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街‐付き添い‐

 古い歴史を持つ国のひとつであるメルチ王国だ。かつてはシェード都と呼ばれた極小さな集団民家に過ぎなかったが、大王シェード・メルチの手によって開拓されてからは、水を得た魚のごとく物凄い勢いで成り上がっていった。

 国名は大王の名前からそのまま取り、さらに大王のトレードカラーであった赤と青の格子柄は国旗に採用されるほど、この国にとっては英雄的存在なのである。

 街でその肖像画を売り並べる年寄りを横目に見ながら、俺はエセルと共にリュンヒンのあとに続いていた。

 さすが活気のある国では街の様子も随分うちとは違う。広い道には荷馬車の他に観光客を運ぶ馬車まで行き交っている。ガス燈は電灯に変わり、何やら大きな建物を建てる工事が進められていた。

 それに気を取られながらもリュンヒンを追い、俺はふと血気盛んに声を出す商人がうようよいるのに気がついた。街の真ん中で何を売っているのかと見てみると皆手ぶらである。「おい」とリュンヒンを呼ぶ。

「ああ。彼らは仕入れ屋さ。市民の不用品を買い取るんだ」

「買い取ってどうする?」

「修復したり別の物に作り直したりしてからまた店で売るんだよ」

 ふーん。と思いながらまた足を進める。そんな仕入れ屋が足早にどこかへ向かう姿を眺めていた。焦げ付いた鍋などの金物を器用に重ねて運ぶ者や、はち切れんばかりの袋から布物が覗いている者もいた。

 いくら時が経っていようが大して変わらんだろうと思っていたが、早速こんなところで斬新な生活が見れるとは思わなんだ。


「ここだよ。さあ入って入って」

 突然リュンヒンが足を止めた。至って何の変わりもない通りの景色であったが、ふと頭上を見上げると鉄板を切り抜いた洒落た看板が掲げてある。

 色ガラスで模様を作るような小洒落た店の前であり、明らかに男が戸をまたぐような場所には見えない。

「バル殿?」

「あ、ああ……」

 先にエセルが店に入ったらしい。俺もリュンヒンが開けた戸をくぐり中に入った。

 店内はやはり女性客ばかりが目立つし、内装も女性が好きそうなものばかりを集めたみたいだ。

 丸型のテーブルで雰囲気を作っているのだろうが、これだと空間の使い方に無駄が多いのが気になった。

 飲食店のようである。席に着いてもリュンヒンはメニュー表を見せてこず、明るい色を着たウェイターを呼び寄せ「いつものを三つ」と頼んだだけだ。

 昼飯を食ったばかりであるのに何を食べさせられるんだと恐れているが、さっきから甘ったるい匂いが充満しているのがそうなんだろうなと予想している。

「全く腹なんか減ってないんだが」

 色なんか付けられているナプキンを見ながら俺は愚痴った。エセルとリュンヒンはすでに胸元を淡いピンク色にしていた。

「先入観は良くないよ。ナプキンに色が着いていたって良いじゃないか。綺麗だろう?」

 リュンヒンは俺の腹減り具合ではなく、俺が白くないナプキンを付けたがらない方に重きを置いた。言われて俺も渋々胸をピンク色にする。

「カイセイが居なくてよかったね」

 そんな俺を見ながら、リュンヒンはエセルと共に肩をすくめ合った。

「お待たせしました~」

 短時間で運ばれてきたのはドデカいプリンだ。

 だいたいプリンというのは皿の上に自分で立てる奇妙な菓子だが、こいつはあまりに肥えすぎて横に溶けているみたいに不格好であった。

「なんだこれは」と言う俺をよそに、エセルとリュンヒンが喜んで声を上げている。

 俺はそれまで匂いだけで胃もたれしていたというのに、現物が現れると吐き気レベルに陥っている。

「レディにとってスイーツは別腹なんだよっ」。

「別腹? そいつは飯を半分以上も残すような少食なんだぞ? こんなバケモンじみた菓子が別腹だ? これを腹に収めるくらいなら、もっと栄養価のあるものをたくさん食え」

 文句を言いながら俺もこのバケモンを口に入れた。匂いと同じ味が口の中に広がった。そして、飯をいつも残すエセルが誰より先に食べ終わった。


 病的な甘さでこっちは頭痛がしているのに、リュンヒンは俺達を煩い場所に連れてきた。右にも左にも店が密集し、通路は行き交う人で溢れている。

 この場こそ商人と客が物を売り買いする大規模マーケットであった。と、言っても売られているのは野菜や魚では無い。金物市場である。

 俺の頭に響いて来るのは人々の話し声よりも、カンカンと鉄を打って鳴らしている音の方がしんどい。

「あの店なんかどうかな? ちょっと見てみようか」

 先を行く二人を見失わないよう注意しながら着いて行った。彼らは銀や石で制作したアクセサリーを見るようである。

 商品に興味はないが、店内が静かそうであったので俺も中に入る。

 店主が快く「いらっしゃい」とだけ声を掛けた。俺は軽く会釈してその辺の陳列棚を見ている。リュンヒンがエセルを連れているのを見ると、店主は独特な引き笑いをした。

「まーたこの王子様は女の子を連れて。ちゃんと仕事をしなよ?」

 真っ当な事を言われているリュンヒンは、悪びれる素振りなくエセルの肩を抱くと俺の方を指さしてくる。

「ただの女の子じゃないんだ。あそこの王子の奥さんさ」

 友人王子の奥さんであるなら軽々しく肩を抱くんじゃない。と常識のある店主に叱って欲しかった。しかしこの店主、結構呑気であった。

「なんだそうなのかい。それならじっくり見ていくと良いよ。ああそうだ。昨日届いた宝石の原石を見せてあげようか。ちょっとこっちにおいで」

 エセルはリュンヒンの顔をちらっと見る。リュンヒンが頷くと店主のところへ着いて行った。普通あれは俺の役割なんだが。腹が立つどころか呆れて物も言えない。

 エセルが横に居なくなると、リュンヒンは俺の元へやって来る。

「何かプレゼントでもしたら? 仲直りにはプレゼントが効果的だよ」

「……原因を作ったお前が、何で俺にアドバイスなど出来ると思っている」

 その件についてリュンヒンははぐらかした。それよりも、アリに付けるようなちんまい耳飾りや大蛇みたいな腕輪を、ああでもないこうでもないと言いながら俺に渡して来る。

「あいつは物なんか貰っても喜ぶような奴じゃないだろ」

 受け取った小物を棚に戻しながら、俺は出会って数日のお前よりもエセルのことを知っているんだぞ、とドヤ顔で答えていた。

 しかしリュンヒンはあっさり否定した。

「そうでも無いと思うよ。女性は誰だって意中の男から物を貰うのは嬉しいはずさ」

 しっかりと”意中の”と限定するのが若干気になる。

「仮にもしそれが本当であったなら、髪に花を挿されて喜んでいたエセルは、お前の事が意中にあるって言うのか」

 明らかに似合いそうもないブローチを手に持ったまま俺はハッとした。

 リュンヒンが目を丸くして俺のことを見ていた。無意識に俺はまたとんでもないことを口にしたかもしれない。

「君ってひょっとして……僕に嫉妬しているの?」

「た、戯けたことを抜かすな。俺がお前に劣ることなど何も無いわ」

 ブローチを置き、その辺の目についたものをひとつ拳の中に攫った。会計係の者に値札を見せ、リュンヒンを指さして「あいつが支払う」と告げる。

 俺はそのまま店を出て、二人がショッピングを終わらせるのを待っている。

 外は外でトントンカンカン喧しくてうんざりする。

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