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Routes 3 -アデュラリア-  作者: ひまうさ
三章 女神の系統
37/59

37#よくある治療

 四方を積み重ねた白っぽい灰色の石で囲まれた、丸椅子二つと簡易ベット一つしか四畳半程度の小さな部屋一つしかない建物の中に、私はディの手で運び込まれた。ここはヨンフェン警備隊のルクレシア側の詰所であるという。飾り気ひとつない、この簡素な詰所には通常は当番の兵士二人が詰める程度で、主な警備兵はヨンフェンの町に紛れて生活しているということだ。


「外にいる」

 たった一言、それだけを残して、ディはあっさりと部屋から出て行った。お小言も何もかも後回しにして、とりあえずは治療を優先させるということだろう。大きな背中が出て行くのをぼんやりと見ていると、入れ替わりに小柄な兵士ーーだが、小さな魔石を複数身につけた魔法士と思しき者二人と共にジェリンが中へと入ってきた。


「なんでジェリンもいるの」

「気にすんなや」

「……別にいいけど」

 ここで口論しても仕方ない、と切り替えて、私は目の前の魔法士二人に頭を下げた。


「えーと、宜しくお願いします」

 二人は顔を見合わせ苦笑して返してきた。魔法士といっても軍属とだけあって格好はジェリンと大差ない。違いといえば、腰には剣の代わりに細長い杖を差し、腰に巻いたベルトや腕、胸、指になどいたるところに魔石が装着されている。大きさは二ミリにも満たない程度のもので、通常ならば判別できる色も分からないため、一見しただけではどんな効果があるのかわからないが、それでも数だけは多い。


 一人は私より少し年上ぐらいで、もう一人はフィッシャーぐらいの年齢に見える。名前は聞いたけれど、あいにくと私に覚える気がない。


「上衣を脱いでください」

 ここで恥じらう意味はないので、私は頷き、彼らに背を向けて服を脱いだ。着ているものはシャツと下着ぐらいなのだが、シャツを脱いだだけで、後ろで息を呑む複数の声がした。気にはなったが、続けて胸を抑えていたあて布を外す。


「ひどいの?」

 怪我の位置は右肺の少し上の肩辺りだが、自分の見える範囲に見えるのは小さな穴があるだけだ。普通の怪我ではないためなのか、既に血は止まっている。私自身の元々の治癒能力の高さもあるのだろう。その上、ハーキマーさんからもらった薬がまだ効いているので、私自身に然程痛みはない。


「ひどいというか」

「隊長、」

 魔法士二人のためらう声に、私は顔だけで振り返る。ひどく真剣なジェリンの視線が、まっすぐに私の背中を見詰めているのがわかり、私は訝しげに眉を顰めた。


 ジェリンにはふざけている様子はまったくなくて、それは確かに隊長と呼ばれるだけの格があって。かつての姿と重ならなくて、別人ではないかと疑いはじめた頃、彼は口を開いた。


「アディ、成長してへんな」

「は?」

「もう十五なんだし、あとチトぐらいはあってもえぇーと思うぜ」

 ジェリンの手元が何かを掬い上げるような動きをして、瞬間的に私は彼が何を言っているのかわかってしまった。つまり、この男は、この状況下で、私の胸が小さいことを指摘しているということだ。そりゃ、布を当ててなくても大きさに然程違いは出ないけど。


「あんたに何の関係があるのよっ」

 怒鳴り返した私を無視して、ジェリンが年上の魔法士に続ける。


「おい、こいつに治療のついでに豊胸の、」

 私が胸を脱いだ服で押さえたまま後ろ蹴りを放つと、ジェリンは笑いながら戸口へと逃げた。


「誰がそんなこと頼んだかー!」

「あぶねぇぜ、アディ。見えるぞ」

「出てけーっ!」

 ジェリンを追い出してから室内を振り返ると、魔法士二人は苦笑していて。


「……あの、隊長が言うほど小さくはないかと……」

「っ」

 余計なことを言う年若い魔法士を睨みつけた私は、悪くないだろう。


「治療だけ、お願いします」

 余計なことはするなと私が強く睨みながら言うと、魔法士二人は苦笑いしながら頷いた。


「お嬢ちゃん、痛くはないかい?」

 年嵩の魔法士に尋ねられ、私は痛み止めを服用中だと答えた。


「じゃあ、とりあえず、損傷箇所の修復と造血か。エリス、洗浄と修復だ。できるな?」

「はい」

 命じられた若い魔法士は真剣な顔で頷き、私の肩の傷口に、背中からひんやりと冷たい手を当てた。


「楽にしててください」

 緊張していた私に、穏やかな笑顔を年嵩の魔法士が向けてくる。


「えーっと、魔法、効きますかね?」

「おや、効かない体質ですか?」

「ジェリン……隊長さんからお聞きではないですか? 一応、女神の末裔なので、」

 口にした瞬間、肩で熱がはじけた。


「っ!」

 痛みに両目を閉じ、身体を丸めて呻いていると、焦った様子の声が室内で騒ぐ。


「え、ええっ!?」

「おちつけ、エリス」

「だ、え、女神っ!?」

「騒ぐな」

 ゴンと頭を殴られる音がしたかと思うと、どさりと私の足元に年若い魔法士が倒れて、頭を抑えている。


「すまんね、お嬢ちゃん。今度は私がさせてもらうから、もう少し我慢しててくれ」

 我慢て、聞き返すまもなく、肩の傷口に熱い掌が触れた。


「ーー吾女神に請い願うーー」

 そこから紡がれた力ある言葉は、私を大いに驚かせた。女神の力を使うものが残っているとは、思っても見なかった。


 僅かに痛みを持つ部分を中心に、わずかだが春の日差しのような暖かさが体全体に広がり、爪先にまで行き渡る。女神の治癒術なんて初めて施されるのに、何故か私は懐かしいと思ってしまっていた。これは、私の中の女神の記憶、なのだろうか。


「……おじさん、誰?」

 私が戸惑い、振り返ると、年嵩の魔法士は軽く肩を竦めた。


「ヨンフェン警備隊救護部隊隊長、メチル=エーテルって、最初に自己紹介しましたよね?」

「じゃなくて!」

「それから、私はおじさんじゃなくて、お兄さんです」

 何故か誤魔化すようなことばかりをいう年嵩の魔法士を睨みつけると、生温かな眼差しと苦笑を返された。それから、右手の人差指を口元に当てて、囁くように明かしてくれた。


「今生で女神様にお会いできて光栄です。私の系統(ルーツ)はただの葉っぱなんですけどねぇ。学院で研究していた失われた女神の力を使えることが二、三年前からわかりまして。今は研究の一環で、こちらで治癒をメインに実験をしているところなんですよ」

 学院というのはおそらく王都の王立学院を示しているというのはわかった。そこは素質とそれなりの身分が必要だと聞いているから、おそらくは彼もそれなりの貴族の身分を持っているのだろう。


「思えば、女神様の降臨が成されていたから、失われた力を使えるようになったんですかねぇ」

 軽い笑いを零した魔法士の言葉は、珍しく嫌味でなく、温かく私の心に届いた。


「ーー降臨はしてません」

「みたいですねぇ。まあ、どちらでもいいんですよ。私にとって重要なのは、この女神の力で何ができるかということですから」

 ジェリンに報告に行くと言って、メチルという魔法士がもうひとりのエリスという魔法士を引きずって部屋を出て行った後で。


 私は戸惑うままに、首に手をやり、ため息を付いた。


 女神の力が失われていたから、世界は女神を忘れたってことなのか。それとも、使えるものが使おうとしないうちに技が廃れて、消えてしまっていたのか。或いは、人々の魔力の保有量が減少しているのが原因なのか。


(フィッシャーたちなら、何か知ってるのかな)

 機会があったら、訊いてみてもいいかな、と考えながら、私は脱いだ服に手をかけた。






あぁぁぁ、キャラ増やしたくないのに、ふーえーたー!!!

でも、魔法士二人とも掘り下げると愉しそう。

しないですけど。

これ以上、掘り下げると、底の浅さがさらに露呈する!(今更…

(2013/04/23)

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