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二話、出発

早朝、鈴蘭(リンラン)は目覚めると、井戸から汲んだ水で顔を洗った。


「冷たっ!」

春先の水の冷たさに、思わず声を上げてしまう。しかし、今日は我慢しないといけない。と言うのも、今日は女官試験当日。身綺麗にして置いた方が良いはずだ。


手持ちの中で一番良い服を身に付ける。

母が髪を()いてくれると言ったので、その言葉に甘えることにした。おかげで、跳ねていた栗毛も良くなった。

父はというと、家の隅で先程から何かに集中している。


荷造りは既に終わらせていたので、朝餉(あさげ)を食べることにした。


母と、集中していた何かを終わらせた父と、輪になって座った。木の床に敷いたゴザの上で食べる粥。


普段と変わりない光景だ。

だが、これも懐かしく思う時が来るのだろう。

(休みの時は、家族に会いに来よう)


この十五年間、今世の家族が好きになっていた。生まれ変わった頃は、前世が恋しかったけれど、、


しんみりする鈴蘭に、水を差したのは父だった。

「試験に落ちるかもしれんだろう。感傷に浸らない方が良いんじゃないか?」


「うっ、ゲホッゲホ」

うっかり、粥を吹き出しそうになってしまった。咽せながら父を睨んだが、素知らぬ顔をされる。


そうして一悶着あった朝餉の時間だったが、見送りの時が来た。


「父さんが作ったんだ」

父が後ろ手に何か持っていると思ったら、(かんざし)だった。

木で出来た、白と薄緑の簪。

先程集中していたのは、これを仕上げていたからか。


「スズランの花を、思い浮かべた」

「鈴蘭には、見た者を笑顔にするあの花がピッタリだと思ってな」


「ありがとう!嬉しいな、、」

本当に嬉しかった。家族も鈴蘭のことが好きでいてくれると分かったから。

朝餉の時のことは、水に流すことにした。


「気を付けるんだぞ、鈴蘭」

「いってらっしゃい、鈴蘭!」


二人に手を振ると、鈴蘭は荷物を片手に駆け出した。

(宮城は南東だって聞いたから、こっちか)


ふと、空を見上げてみる。すると、よく澄んだ空を飛ぶツバメが見えた。南東に向かっているので、東の島々に渡っているのだろう。


「何か良いことありそう!」

__________

後宮は宮城の中にある。そのため、女官試験も宮城で行われると聞いた。


宮城の前に着いた鈴蘭は、二度驚かされる。

まず、宮城の外壁に。宮城をぐるりと囲む外壁は、鈴蘭の七倍はあろうかという高さだった。高さだけではない。朱色や黄色に塗られた外壁は、皇帝陛下が住まわれている宮城のものだけあって立派だった。

次いで、試験の参加者の数に。周りには大勢の女性がいた。鈴蘭と年が近い娘もいれば、鈴蘭の母より少し若いくらいの人まで。


知らされている試験の開始時間が近づいて来た頃、やって来た案内人の男に参加者達はついて行った。

外壁の端の方の入り口から入り、案内されたのは広い部屋だった。

「それでは、こちらで待機してください」


そう言うと去って行った。残された参加者達は、おしゃべりを始める。その時、、

「あなたみたいなのが、本気で女官になれると思ってるの!?」

怒鳴り声が聞こえた。


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