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俺は早起きした。
普段はリズに起こされるまで寝ているけど、今日は起こされる前に目覚めた。
だって、お出かけの日だからだ。
お出かけの前の日は、興奮して中々寝付けないものだ。
実際、昨夜はリズの子守歌だけでは寝付けなかった。
するとリズは、添い寝をしてきた。
隣で俺を見下ろすリズの眼差しは、まるで聖母さまのように優しかった。
聖母さまに、会ったことないけど。
リズは静かに歌いながら、胸のあたりをと~ん、と~んとゆっくりと叩き、優しい感じでリズムを取った。
俺は段々と気が遠くなり、深い谷底に落ちて行った。
「おやすみなさいませ、おぼっちゃま・・・・・・・・・」
睡魔に抗えず、リズに返事が出来なかった。
こうして俺は遠足当日にありがちな、睡眠不足に陥ることなく、すっきりと目覚めた。
リズに足を向けて寝ることは、俺には出来そうにないと思う。
いや、物理的に無理か。
そんな訳で熟睡した俺は、リズが起こしてくれる前に目が覚めた。
「あら、おはようございます、おぼっちゃま」
残念だが、リズがこの部屋に来る前に起きるということが、未だに出来なかったようだ。
いつか、リズがこの部屋に来る前に起きて見せよう。
まさかと思うけど、一晩中居ないよね?
居たらいたで、ちょっと怖いかも。
「おはよう、リズ」
俺はいつものように顔を、自分で洗い、濡れた顔を自分で拭いた。
自立の為の権利を獲得すべく、日々努力を怠らないように心がけています。
拭き残しは絶対にしないように。
いえ、そこまでの覚悟はありませんけど。
「あらあら、まだ御髪が濡れていますわ」
リズが丁寧に、俺の御髪とやらを拭いてくれた。
自立に一歩後退。
「リズ」
「はい、なんでしょうか?」
「その恰好は?」
「ああ、これは街のご婦人方のお洋服でございますわ」
いつもよりも胸元が開いた薄茶色のワンピースに、腰には薄緑色のエプロンをキュッと締め、髪形はいつもと違って後ろでシンプルに結んだだけの、いわゆるポニーテールという髪形だった。
全体として地味だけど、リズのような美人になると、ちょっと違うような気もする。
不思議なのがエプロンの結び目で、何故か横で結んでいる。
これがこの世界の、流行的ファッションなのだろうか?
それにしても、胸元を強調し過ぎているような。
胸元が開いている上に、胸の下、いわゆるアンダーバストとお腹の中間のあたりでベルトのようなモノで縛っている。
帯じゃないよな?
何で、ベルトを腰じゃなく胸の下あたりに着けるのか分からないけど、その効果でそれでなくても目立つリズの胸が、やたらと強調されてしまう。
その一方で、スカート部分はやたらと長い。
いや、普段のリズの格好からしたら、これはむしろミニスカートと言ってもいいぐらいだ。
いつものリズのスカートは、くるぶしまでの長さだから、ひざ下が見えるだけで少し刺激的に見える。
でも、履いている靴はブーツで、その効果で足が完全に隠れている。
なんで、足を隠すんだろうか?
まあ何となくだけど、ミニスカート姿のリズは、ちょっと想像出来ない。
これが普通のファッションなのかどうかは、街に出れば分かるだろう。
「さあ、お着替えいたしましょう」
俺の格好も、随分と地味な色合いというより、リズとお揃いの色をしていた。
しかし、意外に着心地がいい。
生地がいいみたいだ。
この世界の庶民って、こんなにいい服を着ているのだろうか?
もしかして、服の素材はシルクか?
「この服、どうしたの?」
「はい、使用人の息子さんのお洋服をお借りいたしましたわ」
ふ~ん、こんないい感じの服を子供に着せることが出来るなんて、結構我が屋敷の給金って意外にいいんだろうな。
うらやましい。
「それでお借りしたお洋服を元に、新しく仕立てましたわ」
はい?
「なんで?そのままじゃダメなの?」
「ダメでございますわ」
「どうして?」
「まず、生地がいけません。このような安っぽい生地なんて、おぼっちゃまには相応しくございませんわ。それに縫製がしっかりしていません。これでは、おぼっちゃまに申し訳ありませんわ!」
これは、どこをどう突っ込めばいいのかな?
服なんて、いちいち気にしないけどさ。
ということは、リズのその服も仕立てたのかな?
「リズのその服は?」
「はい、使用人からお借りいたしましたわ」
「ええっと、それを元に新しく仕立てたの?」
リズは顎に指を当て、小首を傾けていた。
「どうしてでございましょう?」
「え?だって、生地も縫製もよくないんじゃないの?」
「これぐらい、リズは我慢いたしますわ」
ああ、そう。我慢するんだ。
俺も我慢出来ると思うけどさ。
そうか。
リズが我慢ならんのか。
俺に安っぽい服を着せることが。
でもさ、俺はジャージが好きなんだけどなあ。
俺がジャージを着たら、リズはどんな反応するんだろうか?
やめよう、想像するだけで恐ろしい。
は~あ。
ジャージ着たいなあ。
そんで一日、ごろごろする。
発泡酒やら缶チューハイやらの安酒をぐびぐび飲み、日がな一日テレビや動画を見る。
メシはピザでも取ろうか。
ブラック企業で働く者としては、それがサイコーな一日の過ごし方だ。
そんな日は、もう来ないんだろうなあ。
今の俺の、ささやかな夢でした。




