The Japanese word "NEKO" means CAT.
よろしくお願いします!
俺の名前は『ね゚ぴゃ村 むぴょ次郎』。可愛いものが大好きな、どこにでもいるごく普通の高校生だ。
ある朝、俺はあたたかな日差しを毛布越しに感じながら目を覚ました。
今日は待ちに待った日曜日。天気の良い週末はそう、ツィツターの猫アカに大量イイね!&リツィツートだ!!!!!
……と思っていた。しかし! すっぽりと被った毛布から頭を出した時、俺はパニックに陥った。
「ホワアアアァァァどこだよココ! 俺の部屋じゃねえ!」
驚いてつい奇声を発してしまう。それもそのはず、目の前にある知らない天井には、数えきれないほどの大量のお札が何層にも重なって貼られまくっていたのである!!! 怖すぎる!!!!!
まだ天井しか見ていないというのに、この部屋からは実家のような安心感とはまるで真逆の雰囲気がビシバシ伝わってくる。何か変な臭いもするしね。
「あー、何も見なかったことにしよう。オヤスミ」
この現状に向き合っても何も意味はなさそうなので、仕方なく再び毛布に潜る。するとベッドの左側から何者かの声が聞こえてきた。
「寝るな寝るな! オイ、調子はどうだ? おーい!!!」
声の主は若い男のようだ。やたらデカい声は、俺を二度寝させまいという強い意思を感じる。
俺はしぶしぶ毛布から頭だけをひょっこり出して声の方を向いた。するとそこにはなんと、まるでピエロのような恰好をしたピエロが、足を組みながら空気椅子をしていたのだ!
「うるさいなぁ……なんだただのピエロか」
「リアクション薄っす! こっちは昨日から足組み空気椅子でお前が起きるの待ってたんだよ! ……まぁ見たカンジ元気そうでよかったぜ。お前の寝顔、可愛かったよ♪」
ピエロはなぜかいきなり怒り出し、白いメイクの上からでもわかるほどに顔を真っ赤にしていたのだが、すぐに気持ち悪いぐらいの笑顔になって高速でウィンクをし始めた。情緒不安定のようだ。
「目覚めの一杯、飲み物でも飲むか? ココアにハーブティ、オレンジジュースも何でもあるぜ!」
情緒不安定なピエロはおもむろに立ち上がると、戸棚を開けてぐにゃぐにゃのカップを取り出した。
……正直俺は状況が全く飲み込めていない。ここは夢の中なのだろうか? どちらにせよ、断るのもちょっと失礼かもしれない。そう思い、飲み物を頼むことにした。
「んーじゃあ熱々のいちごオレをお願いするんだぜ」
その返事を聞いた謎のピエロは、楽しそうに鼻歌を歌いながらカップにいちごオレを注いでくれた(口から吐き出して)。
「ほらよ。お待ちかねのいちごオレだ。たまげるくらいゲロ美味いぞ」
「うっわ何だお前きったねェな!」
思わず本音が出てしまったが、ピエロ野郎は俺に罵られてニッコニコなので問題は無いだろう。身体を起こしてカップを受け取り、少し躊躇いながら湯気の出るいちごオレをすする。
「ひでゅっっっ!!」
その瞬間! 口の中いっぱいに広がる香り! いちごの優しい甘さとミルクのまろやかな風味の絶妙なハーモニー! 一口飲むごとにだんだん心が落ち着いていく――。
「ふぅ……」
気付けば俺はゲロいちごオレを残らず飲み干していた。そして飲み干すと同時に、これが夢ではないと確信する。何故なら淹れたてをすぐに飲んだせいで舌をヤケドしたので。
「めちゃくちゃ美味かったぜピエロ野郎。それより、色々と聞きたいことがあるんだ。まず、ここは一体どこで、お前は何者なんだ?」
まずは状況を把握しないといけない。頭に糖分が回ってきたところで、俺はピエロ野郎に質問する。ピエロ野郎は、まるでピエロみたいな大袈裟な身振り手振りを交えて質問に応えてくれた。
「フフッ、ここは『ベーコンレタスバーガーの花園』! 一年を通してレタスの花と豚の鼻が咲き誇る、国内最大級の個人経営庭園さ! この部屋はまぁ、事務所だな」
「そんな『アーバンレジェンドの殿堂』みたいに言われても知らねぇよ」
ベーコンレタスバーガーの花園なんて聞いたことがない。なんだよ豚の鼻が咲き誇るって。そして何で事務所の天井に大量のお札が貼ってあるんだ。
「そんでオレの名前は『ブアアアァァァガァァァァァァァーーー』ってんだ。まぁ気軽にバーガーって呼んでくれ! いちおうここの所有者な」
「名前のセンス俺といい勝負してんなぁ」
イカした名前のピエロに悪い奴はいない。ひとまず安心した俺はさらに質問を続ける。
「じゃあ、どうして俺はここに連れてこられたのさ」
「ヘッヘー。そこの広場のド真ん中で気ィ失って倒れてたから、ついつい保護しちゃったんだ♡」
話しながらバーガーがベッドの右側の窓を指さした。俺も覗いてみると、すぐ横にある広場の中央に、人の形をしたクレーターがあいていた。
「な、なんだアレ……!?」
まるで"自分が空から落ちてきた"みたいじゃないか……。そして俺は閃いた。知らない土地、不可解な現象の数々。これらの状況から推測される答えは一つ、そう、
<h1>☆★☆ 異 世 界 転 生 ☆★☆</h1>
「よっしゃああああぁぁぁついに俺にもこの日がやって来たんだヒャッハー!」
俺は感動のあまり、ベッドの上に立ち上がって喜びの舞を繰り出した。そんな俺を祝福するかのように、舞い上がったホコリが日差しを受けてキラキラと輝いている。
「Foo! そのダンスめちゃくちゃ格好いいな! 寝癖がすごいから直してからもう一回やった方がいいよ」
喜びの舞に影響されたのか、バーガーは超ノリノリで上機嫌だ。戸棚から鏡と霧吹きを投げてよこしてくれた。
俺は素晴らしい動体視力で上手くキャッチし、鏡を見る。その時、俺は衝撃の真実に気づいてしまう!
「これ手鏡かと思ったら青銅鏡やないかいっ!」
そう! 鏡の中でフレーメン反応みたいな顔をしている俺は、艶やかな茶髪に琥珀色の瞳をした、猫耳の生えたちょぉとってもかゎぃぃ美少女だったのである!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「フォォォォォこれが俺の真の姿……! こんなキャワユイおんにゃのこの髪なんて触った事無いから緊張するわぁ」
「分かるよオレもその気持ち。倒れたお前を運ぶとき、お顔ペロペロを我慢するのに必死だったんだペロペロペロペロォ!」
そう言うとバーガーは自分の分の青銅鏡をペロペロし始めた。俺はそんなバーガーを横目に寝癖を直す。今思えば俺がぐにゃぐにゃのカップだと思っていた物はちっちゃい縄文土器だった気がする。
「……ん、待てよ? 俺がネコミミ美少女なのだとしたら、もしかして女湯とか入り放題なんじゃないかッ!?!?!?」
これは、ひょっとして俺はものすごく凄い発見をしてしまったかもしれない! ぬーん!
一瞬で寝癖を直し終えた俺は、甲高い叫び声を上げながら、尻尾もブンブン振りまくって、溢れ出る感情を喜びの舞で表現する。
感動。興奮。その他諸々の気持ちが混ざり合い、その踊りはまさに「狂喜乱舞」と表現するに相応しかった。
バーガーの手拍子と、どこからか流れてきた音楽によって、俺のグルグルと回る視界は加速していく。この小さな部屋は、熱狂ときらめくホコリで満たされていた。
「念願の夢が叶ったッほォ^~ゐ֍」
「いいぞー! もっとやれ! バク宙だぁ」
その時であった。
着地した衝撃で、乗っていたベッドの脚が折れてしまった。
バランスを崩した俺は足がもつれ、そのまま後ろに倒れ込む。
そう、そこは窓。俺は窓を突き破り――
特に意味なく10階建てにしてあった事務所から、真っ逆さまに落ちていったのだった。
「うわあああああぁぁぁぁぁ死にたくないぃぃぃーーー……っと。猫って高い所から落ちても気合いで何とかなるもんなんだな」
危うく人型のクレーターがもう一つできてしまう所だったが、俺は猫の能力を持っていたので、空中で態勢を整えて安全に着地することに成功した。これが洗濯バサミの能力とかだったらこう上手くはいかなかった。やっぱり洗濯バサミよりもねこちゃんの方が可愛いってはっきりわかんだね。
そして事務所に戻るのも面倒くさかったので、俺はこのまま庭園を出て街に行く事にした。
道案内看板によると、『広場』がこの庭園の中心にあって、そこから『レタスエリア』、『ベーコンエリア』、『ベーコンレタスエリア』、『ピクルスパティエリア』、『荒地エリア』、『売約済み』の六つのエリアに行けるようだ。
一番近くの街と繋がる『入退場ゲート①』はベーコンレタスエリアの先にあるそうなので、俺はそこに向けて歩き出す。
園内の風景は非常に美しかった。レタスの鮮やかな緑色と豚のピンク色のコントラストが素晴らしく、それが見渡す限り続いているのである。たぶん、バーガーの言っていた「国内最大級」という言葉は嘘ではないのだろう。
遊歩道から手が届く範囲のレタスと豚を食べつくしながら進むこと数十分。俺は少し小さめの広場に出た。そして目の前にはデカい門が見える。ここが入退場ゲートだろう。
「よぅ。『ベーコンレタスバーガーの花園』を出るんだな」
気付けばバーガーに背後をとられていた。驚いて振り向く。バーガーはピエロみたいな笑顔でこう続けた。
「ゲートを通り抜ければ街はすぐそこだ。お前がここから出たいなら、オレも喜んで送り出すよ。なんてったって人を笑顔にするのがピエロの役割ってもんだ」
「バーガー……!」
「それと、いつでも戻ってきていいぜ! ゲートにも書いてあんだろ? 『またのお越しをお待ちしております』ってな。それまでにはお前が食った分のレタスとベーコンも生やしておくさ。HAHAHA」
「ストーカーキッショ!」
俺はバーガーに負けないぐらいの笑顔で手を振りながら、まだ見ぬ異世界の景色に想いを馳せゲートをくぐった。