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対談‐噴水のある庭‐

 久しぶりに訪れたメルチ城の庭だ。俺が昔から知っている嘗ての庭ではなくなり、かなり改装されたらしい。手すりや階段の位置も違うし垣根も違う。何より真新しい大きな噴水が中央にドンとある。

「ああ、これかい? 少し前、僕の祝いに頂いたんだよ」

 軽々しくリュンヒンは言っていた。俺の国でも箱に入らないような贈り物は何度か目にしたことがあったが、まさか噴水を送るのは初めて見た。一体どんな富裕層から頂けるものなんだろうか。

 吸い上げられた水が四方の水瓶から流れ出るタイプの噴水で、その円形の縁に腰を下ろすと時々風に流されて水しぶきが飛んできた。それがきっかけとなり表情が緩み場が和んだ。

 エセルとカイセイをその場に残し、俺とリュンヒンは少し離れたところで話をする。さっきから俺に向かってニヤニヤしているなと思っていたら、さっそくリュンヒンに横腹を突かれた。

「どうだい。怒られ損だっただろう?」

「何故あの夜に話さない?」

「だって君達がどんな顔をするのか楽しみだったんだ。おかげで面白いものが見れたよ」

 まるで子供のいたずらを成功させたみたいにリュンヒンは喜んでいる。俺はそれを叱る余力も無く呆れ返っているばかりだ。こちらがあまりに落ち込むと付け上がってくるだけだからな。

「なにはともあれテダムと話さねばな……」

「おお、そうかい」

 忙しくしているテダムだ。いつ時間を取ってくれるだろうか。などと俯き考えていたら、弾丸のような衝撃が肩に走った。見ると悪ガキでしか無いリュンヒンが、何が可笑しいのか肩を震わせて笑っている。

「ぼーっと考え込んじゃって。君はいつまで経っても真面目だな」

「お前があまりにも不真面目なだけだ。のうのうと酒を飲みながら女と遊んでいるような奴には分からんだろうな」

 これに少しも懲りず笑い続けている。この男はしばらく会わないうちに何という性悪な人間になってしまったものか。トドメには呑気な声で「頑張って~」などと言ってきた。これが古い友人からでなければ侮辱と捉えて罪と見なす。

 そんな彼に軽蔑の意味を込めに込めて俺は鼻息を鳴らした。

「まったく、お前は気楽で良いわな」

「ああ。気楽だとも。全て僕の思い通りさっ」

 俺からはめいいっぱいの嫌味で返してやったつもりだったが、リュンヒンには響いていないようだ。風の子のように俺の言葉など踊りながらでも回避できる。といったイメージである。実際そっぽを向いた横顔で口笛まで吹かれていた。

 同じ次男であるのに雲泥の差があるのは何故なんだ。リュンヒンはまるで、雲の上から高みの見物をしているみたいに身軽で健康そうだ。泥の方の俺はストレスで今にも死にそうであるのに。


「さてさて、西部の国境問題は僕の統治下だ。どう決着をつけようかな?」

「それについての答えはもう決めてある」

「ほう」

「西部の領土はメルチに明け渡そうと思う」

 目をパチクリされた。気抜けしたリュンヒンがおずおずと訳を聞いてくる。

「……それは嬉しいけど何か代償でもあるのかな?」

「無い。現在における自国の体制では正直なところ最西まで目をまわせない。なのでリュンヒンにしばし預けておこうと思うのだ」

「何だって? 預ける?」

 次には発泡酒が溢れ出るみたいに爆発的に笑いだした。あまり聞いたことのないリュンヒンの豪快な笑いだ。向こうのエセルやカイセイが同時にこっちを振り返るほどであった。

「……君はまたずいぶん真面目な顔で何を言い出すかと思いきや。僕に領土を預けるか……いやはや。なるほど、なるほど……」

 涙まで流す始末で何度も復唱をする。そんなに面白いことを言った覚えはないんだが彼のツボには入ったらしかった。俺の方は誠心誠意真面目であるから彼が落ち着くのをしかと待った。

 笑うのが落ち着くと、リュンヒンは「つまり」と俺の思惑を言い当てる。

「いずれ取り戻しに来るってことだね」

「ああ。その通りだ」

 俺がはっきり言うと、リュンヒンはニヤッと口角を上げた。

「よし引き受けた! 友の頼みなら断る理由も無いしね」

 僕に任せておけ。と、胸をドンと叩いた。いつも気楽で調子の良いリュンヒンであるが、彼の統治下はどこもかなり安定している。こう見えて政治的な能力はかなり見込んでいるのだ。

「……っていうか。あの辺りの紛争は報告だと大変そうだけど、実際夜になれば皆同じ席で酒を酌み交わしているらしいよ」

 近くに誰か居るわけでもないのに、リュンヒンは耳打ちしてきて静かに告げた。俺はその話に驚くことはない。なにせ俺もそんな気はしていた。

「どおりで兵が帰って来たがらないわけだ。戻ったら酒代を精算しなくてはな」

 二人して大いに笑っていた。


 本来ならこれで終わりであるが、今回は自国の港に着いた謎の船舶についても聞いておかなければならない。カイセイが扮装までして暴いた乗組員は、皆自分がメルチの商人だと告白した。しかし彼らの話す事はデタラメだらけで、さらに何故かネザリアとの繋がりが垣間見えた。

 比較的安定したメルチ王国から、わざわざうちのような国に用など無いはずだ。そんな彼らのことを知っているかと俺から聞いた。

 エセルと共に花壇にしゃがみこんでいるリュンヒンであるが、俺の話を聞くとそこの花を指で突っつきながら唸り声を上げている。

 長い時間が経ってから、やがて「知らないな」と返ってきた。

「君の国の物資を狙ったんだったね。それならただの海賊って思いたいところだけど、君の国との航路は閉ざしてあるはずだろう? わざわざ法を破ってまで調達したい物なんて無いと思うんだ。だからそうだな……考えられるとしたら」

 リュンヒンは隣のエセルをちらっと見る。

「……冒険心かな?」

 明るく言うのは紛れもなくエセルのことを気遣ってのことだ。だが拍子抜けの答えに俺やカイセイはすっかり気が抜けた。これにはリュンヒンでもちょっとだけ反省を見せた。

「ごめんごめん冗談だよ。けど何も知らないのは本当だ。是非兄にも聞いてみてくれないか。港は兄の物だ。もしかしたら何か知っているかもしれない」

 俺は気落ちしたまま了解する。


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