祝賀会にてご挨拶
イアリス妃はシャンデリアを集めるのが好きだと聞いている。この広々としたホールには、天井が抜け落ちるのではないかと思う程の、豪華絢爛なシャンデリアがぶら下がっていた。その下には美味そうな料理が並び、音楽家が陽気な音楽を奏で、中央のダンスフロアで夫人らがくるくる回されている。
腹は減っていたから割と食べた。そのあとは壁を背にして浮かれた貴人たちを眺めている。腹が膨れると眠くなってしょうがない。俺は何度も出るあくびを堪えていたのだ。
「こんな端にいて良いんですか?」
「本来、私たちはゲストではありませんからね」
俺達は横並びに居て、エセルとカイセイの会話がされている。
「あれ? そうなんですか?」
「ええ。日程が変わったことで祝賀式と重なってしまい、今日はご厚意で招いてもらっただけなんです」
「では今はこれ……何の時間なんでしょう?」
「オルバノご夫妻に挨拶する機会を伺っています」
そういえばエセルがネザリア城にいた頃は、王や姉達に連れられて催事に顔を出していたというような話を聞いた。きっとその時には今のように緩慢な空気では無かったのだろう。それでかエセルは、やけにこれで良いのかと聞いていた。
踊りを終えたオルバノ夫妻は良い顔をしている。それを無の眼で見ながら俺には何が楽しいのか謎でしかない。俺も教養のひとつとして踊りを習ったが、楽しいなんて一度も思ったことは無い。
音楽は次の節に入り、別のグループがダンスホールへ入っていった。オルバノ王とイアリス妃はこれから二人で来賓への挨拶に周るようである。これだけの人数全員に顔を見せて行くのだ。そうとう大変だぞこれは。
「あと二十分ほどで向かいましょうか」
カイセイが俺に耳打ちをした。俺も丁度そのくらいかと踏んでいたのでコクリと頷く。
「行くか」
「ええ」
俺とカイセイがエセルを引き連れる形でオルバノ夫妻の元へ向かった。様々なところで話の輪を広げる来賓の間を縫いながら行き、丁度イアリス妃が友人との別れの手を振っているところに参上する。
「オルバノ王、そしてイアリス妃」
俺が声をかけると先にオルバノ王が気付いた。よく肥やした白いひげで口元が分かりにくものの、その目で皺が濃く刻まれるほどニッコリと笑いかけてくれた。
「ああ、バル君じゃないか。元気だったかい?」
「はい。変わりなくです」
イアリス妃も遅れて振り返った。こちらも明るい表情を頂ける。
「オルバノ様、イアリス様。本日はお誘いいただきありがとうございました」
「なあに。せっかくのこの日だ。部屋に居ろと言う方が可笑しいだろ」
オルバノ王はワッハッハと豪快に笑った。
「ご結婚二十年の良き日にお祝い申し上げます。おめでとうございます」
俺が礼をし、カイセイとエセルも後に続いた。オルバノ夫妻はもちろんご機嫌で喜んでくれている。だが俺とカイセイともう一人は見慣れない顔だと分かったイアリス妃が、僅かに声を出した。そしてすぐに嬉しそうな顔をする。
「まあ、もしかして。この方があなたの?」
「はい。遅ればせながら、ようやく」
「あらそれは嬉しいじゃないの。あなたのお父様もきっとお喜びになっているわ」
「はい。そのようだと私も嬉しいです」
やはり俺が妻を娶ったことはオルバノ夫妻の耳に入っているようであった。この場ではエセルの出身などを聞いてきたりはしなかった。それよりカイセイへの話に移る。
「カイセイ、あなたもよ? いつまで独身を貫くつもりなの?」
「ご縁がございましたらいずれ」
「まあ何を言っているのよ。あなただって負けないぐらい良い男なのに」
俺に対して「ねえ?」と問いかけてくる。俺は微笑みながら「ですね」ぐらいしか言えないが。なにせイアリス妃も前からカイセイのファンであるから、不本意でも否定出来るわけがないのだ。
話の流れでオルバノ王とは、最近の情勢について話すことになった。だがイアリス妃曰く、女性にはつまらない話題だそうですぐに離脱した。
オルバノ王は俺とカイセイを離したがらず、イアリス妃はエセルに興味津々で根掘り葉掘り質問を繰り返している。俺自身は分身したようになり、口ではオルバノ王に話を合わせ、耳はイアリス妃の会話に傾けていた。これは相当なテクニックである。
「お名前は何ていうの?」
イアリス妃はエセルに対して、まるで幼子相手のように話しかけた。
「エ、エセルと申します」
「エセルさんね覚えておくわ。まあまあそんな緊張しないで良いのよ。ほぉら笑顔、笑顔!」
ブリキのようにカチコチなエセルの頬を両手で掴み、むにゃむにゃ動かしていた。エセルもエセルで困惑しつつされるがままである。
「柔らか~い! 可愛~い!」
いや、遊ばれている。の方が正しいだろうか。
「おいおい、困っているだろう。やめてあげなさい」
オルバノ王がイアリス妃に叱るよう言った。……助かった。これでまた俺の口と耳をひとつの方向に向けることが出来る。
時に、オルバノ王が息子のことを口に出す。
「そういえば、さっきリュンヒンを見たよ。きっと近くにいるんじゃないかな」
「テダム殿は来られているのですか?」
「うーん、たぶん寝ているんじゃないかな」
オルバノ王が困っているのは声で分かった。
「あの子、こういうのは好きじゃないでしょう」
イリアス妃も困りながら言っていた。でも二人はそこまで気にしていないようである。あっけらかんとしてもう違う話題になっていた。
すると途中でイリアス妃が誰かを見つけたらしく、飛び跳ねながら手を上げだした。反射でその方を振り返ると、貴婦人と立ち話をしているリュンヒンが片手を上げていた。リュンヒンはその貴婦人と別れ、こちらに足早にやって来る。
「バル殿!」
「やあ、リュンヒン!」
彼がやってくるなりいきなり抱擁された。何度も肩を叩き会って再会を喜んでいる。
「君を探していたんだよ!」
「なにを。先程の貴婦人のことを口説いてんだろう?」
リュンヒンは白い歯を見せて笑い「当たり!」と言った。抱擁が解かれたかと思うと、リュンヒンが貴婦人に投げキッスを送っていた。また貴婦人の方からも投げキッスが返ってくる。
「随分年上じゃないか。どういう関係だ?」
「そりゃあもう”イイ関係”としかここでは言えないね」




