↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海賊公女は七つの海を越えて  作者: たなかし
第一章 旅立ちのレコンキスタ
PR
20/41

第十九話 いざ、ナントへ

「では二隻で行くのですか?」


 アブドーラはエンリケに聞く。


「ん? いいや――ところでアブドーラ、この港の船は乗り捨てても構わないか?」

「そりゃもちろん。なんせ、みなさんに使ってもらうためにある船ですから」

「ね、ねぇ。でもグラナダに乗り込むって……敵の軍を、イスパニア人を相手にするってことよね?」


 国がウマイヤ朝だと言っても、そこには私たちで言うイスパニア人も交じっているのだ。やはりそれだけはどうしても気が引ける。


「イスパニア人? マリアさん、相手はバルバリア海賊とサラセン人、バスク人です」


 私の質問にアブドーラが答える。


「やはり軍隊にバルバリア海賊が混じったり、フランクに侵攻となれば元々のウマイヤ軍だった者の中には、不審に思う兵も多いでしょう」


 それは確かにそうだわ。


「だからオルチとマルシルは、編入したウマイヤ正規軍を地中海の港に配置したのです。外からの侵入を防ぐために。だからグラナダの守備や、フランクに進軍する部隊にウマイヤ軍はいないですよ。そこは我がフンドゥク商会が保証しますよ」

「あ、あら、そうなの?」


 ちょっと安心。同国人同士の、最悪の事態はなさそうね。


「よおし。じゃあ、その船一隻で行くぞ」

「なるほど、単騎で突入ですか。面白そうですね」


 いや、こっちはこっちで最悪だわ。エンリケの無謀な決定に、長髪は喜んでいるようにも見える。こいつら頭のネジ外れてるんじゃないかしら……。


「ちょっと、大丈夫ですの? いくらなんでも無謀では?」


 ここにいるとイサベルがすごくまともに見えるわ。


「心配無用です。戦闘になれば、我ら二人で五千の敵を相手致しましょう」


 パラディンたちが声を張り上げて言う。この二人、少しはまともだと思っていたのに。


「んじゃ、俺は一万を相手にしてやる」


 なんであなたまで競り合いだすのよ、エンリケ。


「もう、分かりましたから。それで、あなたの船はどうするのです?」


 イサベルがこの不毛な争いに終止符を打つ。


「そうだな。ナントだっけ? 目的の港は」

「そう、ビスケー湾にあるナントですわ」

「そこから陸路でグラナダまではどのくらいかかる?」

「そうですわね、ざっと二週間ほどかしら?」

「失礼します。トゥールには私の馬を預けてある厩舎があります。そこで人数分の馬を調達できれば、あとは私の笛を使って――」

「お、何々? なんか面白そうな笛だな」


 割って入る長髪のパラディンの言葉に、エンリケが過剰に反応する。


「ローランの笛は人魚の魔法が秘められています。それを馬に使うなら、五日もあればどうにかなるでしょう」

「人魚の魔法? なんだかそそる話じゃねぇか。ところで、ナントからそのトゥールにかけて、大きな川は流れていたりしないか?」

「川ですか? ロワール川でしたら、ちょうどそこを流れていますが」


 セミロングのパラディンが言う。


「よし、なら一週間だ。アブドーラ、一週間後の日没と同時に、マリアを連れて俺の船をセビリアに向けてくれ」

「わ、分かりました。くれぐれもお気をつけて」

「よし、じゃあみんな船に乗れ。出航だ」


 なんて出鱈目なやつなのかしら。いくらなんでも一週間でナントを経由してグラナダなんて、どう考えても無理よ。そんな中、アブドーラを封鎖中のセビリアに向かわせるなんて、自殺しろって言っているようなものよ。

 そして、私はここに留守番? ふざけるんじゃないわよ! イサベルもそっちに乗船するって言うのに……私はこれでもアルバ公女よ⁉


「謹んでお断りします。あなたたち、イベリア半島の海賊たちを討伐して、イスパニアを復活させるつもりなんでしょ⁉ 私も一緒にナントに行くわ!」

「おいおい、お前が居たって足手まといに――」

「あなた、ちゃんとナントに向かって船を進められるの⁉」

「……」

「ほら見なさい。頭《こうべ》を垂れて私に乞うがいいわ」

「ふふ、元気出たみたいね。マリア」

「なんだかマリア嬢、いやに威勢がいいですね」

「嬢じゃありません。私はイスパニアのアルバ――」


 ここまで言ったところで、自分の身なりに目が行く。


「――アルバイトの使用人、マリアです……」


 だめ……こんなみじめな姿で、とても名乗れないわ……。


「よし、じゃあ使用人のマリア君。舵を握りたまえ」


 エンリケめ、調子に乗りやがって……。


「エンリケ様、ところでこちらで寝ている娘さんはどうします?」


 アブドーラは床でいびきをかくエミーを見てエンリケに聞く。って、まさかエミーが見えているの?


「俺の船に運んで、一週間後一緒にセビリアに連れて来てくれ」

「エンリケ様、あれは人間ではないですね?」

「確かに、その娘も何か特別な?」

「いや、ありゃただの幽霊だ」


 パラディンたちにもエミーの姿が見えているようだ。そしてエンリケが正体を明かしたにも拘らず、なんだそうかと、当然のような反応。


「アブドーラ、俺の船の中には他にも幽霊やら骸骨がいるけど、まぁ何かの役にたつだろう。使ってやってくれ」

「いやいや、まるで幽霊船ですな。かしこまりました、ご安心を」


 驚くどころか、至って普通の返し。なにこれ、みんなどうかしてるんじゃないの? 霊媒師の集まりか何かですかここは……。


「ね、ねぇ、マリア。ここに、何かいるの……?」


 怯えながら小声で聞いてくるイサベル。おめでとう、あなたは常識人よ。


「イサベル、大丈夫よ。安心して。あなたはちゃんと人間。胸を張っていいの」

「な、なんですの急に。何当たり前のことを……」


 その喜びから、私はイサベルの頭を抱え込み、その肩をポンポンと叩きながら言う。


 正直、今起きている状況に理解が追いつかない。イサベルの言う通りなら、私たちは過去に戻って来てしまったのだろうか?

 だけど、例えどんな状況だろうと、進まなければ道は拓けない。イスパニアの地に行けば、お父様やリシャールを探す手がかりが見つかるかもしれない。私はそれに望みを託すことにした。






「ほう、こりゃいいね」

「えぇ。どう言う訳か、この船には帆が張られていなかったので、会議の最中に替えの帆を張っておきました。もちろん、エンリケ様の船と同じ紋章も書いておきましたよ」


 そこには真新しいドクロ紋章付きの帆が張ってある。これじゃまた海賊船になっちゃうじゃない! ってか、この船の帆は無くなったんじゃなくて、エンリケの船に張ってあるだけなの。そしてその紋章もネロの……あぁ、なんてややこしい。


「よし、全員乗ったか? 大海原へ、いざ行かん!」


 みんな船に乗り込むと、エンリケは楽しそうに声を上げ、例の力によって船はどんどん海原を進んでいく。


「なるほど、これは速い。これが噂に聞く、魔女の力……」

「これなら確かに、ナントまであっという間ですね」

「ちょっとマリア、しっかり舵を握りなさいよ。私が吹っ飛ばされたら、ただじゃおかないわよ」


 船首に立って水平線を見つめながら感心するパラディンたち。必死にマストにしがみついて私に悪態をつくイサベル。

 そんなことよりも、私はたったのこの人数で乗り込むことのほうが遙かに不安よ……。

 だけど何が何でも、イスパニアを取り戻すわ。公女として!

お読み頂きありがとうございました。


未熟な文章ですが皆様の心に残るような作品を作るべく頑張ります。

少しでもこの作品をいいと感じて頂けましたら、大変お手数ですが下記のブックマーク登録と、☆☆☆☆☆欄から率直な評価を頂けると幸いです。


ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。