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対談‐ネザリアの陰謀‐

「ネザリア王国……いや、そろそろ帝国と呼ぶ時まで来たかもしれないな。あの国は今、国境付近の諸外国との交流を強めていてね。それが悪い話だと、まるでネザリアの傘下まで落とし込む勢いで動いているところもあるんだよ」

 オルバノ王の言葉がよく聞こえる。皆が静かに耳を傾けていた。

「……それとは別に。あの国は急激に軍事化が進められて民は置いてけぼりだ。とにかく税金を巻き上げて軍事資金としてつぎ込んでいる。そして、大きな部隊を作ったとか秘密兵器を投入したとか、最近はそういうニュースばかり発出しているよ。さてバル君。君はこのネザリアが何をしたいか予想がつくかな?」

 突然の質問形式に俺は一瞬慌てた。だが俺も唸りながらネザリアの行く末を想像してみる。

 ネザリア王国は周りの国を味方に付けている。それに自国の武力も高めながらだ。

「……何かを警戒しているのか。はたまた攻撃する為の準備なのか」

 考えをまとめながら独り言が漏れていたようだ。オルバノ王は「うむ」と一声上げた。

「さすが王子だな。まあこれくらいはすぐに出てきて貰わないと困る」

 それでオルバノ王は答えを告げた。

「正解はどっちもだ。ネザリアは、国が大きくなろうとする姿勢を存分に見せておいて、他の大国からの忠告を待っているんだ。その忠告を無視すれば、もちろんネザリアは一発で止めを刺されるだろう。大国にとってネザリアは指先で突ける程の小さな国だからね。でも、ここからネザリアの恐ろしい思惑があるんだよ」

 窓から日差しが消えて部屋の中が陰りだす。

「ネザリアと他国との契約は、つまるところ”助け合おう”という内容だ。もしネザリアが大国から攻撃を受けたなら、成約した国は共に戦ってくれることだろう。で、終戦したとしよう。ネザリアを含む数々の諸外国が被害を受けている。復興には金がかかるが、さあ一体何処から出そうか」

 ……民から巻き上げた。

「税金だ。ネザリアのな。ここでも契約は生きているから、ネザリアは諸国を見捨てないだろう。多額の金を貸して形では”助け合い”を演じてくるが、結果的にはネザリアの元に下ったも同然だ。そうしてネザリア王国は長い時間を掛けながら、周囲の国を服従的に取り込もうと目論んでいるんだ」

 話を終えたオルバノ王は茶を飲み喉を潤している。陰った部屋では静寂も妙なものに感じられた。

 俺やカイセイは各々別の方向を向き、今後の自国を案じている。エセルは難しい顔をして俯いていた。事情を持つ彼女なりの考えがありそうだ。茶を飲み終えたオルバノ王が俺に尋ねる。

「どうだい、この話。信じるかい?」

 やけに明るく言われるから、まさかオルバノ王の作り話なのではと疑った。いやまさかと思っていると、オルバノ王が懐からひとつ小さめの封筒を取り出してテーブルに置く。

「これは?」

「その契約書だよ」

 許可を得て俺はその封筒の中身を見せて貰う。契約書にしては紙二枚しか無いのに驚いた。内容も非常にシンプルである。かなり狙った見方をすれば、約束に慣れていない王でも内容が分かりやすい書き方のように取れた。

 甲の名にはネザリア・カイリュの自筆のサインがある。乙の名はまだ書かれていない。だが、これをオルバノ王から見せられるということは、つまりである。

「ではメルチ王国も?」

 聞くと突然オルバノ王とイアリス妃は顔を合わせて笑い出す。

「そんな怖い顔をしないでおくれ。まだ結ぶと決めたわけじゃない」

「ええ。だって私達、カイリュと仲良くする義理がないもの」

 オルバノ王に続いてイアリス妃も気楽に言っている。これに少し安心していた俺であったが、オルバノ王の次の言葉はそんな俺の安直さを一気に破滅させるものであった。

「実はこの契約の決定権は息子たちに渡そうと思っている」

 信じがたい断言に俺が固まっていると、イアリス妃も微笑みを絶やさず話すのである。

「私たちも、そろそろ引退しても良いんじゃないかって。この機会だからこの国の運命はあの子たちに託しましょうって決めたのよ」

「……そうですか。大変よろしいことだと思います」

「あら本当? バル君、顔が引きつっているわよ?」

 そりゃあ顔くらい引きつって当然だ。逆に顔以外が正常であることが不思議なくらいだ。

 オルバノ王とイリアス妃は、俺達三人と重暗い空気だけを残して席を立った。扉をまたぐ時にイリアス妃は振り返り「頑張ってね!」と激励の言葉をくれた。それは火の中の虫同然に何の効力も成さない。

 静寂しか無い部屋ですぐにノックがされ、リュンヒンが軽快に入ってきた。そしてすぐにこの重苦しい空気を感じ取ったようで、足をピタリと止めた。しかしこうなることを彼は知っていたのだろうと思う。苦い表情の奥で、かすかにほくそ笑んでいる気がするのだ。

 それにこれは勝手な余談だが、オルバノ夫妻が険悪なムードを作るくらいに揉め合ったのは、たぶん代替えの話だったのではないだろうかと思うのだ。だが今はそれを咎める体力が無い。

 リュンヒンは苦笑を浮かべながら窓の方を指して言った。

「今日は天気が良いね。話なら外でするに限る」

 その言葉をきっかけに、俺たちはリュンヒンより強引に外へ連れ出された。


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