・・・・・はい」


 だから、それ、やめて!

 お願いだから、俯かないで!

「リズ」

「は、はい」

「今だけだから」

「はい!」

「だから今から、僕のことはリオンって呼んで」

「リオン・・・さまでございますか?」

「リオンだよ」

「リオン・・・・・・・・・・でございますね」

「うん」

 何だ、その間だ。

「それでリズは、どう呼ぼうかな」

 おばさんという感じではないし、年の離れた姉で行こう。

「リズは、姉さまにしよう」

「いけません!」

「え?」

「おぼっちゃまの姉君は、ティアお嬢さまだけでございますわ!」

 そうだ、そういえば俺には姉がいるらしい。

 いるらしいけど、会った記憶が無い。

「う~ん」

 じゃあ、どうしようか」

「リズではいけませんか?」

「だって、年上の女性の名前を呼ぶのって、おかしくないかな?」

 どうしてだろう、リズは指を顎に当てながら、小首を傾げていた。

 もしかして、名前呼びは普通なの?

 そういえば、海外では社長も平社員も、お互いに名前で呼び合っていると聞くから、それが普通なのか?

「確かに、そうでございますわ」

 良かった、間違っていなかったようだ。

「では、いかがいたしましょうか?」

 リズは俺の顔を覗き込みながら、疑問を訊ねてきた。

 どうするか。

 おばさんは論外、姉さんもダメなら、もう一つしかない。

「お母さんじゃ、ダメかな?」

 すると、リズは絶句した。

「え?」

 リズは両手で口を覆い、震えていた。

「リズ?」

「あの~」

「うん」

「あの~」

「なに?」

「もう一度」

「え?」

「もう一度、呼んでいただけませんか?お、お、おかあさん、と」

「お母さん?」

「もう一度、もう一度だけ呼んでいただけませんか?」

 いや、これから何度も呼ぶと思うけど。

「お母さん」

「もう一度、もう一度だけ」

「お母さん」

 リズは震えている。

 よく見ると、目から涙が溢れていた。

「リ、リズ?」

 俺は動揺した。

 何か間違えたのだろうか?

 幸い、ここは人通りが殆ど無いから、注目を集めることはないけど。

 でも、リズを傷付けてしまった。

「リズ、ごめん」

「え?」

「リズ、泣かないで。泣かないでリズ。ごめん、リズを傷付けるつもりはなかったんだ」

「あ、あの、そうではなくて、ええっと、あのでございます・・・」

 リズにしては、歯切れが悪いな。

 とにかく、俺はポケットの中に入っていたハンカチを出して、リズの涙を拭ってあげることにした。

 それしか、今は思いつかなかった。

「おぼっちゃま?」

「ごめん」

「いいえ、いいえ、リズが、リズが悪いのでございますわ」

「でも、リズが泣くと、僕は心が痛くなる」

「申し訳ございませんわ、おぼっちゃま。リズは、リズはとても嬉しかったのでございますわ」

「え?」

「おぼっちゃまが気にされる必要は、どこにもございませんわ」

「そうなんだ」

「はい♪」

 急に機嫌が良くなったようだ。

 女心は分からん。


 リズは、いつものリズに戻ったようだ。


 戻ったのだろうか?



 俺には、やはり分からない。


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