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終末の魔女  作者: せいじ
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 大賢者げいかさまが屋敷を去ったので、午後の座学は無くなると思った。

 まあでも、何もしないのも何なので、図書室で自習でもするかなと思った。

 でもすぐに、三人も教師がやってきた。


 俺一人の為に、もったいないと思う。


 まあ、市井の学校に通うと、いじめに遭いそうだしね。


 昔から転校生や育ちのいいお坊ちゃんは、いじめの標的になりやすいし。


 いや、いじめに遭った後の方が、むしろ恐ろしい。


 俺がいじめに遭ったら、リズが子供の喧嘩と言って大人しくしてくれるかどうか、分からないからだ。


 その時のリズを、正直あまり想像したくなかった。


 少し想像しただけで、めまいがするぐらいにだ。


 何をするか分からんのが、リズという女性だと思う。


 だから俺みたいな立場の子供にとって、家庭教師は合理的であり、平和的だと思う。


 うかつに学校なんかに行って、俺をいじめようとする子供や、その親だってそう思うだろう。


 学校に来ないでと。



 うん、これで世界は平和に違いない。



 そんなわけで、俺の本格的な教育は、これからのようだ。


 今までは、序の口だったわけだ。


 それに伴い、俺の一日のスケジュールは大幅に変更になった。


 午前中の鍛錬の時間は削られ、音楽の授業が始まった。


 当初は色々な楽器を触らせてくれたけど、やがてバイオリンが宛がわれた。


 俺に音楽の素養があるのだろうかと疑問に思ったけど、とりあえず毎日バイオリンを演奏することになった。

 もっとも、俺としてはピアノを弾きたかったけど、どうもピアノの才能が無かったようだ。

 どうして、ピアノが弾きたかったかって?

 だって、ピアノが弾けたら、カッコいいじゃないか。

 カッコよくピアノを弾き、流し目を送りながら女性を口説いたら、一発で落ちるじゃないか。

 

 はい、ただそれだけです。


 でも、猫ふんじゃったぐらいは、演奏できるようになりたかったなあ。


 そして昼食に変更が無い訳もなく、マナー担当の教師が俺の一挙手一投足監視してきた。

「殿下」

「ああ、はい」

「お口の拭き方がいけません。もっと、優雅にお出来になりませんか?」

「ああ、はい」

 普段はリズに拭いてもらってますとは、もちろん言えなかった。

 それに口元がキレイになればいいと思うし、拭き方なんかどうでもいいだろうと思うけど、リズも黙って見ているので、俺も黙って従うことにした。

 いずれ、この社交マナーを使う日が来るだろうし。

 幸いなのは、お昼寝のマナーは無いようだった。

 あったらあったで、怖いと思う。

 

 午後は座学で、主に語学が中心だった。

 何故なら、文学や詩を習熟しないといけないらしく、これが出来ないとサロンに出入り出来ないからだ。

 だから基礎の基礎、語学をみっちりやる。



 でも、サロンって、なんなんだ?



 そして午後の座学の時間が終わると、3時のお茶の時間になる。

 もちろん、ここで一息ではない。

 お茶会のマナーを叩き込まれる。

 うっかり、目の前に積まれたお菓子を無遠慮に摘まもうモノなら、いけません殿下と手を鞭で叩かれる。

 いつの間に、鞭なんか持ってたんだ?

 しかし、お茶会に鞭を持ち込む教師って、どうよ?

 もっとも鞭は派手な音の割に痛くないけど、音に反応するようにリズの眉と肩がピクッと動くので、失敗しないようにしないといけない。


 鞭を振るった時の教師を見るリズの目が、ちょっと怖かったからだ。


 ちなみにリズが後でものすごく丁寧に、かつ念入りに薬を付けてくれる。

 大げさだと言っても、涙目になったリズに痕になったらどういたしましょうかと泣かれるので、俺は何も言えなかった。

 痕にならないと思うよとは、さすがに言えなかった。


 俺は最近になって、ようやく気が付いた。



 リズの好きにさせるのが、一番効率がいいようだということを。



 その後は、王宮での作法を学んだりするけど、意外に乗馬もこの時間にやる。

 乗馬で行進し、王に向かって礼をする。

 そんな練習をやらされた。

 つまり、王主催の閲兵式に参加する際のマナーも覚えないといけないようだ。

 まあ俺はきっと、そのどこの誰だか分からない王さまの前で馬に乗って礼をする日は、恐らく来ないだろうけどさ。

 その日が来たら来たで、親戚に不幸がと言って逃げよう。

 でも、王さまの顔ぐらい、見ておきたかったな。

 王女さまとかも、居るのかな?


 この期に及んで、俺はまだ王の名前も国名も知らないし。


 まあ、興味がないだけなんだけど。


 だって俺は、この辺境の地でスローライフを満喫するんだから。


 それが俺の、当面の目標であり、夢なんだ。


 でも、無理っぽいかも。


 そして夕食の時間も監視付き、もといマナーの練習の時間だ。

 食べるにも順番があるし、優雅に食べるではなく、食さないといけないらしい。


 そもそも食べると食すの違いが分からんし、何なら食うとも違うのかと聞きたいけど、聞かないでおこう。

 叱られるのが怖い訳ではない。



 俺が叱られた時の、教師を見るリズの目が怖いから。



 ちなみに人を招いた場合、自分が招待された場合もやり方が違うらしい。

 しかも、目上の人と会食する場合、同列の人、目下の人と食事を共にする際のマナーも教わったけど、いちいち覚えてられるかと思う。

 追い打ちをかけるように教会の聖職者に対するマナーも教わったけど、もう訳が分からん。

 リズにそのことを話すと、大丈夫でございますわと返された。

 それもそのはず、毎日毎日練習をするからだ。


 つまり、身体に叩き込めということだろう。


 そうなると社交界って、意外に体育会系のノリのようだ。


 午後の大人し目の乗馬の授業が始まった翌日、午前の訓練では軍用馬での行進の練習をすることになった。

 いずれ騎馬戦が出来るように、今は初歩の訓練をする。

 もっとも、俺の乗った馬は比較的小さくて大人しい馬のようで、落馬はしなかったものの、草を食んで動いてくれなかった。

「お~い、お~い」

 いくら手綱を引いても、足で腹を蹴っても、まったく動かなかった。

 どうも俺は、馬に舐められてしまったようだ。

 ルスはと言うと、大型の黒い馬に乗っていて、騎士らしくやはりカッコよかった。

 俺もああなりたいと思ったけど、それは一体いつになることやらだ。



 これが俺の、毎日だ。



 ブラック企業色に染まった俺でも、さすがに疲れる。


 とは言え、翌日にはすっかり疲れも取れているのは、この身体が若いからだろう。

 回復力のある若さを羨ましいと思うけど、俺が俺自身を羨んでどうするんだと思うけど、どこか他人のような気がしてならない。

 だからなのか、なるべく今のうちに鍛えておこうと思う。

 この身体に慣れたら、かえってだらだらしそうだからだ。



 はあ~、だらだらしたいなあ。



 まあ鍛えておけば、長時間のデスクワークにも耐えられるし、体幹も強くなるだろう。

 この世界に俺向きのデスクワークの仕事が、あればの話だけど。


 そもそも俺って、何だろう?



 時々、自分が自分ではないような気がする、今日この頃でした。



「どうかなさいましたか?」

 それでも、いつも傍らにはリズが居る。

 リズの視線を最初はうざいと思うこともあったけど、最近では近くに居ないとちょっと不安になるようになった。

 リズが席を外すことが、意外にも結構あるからだ。

 周囲を見る余裕が出来たせいか、リズが居なくなる瞬間があることを発見した。

 もっとも、名前も知らないメイドさんが、リズの代わりをしてくれているけど。

 そのメイドさんはリズと同様にかなりの美人だけど、温かい感じがするリズと違って冷たい感じがする女性なので、リズよりも苦手だ。

 最初は掛けている眼鏡のせいかと思ったけど、口調の端々に若干の棘があるようだ。

 視線が刺さる感覚は、ちょっと緊張する。

 せっかくなんだから、一人にしてほしいのになあ。


 リズが居て、リズが居ないとリズの代理が俺の側に居る。


 俺って、何だろう?

 リズが居て、俺なんだと思う。

 じゃあ、リズが居ない俺って、俺じゃないのか?

 まあ、考えても仕方が無いか。


 それだけ、リズが俺の側に居ることが当たり前になりつつあるということだけど、これってよく無いんじゃないかなあ。


 依存している気がしてならない。


 そんなリズが俺の側に居ないことが、ちょっと意外だったので本人に少しだけ聞いてみた。

 リズによると、領地に関するお仕事が忙しくなってきたそうだ。

 お側に居られなくて、申し訳ございませんと謝られたけど、それは仕方がないと思う。

 だってリズは俺の傅役でもある前に、この家の家令なんだから、領内のことについて色々と仕事をしないといけないのは、むしろ当たり前だろう。

 なんだかんだ言って、俺が貴族の令息として尊大に振舞えるのも、三人の家庭教師を偉そうに雇えるのも、リズが領地を経営してくれているからだろうから。


 だから俺のことは俺自身で何とかするし、出来ることはしないといけない。

 リズの負担にならないように、心がけたいと思う。

 でもリズは、正直働きすぎだと思う。

 

 当家にも働き方改革が必要なのではと思い、リズも休んだらどうかとうっかり聞いてしまった。


 このままでは、リズの身体が壊れるよと。


「おぼっちゃまああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 俺がその後、どうなったかは想像に任せよう。

 ただ言えることは、リズは元気いっぱいだということだ。

 むしろ、リズのリソースを消費してしまうので、言葉には気を付けないといけない。

 次からは、言葉は慎重に選ぼうと思う。


 そう思いつつ、今日もまたやってしまう俺だった。


 そんな失敗をした時の、美人のメイドさんの眼鏡越しに刺さる冷たい視線が、俺にはちょっと痛かった。


 何も言わなくても、分かってますよねと言っているようだ。


 目は口程に物を言うとは、よく言ったものだと思う。


 美人のメイドさんには悪いけど、俺には学習能力が無いようだけどね。

 



 だからこれ以上、俺に何かを期待しないでほしい。

 

 

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