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城への大橋

 あの町を無事に抜けるとすぐに城下町になる。

 しかし今度は軍服を着た正式な兵士ばかり目立つようになった。

 一応市民も普通に生活を送っているようであるが、また民間兵士だと厄介だ。

 女性や子供でも下手をするとどうだか分からん。まったく恐ろしい国だ。セルジオは。

「お城まで一本道ですがどうします?」

 建物の陰からカイセイと共に顔を出した。

 メイン通りからまっすぐに大橋へ続く道だ。橋を越えたら直接門に繋がるタイプの城を見ている。

「正々堂々歩いて行っても、部外者であるだけで取り押さえられそうだな」

 常駐する兵士と、美しい隊列を保ったまま行進し続ける兵士がいる。

 城の周りの警戒レベルは強化し尽くされているようだ。

「兵士の服を奪って近付きますか?」

「いや。それだと余計な疑いを被せられる」

 俺達は暗殺を図りに行くのでは無いのだ。

 交渉なら正式な方法で城に入れてもらうのが一番良い。

 とは言っても、不法侵入してきた上で正式も何も無いのであるがな。とにかく方法が見つからん。

「一応聞くがお前ならどうする?」

 俺達の背中を見守る兵士に俺は尋ねてみた。だが答えてくれるわけが無い。

 返事が無いと早々に諦めをつけ、再びカイセイとああでは無いこうでも無いと策を練った。

「……橋番の兵を動かすのはガーネット指揮官です」

 考え込んでいて俺とカイセイが作るひと間に、聞き慣れん声が割って入った。

 俺達は互いに顔を合わせ、自分が言ったのでは無いと同時に首を振ったのだ。

 まさかと思って俺は後ろの男を振り返る。

 絶えず何を考えているか分からん無表情の男が、微妙に視線を右下に避けていた。

 発言者の確信を得て、俺はニヤリと笑っている。

「なるほど……それは有力な情報だ」

「し、信じるのですか?」

「そうするしか手段が浮かばん。

「そうですが……」

 カイセイは自身の優秀で硬い頭で何かを考え、その難関さを表情に滲ませている。

「ガーネット殿はキース様の護衛でした。そんな方が今この南部の領域……あのお城に構えているということは、王政側に付いていることになりませんか? 少し関係がこじれていて逆に危険だという考えも」

「と、うちの石頭が言っているが、どうなんだ?」

 俺から監視役に話を回してやった。「言い出したのだから答えてみろ」とも釘を刺しておく。

 監視役はわずかに目線を揺らして戸惑いを見せていたが、やがてちゃんと口を開いた。

「引き抜きです」

 たった一言だけ。だが十分だ。

「監視役、感謝する」

「……」

 それきりもう喋りたくは無いようだ。

「よし、良い方法が浮かんだ。直談判で行くぞ」

 そう言って俺はあっさりと隠れ場所から表に出ている。

 カイセイは、ここで引き止めたり言い合ったりなどでイザコザを作るのは良策で無いと分かっており、静かに後を付いてきた。


「そこの者! 止まれ!」

 早速俺達の前にはあのセルジオ城見張りの兵隊が横切り、声をかけてくる。

「外国の者か。関所は門を閉めているはずだ。どこから侵入した」

 俺はローブを脱ぎ取り、しかとこの顔を兵士に見せる。

 メルチほどの有名国だったならば、この顔を見ただけで素性を分かってくれるだろうが、うちではそうはいかない。

「クランクビスト第二王子。レイヴン・バルと申す。アルゴブレロ王に話があって来た」

 兵隊長が俺のもとに近付いてきた。

 俺の身長を悠々と越す大男で、俺とて若干怖い。

「クランクビスト……名だけは聞いたことがある。だがその後ろの者はベンブルクの紋章を付けているが」

「こいつは俺の監視に派遣された者だ」

「監視ぃ?」

 兵隊長は目の前でゲラゲラと笑った。

 こいつの部下である隊列の兵士たちは、笑いを堪えるために拳を力強く握ったようだ。

「王に話をしにきたと言ったな。君が本物の王子であれば、対談には手順とマナーがあるのを知っているはずだ」

「我々はキース王子を救いに来た!」

 俺からは真面目に告げた。

 しかしそれを聞くと兵隊長は機嫌を急に悪くする。

「……貴様、その名をここで口にするとは命知らずだぞ!!」

 鋭く光る剣を腰の鞘から抜き取り、今に振り落とさんと上へ掲げた。

 だがそこで「待て」の声が遮るのである。

 ずいぶん昔に聞いたことのある低い声ですぐに分かった。

 歳を重ねたせいでますます深みが増していても、これは目当ての男で違いない。

「何事だ」

 その人物はここでの騒動を見つけてやって来たのであった。

 細身で物腰の柔らかい男であったのが昔の記憶だ。だが現れた人物は、それとはまるで違う。

 軍人として鍛えられた肉体は流石だ。管理職ゆえ立ち姿が特に立派になっている。

 当時、毛先を無造作に放置していたものが、今は長くなった髪をきちっと後ろで結んでいるのも驚いた。

 正直この場で出会っていなければ、この男がガーネットだったとは気付かなかったに違いない……。

 思っていた再会と違い、俺はひそかに苦虫を噛んだようになる。

「この者たちは」

「は! クランクビストのレイヴンを名乗る一行が、王との面会を希望されているようで抑えております」

「レイヴン?」

 ガーネットは眉をピクリと動かす。

 ギロリと向けられた目は、まるでゴミでも見るかのような冷たい目だった。

「人は変わるものだな。キースの嫌がる虫を野山に運んでくれていたのが印象的だった」

「口を慎め!」

 苦言を告げた俺には兵隊長の剣先が向けられる。

 だが指揮官の合図が無ければすぐに切られることは無い剣だ。怖がらずに俺はガーネットに話し続けた。

「王に合わせてくれ。キースを救ってやりたい」

「その名を二度も口に出すとは愚か者め!」

 だが横の者がしぶとく噛み付いてくる。

「よせ。その愚か者らは私の客人だ」

 ガーネットが言うと、兵隊長はしゅんと静かになった。

「こちらへ。王のもとへ案内致します」

 やけに潔くガーネットは俺達のことを信頼したようだ。

 それが逆に疑わしくなり、俺とカイセイは少し目を合わせそうになる。

 心配を隠して余裕綽々な姿を辺りには見せびらかせながら、ガーネットの後ろを付いて橋を渡っていく。


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