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Routes 3 -アデュラリア-  作者: ひまうさ
四章 女神の眷属
53/59

53#よくある誘い

 オーサーから逃げて直ぐ、私はあの不思議な通路へと身を隠すつもりだった。

 でも、思うようにならぬのが、世の理のようだ。


 私が向かう通路の先、先ほどオーサーらが来た方向から、石畳の床で靴音を高く鳴らし、ゆったりとした足取りで歩いてくる男がいるのをみて、私は足を止めた。

 さっきの場所から十歩も離れていない距離だし、タイミングとしては一番最悪だろう。

 今は多分呆然としているとしても、我に返ったオーサーに捕まる訳にはいかないというのに。


 だいたい、あんな感情を、幼馴染にどうやって説明したらいいのかわからないし。

 そもそも、まだ自分自身落ち着いていないのだ。

 今はとにかくオーサーから逃げるしかない。


「アデュラリア様、どちらへ行かれるのですか?」

「イェフダ様」


 先ほどの余韻で震える私の声に、彼はどこか残念そうに微笑む。

 足取りの止まらない彼に対して、腰を落として、構えてしまう私との距離は縮まるばかりなのだけど。

 私は一歩も動けずにいた。


 ラリマーは、これはイェフダ様の本位ではないのだと言っていた。

 ここから導き出される結論を証明するためには、何かが必要なはずだ。

 物でも、印でも。

 そうでなければ、ならないはずだ。


ーーこの世界の女神が、そう定めたのだから。


 そこまで考えて、私は自分の考えついた答えに気が付き、ぞくりと肌が泡立つのを感じた。

 もしも、これが彼女たちの意思というのなら、私に逆らう理由はない。

 だが、そうでないのだとしたら。


「すぐに帰ってくるよ」


 村を出る前に、そうマリベルに言ったのは私だ。

 彼女が私を見つけ、救ってくれた。

 彼女だけは、悲しませたくはなかったのだけど。

 既に女神の宣言までしてしまった以上、帰ることは叶わないだろう。


「アディ!」


 背中にぶつかるオーサーの声音に、私はビクリと身を震わせる。

 考えている時間はないようだし、こうなったら直接聞くまでだ。


「貴方が何者でもいい。

 私を、私だけをここへ連れてきた目的は何?」


 私の問いかけに、オーブドゥ卿は口元に弧を描く。

 彼の細長い指がゆっくりと上を指し。


「門を開いて欲しいのです」


 天の門というものがあるのだと聞いたのは、それほど遠い過去でもない。

 ほんの数日の間のことだ。

 だから、私も直ぐに思い辺り、眉根を寄せた。


 女神とそれに連なるもの、或いは歴代の大神官でも片手に余るほどしか開けなかった、女神の世界とこの世界を繋ぐ門を開けと、オーブドゥ卿は言っているのだ。


「できない。

 私は方法を知らないもの」


 今まで夢で見た転生女神の記憶の中にも、そんなものは欠片もなかった。

 だから、これは本当のことだ。

 だが、彼は首を振って微笑む。


「ご心配には及びません。

 貴方はそこにいてくださるだけでいい。

 さあ、参りましょう」


 腰をかがめ、差し出されたオーブドゥ卿の手を前に躊躇したが、すぐに近づいてきたオーサーの声に、私は決意を固める。


「…本当にそれだけでいいのなら」

「アディ!」


 そうして、オーブドゥ卿の手を取り、振り返った私が最後に見たのは、必死に私に追いすがってくる幼馴染の姿だった。


 何しろ、直ぐ後で私の目の前の景色は一変してしまったのだから。


「…今度はどこよ」

「心配せずとも、王城内ですよ?」


 オーブドゥ卿に手を取られたまま私が見回すことができた場所は、小さな部屋だった。

 広さは大広間というほどではないが、大人が十人ぐらいは余裕で寝転がることができるぐらいある。

 そして、大人でも見上げることが困難が場所に、小さな人の頭程度の窓が等間隔に並んでいる。

 その小さな窓にガラスがある様子もないし、外から入ってくる明かりは完全なる陽光だ。

 その光で室内を見渡しても、何一つものがない。


(まるで、牢獄だ)


 出入口はどこにもない。

 まあ、その辺は魔法でここまで運ばれたのだから、気にしても仕方がない。

 きっと、特定の魔法か何かがあるのだろう。

 魔法を使えない私にわかるわけもない。


(いやまて。

 そもそも魔法でしか来られない場所に、どうして連れて来られたの?)


 ぞくりと肌を泡立てた私が振り返った時、背後で鈍い光が一閃した。

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