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新連載のお知らせ

著 K A da Lontano=Portlipo

 広域標準暦1889年、6月12日(ルーナの日)。天候は晴れ。私の故郷ではこの時期「梅雨」といい、1か月ほど雨が続く時期……要するに、一種の雨期があるのだが、この国にはないので、かつては少し戸惑ったものだ。そんなことを言ったら、その他文化などもそうなのだけれども。


 さて、このようなタイトル、このような書き出しで、いったいこいつは何を言っているのやら、とお思いかもしれない。あるいは、おや、また「跨ぎ人」がおいでなすったか、と思われる方もいるかもしれない。お察しの通り、というか題に書いた通り、私は異世界よりの跨ぎ人である。異世界人、としたのはその方がインパクトがあると思ったからなのだが、もし「正しい言葉を使ってほしい」などの要望があった場合、変更することもやぶさかではないので、アルコバレーノ新聞社編集部までご一報願いたい。

 先日、読者投稿欄に掲載させていただいたエッセイが思いのほか好評とのことで、連載を書く気はないかと連絡をいただいたときは本当に驚いた。なんでも、観点が独特で読みごたえがあるとか、土着の生活というものが生き生きと描き出されているとか、身に余るような誉め言葉の数々を書ききれないほど頂戴してしまい、面映ゆいものがあった。どうにも自信がなく、あれは本当に思い付きで書いて投稿したものなのですが、と言いはしたものの、是非にと熱い要望を受け、恐々もう一度筆を執った次第である。


 では何故「見聞録」なのか、というところだが、実はエッセイが掲載される少し前、とある事情で恐ろしいほどの大金が舞い込んできた。「事情」については、どうか詮索なさらぬよう。まあ、跨ぎ人関連のあれこれということで納得していただきたい。貯蓄するにしても膨大な額に、私のみならず養父母も恐れおののいてしまい、どうしたものかと久方ぶりの家族会議になったのはいい思い出である。結果、半分は私の財産、3分の1は私が住むポルトリポ並びに漁師組合に寄付、残りで家や家財の修理・買い替えという運びとなった。正直に言うと半分手元に置いておくのさえ、悲しいほど庶民な私の感性では恐ろしかったのだが、養父母はおろか町長からすら「あなた宛なのだから、あなたが持っているべきものだ」と諭されてしまった。

 それでも、大金を手にすると、欲が出てくるのが人類というものである。使い道を考えあぐねた私は、ふと幼き日の夢を思い出した。世界一周旅行である。何を馬鹿なことを、と思われるかもしれないが、かつての私は本気で全世界をこの目で見たいと考えていたのだ。そして、その夢は、今の私の夢ともなった。第2の故郷となったこの世界を、己の目で見て回って、自分が生きていた証を残してみたい。その手段として、世界一周旅行、そして紀行文は、まさしくうってつけであった。両親からの同意も得られ、準備を整え、あとは出発するだけ、というところで、編集部から連絡をいただいたのである。これこれこういうわけですので、エッセイではなく紀行文でしたら、というこちらからの申し出を快諾してくださった担当のヴェッツィオ氏に、この場で改めて、心より感謝申し上げます。

 そういうことなので、これから紀行文を書かせていただくこととなった。自分が会得している言語は、トゥイクジズ語と越境補助語とその他いくつかといった具合で、「その他いくつか」に関してはほとんど筆談くらいしかできない有様なので、基本的に行先は越連加盟国となってしまうが、ご了承いただきたい。本当なら、少なくとも私が生きているうちは公表する気がさほどなかったので、少々緊張している。学の足りない田舎者の書くものなので、ああこの馬鹿また書いてるよ、程度の軽い気持ちで読んでいただけたら幸いである。

世界観説明

いろいろな種族や魔法が存在する、よくあるファンタジー世界。後述する理由などから、一部の分野ではこっちの世界を凌駕していることもある。長らく大規模な戦争は起こっていないため、良く言えば穏やか、悪く言えば平和ボケしている国も多い。小規模な小競り合いや内乱、冷戦状態の国は多少ある。

また、数多くの種族が存在するため、「人類」の定義は非常に広く、ざっくり言うと「主に人型をしており、言語を解し、他種とある程度の相互理解が可能である種」を指す。他種との婚姻に関しては、国や地域によって程度に差はあるものの、かなり浸透してきている。実のところ、混血が進んだことにより純血の方が珍しく、純血主義者は世間一般では変わり者扱いされている。種差別者は国にもよるがそれなりにいる。

異種交配が生物的に行えるかどうかは種によって異なる。簡単に分けると、

・同種と同様に、繁殖力を持つ子(サバンナキャットのような)をなすことが可能

・繁殖力を持たない、または弱い子(ライガーのような)が生まれる

・交配不可

以上の3つのパターンがある。2番目のパターンについては、性交時に魔力同士を触れ合わせることで子供を両親のどちらかに寄せることで回避できる。ただし、これについては倫理的にどうなのか、という議論が絶えない。


用語説明

広域標準暦

越連の前身となった組織の頃に考案された暦。こっちの世界でいうところの西暦。元々は前身組織の中心となっていた国(現在は革命からの立て直しに失敗して消滅)で使用されていたものを改良したもの。自国の暦と併用している国も多い。元々は考案した国の当時の王からとった名前だったが、国が消滅したのち現在の呼称に改められた。


跨ぎ人

いわゆる、異世界転移や異世界転生をしてきた人間のこと。渡り人とも。様々な国や地域からやってきている。発生原因は謎だが、その全員に「死んだ、ないし死にかけたこと」「自然死していないこと」「出身地での扱いが未成年だったこと」の3つが共通している。

かつては「騙り」も多かったが、これは跨ぎ人の知識が有用であることが多く、様々な場所で重用されたため。この変則的な異文化交流が多くの発展をもたらしたが、広域標準暦992年、偏った思想に取り憑かれたとある跨ぎ人がきっかけとなり大戦争が発生。以後、跨ぎ人が現れた場合は「異界字本」によって「どの地域からの跨ぎ人か」を特定したのち、現れた国・地域の政府によってこの世界についての教育を行い、跨ぎ人登録を行うことが義務付けられた。跨ぎ人からもたらされた知識は越連加盟国に共有され、戦争の火種になりかねない内容に関しては審議のち封印するか利用するかが決定される。

教育が終われば、基本的には出現場所で生活することが許可されている。ただし、出現場所で受入態勢が整っていない場合、政府が用意した施設での生活となる。かつての失敗を踏まえ、政治的な職に就くことを許可していない国がほとんどである。また、市井で生活する跨ぎ人には悪用や逆恨みでの犯行などから身を守るための護衛が派遣されるが、これは監視も兼ねている。護衛に何を採用するかは国によって異なるが、多くはオートマタである。

なお、教育を円滑に進めるために、大概の政府には翻訳魔法か異世界語を習得している人物が在籍している。跨ぎ人の報告地域には報酬が出ることから、騙りの防止でもある。


異界字本

越連加盟国に配布されている、「異世界について」の跨ぎ人向けガイド・教則本。各地の跨ぎ人並びにその子孫たちの協力で完成した。原本は越連本部で管理されており、配布されているのはそのコピー。加盟国は全自治体の代表者(市区町村長や族長など)に、1冊ずつ配布することが義務付けられている。これは、国・越連が早急に跨ぎ人を発見して総数を把握することで、先の大戦のような事態を防ぐためである。

冒頭には様々な言語で「この文字が読めるなら指をさせ」といった内容が書き連ねられている。字が読めない・目が見えない跨ぎ人のために、文をなぞると「この言葉がわかるなら挙手しろ」という音声が流れる仕様となっている。

必要に応じて跨ぎ人が加筆することができるが、自分が書いた内容以外は修正できない。連動魔法が組み込まれており、変更内容はすべてに共有される。これら仕様と複数の言語で記述されている都合上、跨ぎ人の人数の割にページ数がえらいことになっており、越連では言語ごとに分けて別の本に作り直す案が浮上している。


アルコバレーノ社

トゥイクジズ共和国で2番目に人気の新聞社。情報の正確さよりも娯楽性に重きを置いており、情報収集よりも一種の読み物として楽しんでいる読者の方が多い。そのため、定期購読するより、喫茶店などで読むのに適している、と評されたりもする。記事の内容は話半分に読むのが吉。一方で読者投稿欄や連載、コラムなどは質が良く、アルコバレーノ新聞上がりの小説家や評論家などもかなりいる。


越連

越境連盟。こっちでいうところの国連。加盟国ならば広域標準暦が採用され、越境補助語はある程度通用すると考えていい。前身となる組織はいくつもあったが、今の形になったのは大戦後。1種のみに偏った運営にならないようにするため、出来るだけその国ないし地域に住む全種族から1人ずつ代表者を選ぶことが望ましいとされている。


越境補助語

人工言語。元は貿易や外交など政治的な理由で考案された言語だったが、現在は観光者などにも利用されている。多少なら語順を入れ替えても意味が通じ、単語の意味が分からない場合でも、全体の音程で大まかなニュアンス程度は理解できる構造になっている(例えば、「私はあのとてもきれいな金の刺繍が入ったスカートが欲しい」という内容を、音程だけでとると「私、あの素敵な飾りの服が欲しい」というような感じになる)。


トゥイクジズ共和国

半大統領制を採用している越連加盟国。現大統領並びに首相は20代目。

多種融和を掲げ、当時荒れていた国内をまとめ上げた8代目首相の理念が現在も色濃く残っており、難民や跨ぎ人の受入態勢が世界トップクラスに整っている。

最も多いのはドワーフ族とヒト族。半島であることから多様な水生種も存在しており、島々の多くはセイレーンの自治区となっている。

現首相は生真面目で誠実な人柄から支持率はいいが、書類の上だけで物事を判断しがちなところがある。

公用語はトゥイクジズ語と越境補助語。


ポルトリポ

トゥイクジズの端の方、海と山に挟まれるようにして存在する港町。主要産業は漁業と手工業で、特にセイレーンや山間の村との交易で得たワイルドシルクを使ったレース編みや機織りは近年人気が急上昇し、遠方から買い付けにやってくる客が後を絶たない。

道が整備され、他地域との交流が盛んになり、移住者の増加や急速な発展とそれに伴う町の整備が原因で財政が傾きかけていた。前述した手工業の発展など好転したこともあったのだが、なまじ手工業が軌道に乗ったせいで国の助成が必要ないと判断された模様。

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