多忙な旧友
「……なぁ」
「なんだい?」
「セルジオの話は聞いているか?」
「セルジオ?」
「分国しそうだという話だ」
するとリュンヒンが突然「ぶっ」と吹き出して笑った。
「妙に真剣に何かと思ったら、君は一体いつの話をしているんだ」
その後もしばらく笑われることになる。
真面目に切り出しただけに小っ恥ずかしくなり、俺はヤケクソでリュンヒンに言い訳を並べていた。
リュンヒンは言い訳を軽々かわして、このように告げる。
「セルジオが二つになるかもしれないという話はもう二年前からずっと言われている。そもそもその原因を作ったのは君じゃないか。許嫁と無事に結ばれてさえすれば、こんなに事が深まることもなかったろう?」
俺がシャーロットと婚約破棄したことをリュンヒンはもちろん知っていた。
他人事であると、サイドテーブルに用意されてある果物からリンゴを手にとって丸かじりしている。
俺はそのシャクシャクという音を聞かされた。
「やっぱり俺のせいなのか?」
「ああそうだね」
また一口かじって咀嚼した。
「メアネル・シャーロットとアルゴブレロの婚式は大騒動になるだろうさ。僕はそんなの見たくないよ。美女と野獣にも程がある」
的確な例えに俺はつい想像を膨らませてしまった。
「……だな。俺も呼ばれたくない」
「未練があるなら全然間に合うと思うけど。マルク王もそれを一番に望んでいるだろう」
「ああ。つい最近に話を持ちかけられた」
「じゃあ話が早いじゃないか。こんなところに来ている場合じゃないね」
バナナも剥いて食っている。
まさか夕食の代わりにする気なのかと思うくらい、リュンヒンはそこの果物を食べ続けていた。
「さあ休憩は終わりだ。ほら帰った帰った」
リュンヒンは皮やヘタを集め席を立って言う。
俺はこのソファーに根が生えてしまったからそのままの体制だ。
それに戻れば間違いなくカイセイが怒っているので立つ気にならん。
「もうここに住みたい気持ちだ」
「馬鹿なことを言わないで出ていくんだ。僕は君とは違って忙しいんだから」
ぼんやり眺めていた写真も急にぶんどられてしまう。それに代わって怒り顔のリュンヒンに見下されていた。
仕方ないと俺は重たい背中を引き剥がし、窓の方を見た。
外は夕日である。部屋には明るい電気が付いているため、時間帯はまるで気にならなかった。
「トンネル完成は四年後だって言ったっけ?」
「そうだ。長く感じるか?」
「いや? かなり短いと思うね。四年も経てば世界は大きく変わっているだろう」
そこへノックが鳴りメルチ兵士が顔を覗かせた。
「すみません接客中でしたか」
「いいや。もう彼は帰るところだから」
扉付近のやり取りで、いよいよ俺のことを追い出そうという気配がする。
まあ、夜道は危険であるし、俺もそろそろ行こうと尻を上げた。
「じゃあな」と手を挙げるとリュンヒンも同じように手を挙げた。
そのまま顔を出した兵士に玄関まで送ってもらおうとしたら、廊下のところで「バル」と声がかかった。
振り返ればリュンヒンが部屋から出て俺を呼び止めているのだ。
「なんだ。何も盗んでないぞ」
上等な軍服と、幾つもの勲章を身に着けたリュンヒンはわずかに微笑んだ。
「今日は来てくれて嬉しかったよ。気を付けて」
軽く手を振り自分の部屋へと戻っていった。
俺は、気味が悪いな、などと思いながら再び帰りの道を進んだ。
自国に帰ってからも俺は、リュンヒンが最後何をしたかったのかと疑問が消えなかったのである。
すっかり日暮れだ。さすがに遅い時間になってしまい、送ってくれた馬も機嫌を悪くした。
城の玄関のところで馬がいなないていると、その音により何人かの兵士がやってくる。
かくしてその中には、あの男もいるのである。
「ずいぶんと遅い帰りでしたね」
怒りをこらえた声で俺に言うのであった。
俺は御者に運賃を手渡しながら「そうだな」と返事をしている。
「伝言を渡したはずだが?」
「ええ、貰いましたとも。それにしては遅すぎませんかというお話です。一体どちらに行っておられたのです?」
馬の機嫌が直ると御者と共に来た道を引き返し帰っていった。
俺は疲れたので部屋で休もうと城の中に足を入れる。
「ちょっとお待ち下さい」
しかしカイセイが袖を引くのであった。
「この匂い……メルチのお茶では」
「お前は犬か!」
鼻を近づけられた袖を引き離し、俺は早足で城の中を駆け巡る。だがカイセイは俺の部屋の扉までしつこく付いて来た。
さすがに扉を閉めたら中までは追って来なくなり。
俺はふぅと一息付き、そのままベッドに横になるのである。




