表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末の魔女  作者: せいじ
14/17

14

 すんごく、キラキラしている。

 俺はその光景に圧倒され、あんぐりと口を開けてしまった。




「さあ、こちらにお乗りくださいませ」

「ええっと、これは何?」

「はい、馬車でございますわ」

 馬車ぐらい、見れば分かるけどさ。

 でも、聞きたいのはそこではない。

「何で?」

「何でとおっしゃられても、おぼっちゃまが街に向かうためにご用意いたしましたわ」

 こんな立派な装飾が施された馬車で街に乗り付け、颯爽と降車する良家のおぼっちゃま。

 なんて素敵なシチュエーションなんだろうか。

 さぞや、目立つことだろう・・・・・・・・・・論外だ!

「リズ」

「はい、おぼっちゃま」

「歩いていくよ」

「ええ?どうしてでございましょうか?この馬車が、ご不満でしょうか?」

「不満は無いよ」

 不安なだけ。

「で、では」

「目立つでしょう?」

「はい!おぼっちゃまは大公家の跡取りでございますから、目立って当然でございますわ!」

 そんなに胸を張らなくても、リズのお胸は十分立派だと思うよ。

 でもね、お忍びだよね?

 ねえ、俺とリズは何のために、平民の格好をしているんだい?

 リズの目は、爛々と輝いていた。

 俺は残酷なまでの、事実を突きつけられたような気分になった。


 

 そう、分かって・・・・・・なかったようだ。



 やれやれ。


「あのね、僕はお忍びで街に行くんだよ」

「もちろん、承知しておりますわ」

 リズは益々胸を張ってきた。

 自信たっぷりだ。

 でも、どうしよう?

 ダメだ、頭痛がしてきた。

 わざとではないところが、厄介だと思う。

 でも、どうにかして説得しないと。

 俺は首を振りながら、思案することにした。

 本当にどうしようか?

 行くの止めるか?

 それとも、諦めてこのど派手な馬車に乗って、私は庶民で~すと自己紹介でもするか?


 ただの馬鹿だろう。


「どうかなさいましたか、おぼっちゃま?」

 リズが俺の顔を覗き込んできた。

 その無邪気な表情を見ると、俺は益々絶望的になってきた。

 どうすればいい?

 なんて返事をすればいいのか?

 すると、俺たちのお見送りに出ていたルスが、助け船を出してくれた。

 普段はよく見捨てるのに。

「殿下はお忍びだから、目立つのはよく無いんだ」

「はい」

 リズの表情が変わり、驚くほど無感情な言葉をルスに投げつけた。


 一瞬で、その場が凍り付いた。


 氷のような表情で放つ、凍り付くような言葉。


 いやだ、その冷たい返事。

 まるで別人みたいだ。

 胃がキュッとなるから、そういうのやめてほしい。

 でもなんで、この二人はそんなに温度差があるんだよ。二人は夫婦でしょう?

 実際、ルスはちょっとひるんでいる。

 いや、もしかして凍り付いているのか?


 頑張れ、旦那さん!


「だからさ、こんな馬車で街なんかに行ったら、こちらの御方は大公家令息だと喧伝するようなものじゃないか?」

「?」

 無言のリズ、固まったルス。

 ルスは、なんだか後悔しているような表情をしているけど。

 俺も後悔しそうだ。

「あら、いやだ。私としたことが」

 ああ、良かった。分かってくれて。

「では、もっと目立たない馬車をご用意いたしますわ」

 分かってなかったか!

 だから、違うだろうに!

「リズ」

「はい、おぼっちゃま」

「僕はリズとふたりで、歩いて街に行きたいんだ。ダメかな?」

「まあ、まあ、まあ、まあ、まあ、まあ、まあ、まあ!!!リズにはもったいないお言葉!でも、でも、おぼっちゃまに何かありましたら、リズは、リズは心配で心配で、倒れてしまいそうでございますわ」


 この女、手ごわいな。


 本当に、手ごわい。


 クレーマーよりも厄介だ。


 クレーマーは目的がはっきりしているから、対処方法はいたってシンプルなんだけど、この善意の塊のような人を相手にするのは、正直骨が折れる。



 やはり天然は、最強ということか。



「街はほんの目と鼻の先だから、歩いて行っても大したことがないと思うよ」

「でも、森を抜けていきますわ」

「森に何か出るの?」

「はい!」

 やけに自信たっぷりな。

 いや、リズはいつでも自信たっぷりだったな。

 一応、確認しないとね。

 ここは、異世界だから。

「ええっと、魔物でも出るの?」

「魔物とは、もしかして魔獣のことでございますか?魔獣でしたら、この辺りには存在しませんわ」

 魔獣居るんだ!

 やっぱり、ここは異世界なんだ!

 と言うか、魔獣はこの辺りには居ないのね。

 だったら、どこに居るんだろうか?

 まあ、今はいいか。

 どうせ、おいおい分かるだろう。

「魔獣が居ないのなら、安心だよね」

 俺の問いにリズは、力無く首を振る。

「魔獣は居ませんが、この森には動物が居ますわ。動物・・・・・・。危険な動物が一杯おりますわ!そうです、危険な動物が群れをなして、おぼっちゃまを襲うかもしれません!」

 危険な動物って、こんな屋敷のすぐ近くにそんな物騒なのが居るの?

 というか、群れをなして人を襲ってくるって、どんな動物だよ。


 もしかして、狼かな?


 でもなあ、遠吠えを聞いたことがないけど。

 もっとも、前世でも遠吠えを聞いたことが無いから、断言出来ないけど。

 でも、そんなやばいのが一杯居たら、馬車でも安全じゃないと思うけどなあ。


 それを確認しようと周囲を見回すと、どうも頼りになりそうな人が見つからない。

 ルスは頭を抱えているし、他の使用人もソッポを向いている。

 あ!そう言えば一人いた。

 その人は、ツツツッとリズに近寄った。

 彼女はマリーさんと呼ばれている女性で、どうもリズの側近のような人らしい。

 その人が、リズに助言してくれた。

「奥さま」

「なあに?」

 すげえ、温度差。 

 ルスが気の毒に思う。

 本当に胃が痛くなりそう。

「先日、冒険者組合に依頼して、森に出る危険な動物を駆除して頂きました」

「まあ、気が利きますこと。さすが、マリーですわ」

「お褒めに預かり、光栄でございます、奥さま」

 マリーさんは、深々と頭を下げた。

 このメガネが良く似合う、ちょっとというか、かなり取っつきにくい感じのする、どこか冷たい印象のある女性の名前を知ったのは、つい最近のことだった。

 当然の如く、この人も自己紹介がなく、リズも何?とか、どうしましたか?とか、そのようにお願いねと、名前を呼ぶことが一切無かったからだ。

 それが偶然、他の使用人がマリーさんと呼ぶのを聞いて、それで名前を覚えた。

 マリーサンという名前の可能性を考慮し、俺もマリーサンと呼んだら、マリーとお呼びくださいと言われたので、やっぱり名前はマリーなんだろう。

 問題は、マリーさんのフルネームが分からないことだ。

 そこで気になるのが、マリーさんはリズのことを奥さまと呼んでいることだ。

 皆はリズをエーオス夫人とかエーオスさまと呼ぶけど、奥さまは無かった。

 マリーさんだけがリズのことを奥さまと呼び、気が付くとリズのすぐ後ろに控えている。

 リズが席を外すと、必ずマリーさんが代わりに側に居る。

 ただ、マリーさんはいつも無言なので、正直居心地が悪い。

 

 もしかして、俺のことが嫌いなのかな?


 マリーさんはきっと、リズ個人の側近なんだと思う。

 だからマリーさんだけは、リズを奥さまと呼ぶ。

 本当はかどうか、よく分からないけど。


 まあ、おいおい分かるだろう。


 でも、この世界に冒険者が居るのか。

 冒険者組合があるってことは、冒険者は居るよね?

 名前だけで、実態が違うこともよくあることだけど。


 とは言え、魔獣も居るし、危険な動物を狩ってくれる冒険者も居る。


 それだけで、ワクワクしてきた。


 俺も将来、冒険者になりたいな。


 それで勇者に付いて、魔王を討伐する。


 そこで美人と出会い、ロマンスに発展する。


 相手は平民であって、決して王女なんかではない。


 だって、王女なんかと結婚したら、後々面倒じゃないか。


 王さまの後継者に選ばれたら、その国を統治しないといけないだろう。


 それって、クレーム対応を国レベルでやれってことだろう?


 嫌だ、そんなの。


 だいたい、俺は政治家って柄じゃないし。


 国の統治なんて、そんな面倒なことなんか俺に出来るか!


 俺は庶民だ!


 だから俺の余生は、スローライフと決まっているんだ!


 そうだ、目指せ夢のスローライフだ!


 ヨシ!


 俺の将来の夢が決まった!


 今日はいい日になりそうだ。

 

 こうして俺とリズの二人は、街まで歩いて向かうことになったのだが、リズは馬車の御者に何か話しをしているので、俺はリズの話が終わるまで待つことになった。

 するとルスが近づき、俺に耳打ちをした。


 話を終えたリズが近づくと、ルスも離れた。


 リズから逃げたという表現が、近いと思う。

 

 もしかして二人の仲って、本当に悪いの?


 外から見ても夫婦仲って、なかなか分からないからなあ。


 結婚したことのない俺には、分からない悩みでもあるんだろう。


 あんなに美人で、あんなにスタイルが良くて、世話好きで面倒見もいいのに。


 ・・・・そうか、面倒を見る対象は、俺だけか。


 だからルスには、あんなに冷たいのか。


 まあ、悪い気はしないけど。


 でもなあ、スタートからこれだと、先が思いやられるなあ。


 はあ~、何も起きないといいな。


 違うか、何か起きることを期待して、街に出るんだ。


 そう思うと、踊り出しそうだ。


 楽しいことが、きっと起きるはずだ。




 そう思うことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ