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静かな夕食‐平手打ち‐

「この家は代々血縁関係を結ぶことを常套手段にしているわ。つまり政略結婚で国交を結んできているの。だからセルジオ王国がわたくしと関係を結ぶ事は、ニューリアンや他の諸外国とも親戚関係になるのと同じこと。わたくしが分断したセルジオのどちらかに入れば、それは大きな利益を得られるということなのよ」

 シャーロットがモテる理由は美人であることだけでは無いのだなと分かった。

「だから俺と結婚をするのか?」

「ええそうよ」

 当然のように言われる。

 いくらなんでも強引すぎるだろうと拒めば「あら?」とシャーロットは首を傾げた。

「覚えていない? あなた、わたくしにお願い事をしたことがあったじゃない?」

 鋭く突かれて言葉が返せなかった。

 こちらの都合でエセルをネザリアに帰すため、シャーロットには頼んで手を回してもらったことがある。しかし言うても、当時エセルの機嫌を損ねさせる話を伝えさせただけに過ぎん。

「……その礼に籍を入れるのはあまりにも吊り合わん」

「わたくしは嫌だったけれども引き受けたのよ? その時の苦しさには吊り合うわ」

 なんて自分主義な考え方なのだ。恐ろしい。

 カイセイとも一緒になって動いたのである。何か言ってくれと視線を送るが「まあ、よろしいのではないですか」と味方になってくれない。

 自分で身を守るしか方法が無いらしい。

「だが例え。お前が俺と結ばれたとしても、下の妹たちに手が回りだすだけじゃないのか。メアネル家の娘たちであれば、得られるものはそう変わらんと思うのだが?」

 強気に言う言葉の後にはカイセイを視線で指す。

 シャーロットがダメならすぐ下の妹スイナが後を引くことになるだろう。

 カイセイとスイナがやり取りしているのはシャーロットも承知なのだ。恋仲になりそうな当人がそこにいるとシャーロットは少し苦い顔になった。

「ま、まあ。それはそうなんだけれど……」

 うまくかわせたようである。

 しかし「だけど」で続けられた。

「わたくしはあなたと結婚することで成し遂げたい夢が別であるの」

「夢?」

「……そう、夢よ。セルジオや他の国ではダメなの。特にあの国へ行ったら最後。わたくしはただの飾りになってしまう。何の権力も持てなくなってしまうのよ」

「それはつまり配偶者に従わなければならない、ということでしょうか」

 カイセイが割り入って問うた。シャーロットは頷いた。

「わたくしはこの国の女王になりたいの。それが夢。政略結婚がお家芸だなんて誰が幸せになれるの? わたくしはこんな方法を終わりにしたい」

 そして俺の顔に指を突きつけられる。

「それを叶えるためには、国営に無関心な、あなたと結婚するしか無いの!!」

 シャーロットは力強く言い切った。

 さすがの俺でも指差しまでくらっているから胸を撃たれている。

 だが冷静な頭で考えれば、国営に無関心というのは心外だろうと気付き腹が立った。

「俺とて政治家だぞ。一応母上に代わって国の管理をしている身だ。兄も行方不明なのだからなおのことだろうが!」

「そうよ! でも”今は”に他ならない。あなたのお兄様が帰って来さえすれば、あなたはまた宙ぶらりんのナマケモノに戻るわよ!」

 負けじとシャーロットも強い言葉で押し返してくる。

 そしてシャーロットのタガが外れたようだ。言いたいことを言いたいように言ってきた。

「ネザリアのボスを退治したからって何? 結局あなたはそのメルチの方の跳び台になっただけでしょう? ご病気のお母様のことも、失踪中のお兄様のことも、十年後、百年後の国のことも何にも考えていないじゃない! それで政治家だなんて言えないわ! 成り行き任せなんていつまで子供みたいなことをしているのよ!」

 ゼイゼイと息を荒げながら、シャーロットは勢いのあまり席を立ち上がっていた。

 テーブルに前のめりになり俺のことを真面目に睨んでいる。

 そのままテーブルクロスを両手でグシャッと握ったかと思えば、今度はそこから俺の方へ足を運び、ついにはこの頬に平手打ちをした。

「……っ!」

 清々しいくらい良い音がガランとした大部屋に響く。

「お、おおお、おお嬢様ああ」

 執事が今にも昇天しそうだ。

「いい加減目を覚ましなさい!!」

 最後には怒鳴りつけられもした。

 彼女の平手打ちは結構痛かった。

 顔半分が膨張と収縮を繰り返しているようにジンジンと波打ち、鼻からはぽたりぽたりと赤いものが地面へと落ちている。

 血に気付いたカイセイが椅子から落ちながら駆けつける。俺は自分のハンカチで鼻を拭い、血が止まったかを何度か確認していた。

「謝らないわよ」

 シャーロットは一言告げる。

 ちゃんと血は止まったようだ。だとしたらこの場所に居ても良いことは無い。

「……もう食事は済んだ。カイセイ、部屋に戻るぞ」

「は、はい」

 俺はゆらめきながら席を立ち、シャーロットの横をすり抜けて扉へと足を進める。

 ついでに途中で振り返り告げておく。

「王の用事とやらが終わったらまた話そう。俺は逃げ帰ったりはしないから、どうぞゆっくりやっててくれ」

 扉を押し開け去っていく。あとはカイセイが少し礼くらいして扉を閉めてくれただろう。

 俺は冷静に見せていて、心では非常にムシャクシャとしていたのだ。

 例えばここが他人の家で無くて、さらには一人きりだったなら、その辺の壁くらい殴っていたかもしれない。


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