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荷物運び

 町の中を行く。道端で俺を見つけると必ず声をかけて日常会話が繰り広げられた。

 こうなることを予想して、先にカイセイをひとっ走りさせてある。

 だから国民からはエセルの話題は一切出ずに、代わりにトンネル工事についての話で持ち切りだった。

「しっかしこの国は何年も変わらないねぇ」

 町の中心部の道を歩きながらロマナが言っていた。

 あまり良い意味では無さそうであった。変化が無くてつまらないね、と言っているように俺には聞こえている。

「たしかに錆びれたところを修復するばかりの生活だ。それでも国民はここに留まってくれているのだ。感謝しなくてはならん」

 前を行くロマナが歩きながらじんわりとこちらを振り返った。

「あらぁ、ずいぶんらしくなったじゃないの」

「ニヤニヤするな。荷物を落としたくないのだろう?」

 そう言っている傍からロマナはガタついた石畳に躓いて転びそうになった。

 だが惜しいことに彼女は柔軟で、ひょいと手足を回してバランスを取ると荷物も大事には至らなかった。

 その後もロマナと何かを話しながら、どこかへ向かって歩いて行く。

 花かごをぶら下げた住宅を眺めていると、不意にエセルとここを歩いたことを思い出してしまっていた。

 あの時とは季節が違うので別の花だ。それなのに何だか物悲しいような気持ちになる。

「あの店では買わない方がいいよ」

 ロマナの声でハッとなった。

 俺は無意識に思い出を辿っていて、とあるアクセサリー店を凝視していたようだ。

「あそこの店主が川辺で石に色を塗っていたところを見たの」

 センチメンタルな気分から急にあのイカサマ店主の顔が思い浮かんだ。

 よく見ると店のガラス越しに店主の様子もうかがえる。ちょうど客人に物を売りつけようとしているところだった。

「あの店主、まだそんなことに手を染めているのか」

「なんだ知ってたの?」

「ああ。石にはまじないをかけてあるんだと。お前はきっとその儀式を目撃したんだろう」

 店には入らず横を通り過ぎていく。

 時々監視役が付いてきているか俺は後ろを振り返り見ていた。

 その兵士は文句も言わずにきっちり付いて来ていて、大変偉いなと二回ぐらい褒めてやった気がする。

 本人は決して喜ぶ顔を見せたりはしないのだがな。本当に荷物を持たされたあの一瞬だけが、周りに見せた素の顔だったようだ。

「首脳会議は楽しかったかい?」

 ロマナが前を見たまま聞いてきた。

「会議については母上もいる場で報告しただろう」

「じゃなくて。君の気持ちを聞いているのだよ。世界を担う大物たちに囲まれたら、君はさらに王位を継ぐのが嫌になったのかなってね」

「母上に聞いて来いとでも言われたか」

 聞きたいことがピンポイント過ぎて逆に怪しいと思ったのだ。

「それはご想像におまかせしよう」

 ロマナは話をごまかした。

「まあ出席できて良かったとは思うが、老人会の話し合いはとにかくまどろっこしくて苦手だった。もう二度目はいい。腹いっぱいだ」

 ハハハと笑いながら指示もなくロマナは横道へと曲がる。そこでは地面に絵を描いて遊ぶ子供がいて、大きな荷物を運ぶ三人衆が来たと周りにまとわり付かれた。

 手が離せず関わることができないから、その場ではまた後でと口で伝えておくだけだ。

 子供たちは俺に手を振りながら、何だか知らんがまた会う約束を勝手に取り付けたようだった。

 そんな様子を見てロマナは「君は愛されていて良いね~」などと軽やかに言っていた。


 子供たちを見ていて思い出したのかもしれん。いつぞやにロマナから聞いたことがあり俺は口にする。

「そういえばお前はセルジオの出身だっただろう。会議にはキースが来ていたぞ」

「キース君が? なぜ?」

 当然の反応である。

「それは知らん。父親に連れられたというよりか、マルク王の代理出席みたいだった」

 ロマナは「ふーん」と長めに言っている。

 普通に、元気だった? とかを聞いてくるのかと思った。しかしロマナが話し出したのは、この頃のキースを取り巻くセルジオの情勢であった。

「セルジオは実力行使の国だ。やや横暴な王に対しても、従えない者は大きなデモを起こして抗議したりするよ。キース君はそんなタイプの人柄じゃないから、彼が力をつけたらあの国はもうちょっと丸くなることを期待していたんだけど……」

 言いながらロマナは少し唸って考える。

「……逆に。キース君のあの大人しさを利用して、おごり高ぶる連中が居てもおかしくは無いのかなって。まあ彼ももう少年じゃ無いんだから、王族として分別は出来ているとは思うんだけど、実はちょっと心配かも」

 話を聞きながら、俺もそんな様子が浮かんだ。

 アルゴブレロが石頭であるなら、その真下にいる豆腐のような王子を味方につけるが早い。

 マルク王とキースの意外な接点に驚いていただけであったのだが、それを聞いたら何だかだんだんと悪いことになっているような気がしてきた。

「まあ、何事にも素質があるだろう。兵士であっても戦いに向いていないと分かれば自ら去っていくものだ」

「でもキース君の場合は去りようがないじゃない。家業なのだから」

 そう言われて返す言葉を考えていると、ロマナが急にいじけたような声を出す。

「なんだ。ネザリアの一件みたいに、君がささっと解決に走ってくれるのかと期待したのに」

 俺は、はあ? となる。

「都合良く考え過ぎだ」

 俺は鼻をフンと鳴らしながら歩いた。



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